イスラエル・エジプト・UAEが異例の3首脳会談:中東はロシアより? 2022.3.25

ウクライナ問題と中東の関係

民主主義陣営がロシアに対する明確な対立を表明しているのに対し、イスラエルと中東はこの動きを慎重に見守っている。今、中東で最も大きな勢力を持っているのは、アメリカではなく、ロシアだからである。

イスラエルと湾岸諸国は、ロシアを刺激しないよう、ウクライナ問題では、できるだけ静かにしている。しかし、イスラエルについては、アメリカと最大の友好関係にあるので、特に難しい立場にあることはお伝えしてきたとおりである。

イスラエルは、ウクライナに武器支援(防衛用迎撃ミサイル含む)はしないが、人道支援に力を入れるなど、繊細な対応を続けている。

一方、湾岸諸国にはその遠慮がないことと、イランとの交渉において譲歩の姿勢をみせているアメリカに不信感がある。このため、ロシアへの経済制裁でエネルギー危機に直面する欧米が、湾岸諸国(サウジアラビアとUAE)に原油増産や、価格削減を要請しても、これに応じない態度を続けている。

今、中東はアメリカ離れ、ロシアよりという傾向のようだが、今後ウクライナ情勢がどうなっていくかで、これもまた流動的という方がいいだろう。

<ウクライナ問題のイラン核合意(JCPOA)交渉への影響>

ウクライナ情勢は、中東諸国にとっても、決して他人事ではない。今、中東で行われているもう一つの交渉、イランとの核合意再建に向けた交渉(JCPOA・米露中含む)に、ウクライナ問題が、影響を及ぼしている。

JCPOAは、昨年、イラン新政権誕生で一時中断したが、11月に再開された。アメリカと関係諸国は、イスラエルが警告する中、イランの核開発制限にそって、段階的に経済制裁を緩和していく案で、もうすぐというところにまでになっていた。

しかし、交渉は、合意寸前で、再び中断された。ウクライナ問題で、アメリカから激しい経済制裁を受けているロシアが、イランとの合意に賛同してもよいが、その後、ロシアとイランが、行う経済活動については、制裁から外すことを要求してきたからである。交渉はまた一時中断とされた。

しかし、その後、仮にロシアが不在であっても、それ以外の国々とイランとの合意が成立すればそれでいいという意見が浮上。なんとしてもイランとの核合意に至りたいアメリカは、新たに、イランの最強軍団、イラン革命軍をテロ組織指定から外すことを条件に、イランとの核合意を成立させようとする動きが出てきている。

これは、イスラエルにとっては、あってはならないことである。   日、ベネット首相と、ラピード外相は、そろって、これに警告を発する声明を出した。無論、これに反対するのはイスラエルだけではなく、湾岸諸国(シーア派イランと対立するスンニ派)も同じである。

シリアのアサド大統領が歴史的UAE訪問

こうした中、アブラハム合意で、イスラエルとの国交正常化に踏み切ったものの、アメリカには愛想をつかせはじめている湾岸諸国、UAEに、18日、イラン支配下にあるといってもよいシリアのアサド大統領が訪問し、アブダビで、ビン・ザイード・アル・ナヒヤン皇太子と会談を行った。

アサド大統領は、UAE国内の有力者らにも会見している。

アサド大統領が、湾岸諸国をこのような形で訪問するのは、11年前に内戦が始まって以来である。アサド大統領は、ロシアと組んでシリア人に対する激しい攻撃を行った。その手には確実に多くの人の血がついている。このため、これまで、湾岸諸国は、シリアとの関係を閉ざしていたのであった。

ところが、今、特に、またロシアがウクライナに同じようなことをしている時に、アサド大統領を受け入れたUAEに対し、アメリカは強い批判の声を上げた。

しかし、UAEとしては、「アメリカは、中東から手を引く動きにあり、もはや中東を守らないようなので、今後、中東は中東で自衛しなけれなならない。そのためには、よりイランやシリアに影響力のあるロシアに接近することもありうる」という、強いメッセージであったと分析するメディアもある。

当然ながら、湾岸諸国とシリア(背後にイラン)が接近することはイスラエルにとっては、好ましい状況ではない。

www.bbc.com/news/world-middle-east-60804050

イスラエル、UAE、エジプトが異例の3首脳会談:シナイ半島にて

この直後である。22日、ベネット首相は、エジプト、シナイ半島のリゾート地、シャルム・エル・シーカーを訪問。エジプトのシーシ大統領と会談し、ベングリオン空港からカイロへの直行便に加えて、シャルム・エル・シーカーの直行便を、早ければ4月から開始することで合意した。

ここは、イスラエル人が好むリゾート・ビーチであり、治安の問題はあるが、直行便ができれば、利用する人は少なくないだろう。ベネット首相は、昨年9月にエジプトを訪問し、シーシ大統領と会談したが、その時から、この件について話し合っていたとみられる。

www.timesofisrael.com/israel-egypt-expand-direct-flights-with-new-tel-aviv-sharm-el-sheikh-route/

その後、ベネット首相とシーシ大統領に、UAEのビン・ザイード・アル・ナヒヤン皇太子が加わって、3者首脳会談が行われた。イスラエルとアラブ諸国の間の単独訪問はあるが、このような服数国での首脳会談を行うことは非常に異例である。

UAEとイスラエルは、アブラハム合意を締結している。アメリカとイスラエルはこれに加わる中東アラブ諸国を増やしたいと考えているが、サウジアラビアもアメリカ離れが進む様相で、今のところ増える見通しはない。

このため、イスラエルと和平交渉を締結しているエジプトとヨルダンを、アブラハム合意の枠組みに入ってもらう努力が続けられているという。今回の3カ国首脳会談は、これに一歩近づいた形である。話し合われた内容は以下の通りである。

1)世界情勢、中東の防空体制強化、イラン核合意関連

3者はウクライナ情勢と中東におけるパワーバランスの変化などを話し合った。UAEを訪れたシリアのアサド大統領についても、ナヒヤン皇太子から報告があったと思われる。

また、イスラエルは、レーザーによる防空システムの導入を計画していることを報告。迎撃ミサイルでは追いつかない数のロケット弾、ミサイル、またUAVからも領地を守ることができるようになる。まずは、イスラエルの防衛、そして中東の友好国にも販売していく予定である。

またアメリカは、JCPOAでのイランとの核合意を再建する目的で、イラン革命軍をテロ組織指定からはずそうとしているとの情報が話し合われた。

2)観光・食糧事情

世界情勢の大きな変化により、観光業がなかなか回復しないでいる。このため、3カ国は、3カ国の間で、経済活動を活発化することも話し合った。

ロシアとウクライナは世界の穀物需要の25%をカバーしていた国である。中東では、エジプトは必要な穀物の80%を、ロシアとウクライナから輸入している。イスラエルは50%である。ウクライナでの戦争が長引くことで、中東とアフリカに深刻な食糧難が来ると言われている。イスラエルは、穀物が今後不足する事態に備えて、穀物の搬送を優先するとしている。

エネルギー供給にも課題が出てくるだろう。3首脳はこれについても話し合ったとみられる。

www.timesofisrael.com/bennetts-egypt-summit-touched-on-assads-uae-visit-air-defense-bilateral-trade/

将来、北の大国がイスラエルを攻撃しにくる際、これらの国々は、イスラエルへの軍事支援はしないとしても、手は出さないという図式がはじまりつつあるとも思えてくる。(エゼキエル書38章)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。