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水面下で続くイランとの対立だが、きな臭い状況がだんだん顕著になりはじめている。ここでは、北部ヒズボラとレバノンに関与するイランとの対立をまとめる。
イスラエル(?)がシリアのヒズボラ関連施設を攻撃:ダマスカス周辺
シリア国営放送によると、30日の白昼、シリアの首都ダマスカス郊外3箇所が、地対地ミサイルによる攻撃を受けた。これにより、親イラン武装兵5人が死亡。シリア兵2人が負傷したとのこと。イギリス基盤人権保護監視団体によると、破壊されたのは、ヒズボラとイランの武器管理施設であった。。
シリアのメディアは、ミサイルが占領地(イスラエル)北部から発射されていたと報じ、イスラエルを非難している。これに対し、イスラエルはノーコメントである。
Syrian state media reports air defenses are engaging Israeli airstrikes near Damascus. This is an extremely rare daytime strike, and on a Saturday.
— Emanuel (Mannie) Fabian (@manniefabian) October 30, 2021
この数日前の27日月曜には、ゴラン高原(シリア側)で、ヒズボラ関連の施設が攻撃されていた。この攻撃の後には、「フセインより」として、地域住民にヒズボラとの連携をやめるよう警告するちらしが、イスラエル空軍機とみられる飛行機から散布されていたと伝えられている。
www.timesofisrael.com/israel-said-to-hit-targets-near-damascus-in-rare-daytime-syria-strike/
連続するヒズボラ関連施設への攻撃がイスラエルによるものかどうかは、イスラエルが認めていないので、表現しにくいが、おそらくはイスラエルによるものとみられる。攻撃を受けた地点は、イスラエル本土への攻撃が可能とみられる地点だからである。
また、シリア領内への攻撃については、本来、ロシアが反撃してきてもおかしくはないのだが、先に、ラピード外相、ベネット首相が、プーチン大統領と会談し、無介入の約束をとっている。確かにロシアは動く様子がない。この点からも、これらの攻撃が、イスラエルによるものであるとみるのが自然だろう。
ヒズボラを攻撃するのは今?:混乱のレバノンに進出するヒズボラとイラン
ではなぜイスラエルが、これほどまでにアグレッシブな攻撃を行うのか。イランを背後にしたヒズボラが、徐々にシリア領内でイスラエルに接近していることがまず一点。それからヒズボラが関与するレバノン政府が非常に不安定で、今ならヒズボラがイスラエルを相手に戦う状況にないという点が考えられる。
レバノンでは、昨年7月にベイルートの港で巨大爆発事故が発生し、前政権が総辞職して政治の空白状態に陥っていた。新しくミカティ首相と新政権が立ち上がったのは、今年10月になってからである。この空白の間に、レバノンの経済はいよいよ崩壊寸前にまで陥ったのであった。
この状況の中、レバノンのために奔走しているのが、ヒズボラとイランである。このため、レバノンが落ち着く頃には、レバノンがイランの傀儡国になっていることもありうる。その懸念からも、今できるだけ、ヒズボラやイラン関連で危険なところは破壊しておくことが重要とも考えられる。
*ヒズボラの要請でレバノンに燃料を運搬するイラン
レバノンは、昨年の爆発事故前の3月にすでに、債務不履行を宣言していた。要するに借金を返せないと宣言したということである。その4ヶ月後に、物流の中心である首都ベイルートの港で、爆発事故が発生し、いよいよ経済が崩壊するに至った。その後、レバノンでは、極端なインフレとなり、人々を苦しめている。さらには、燃料を購入できないことから、全土で停電する事態になっている。
www.nikkei.com/article/DGXZQOGR025L0002082021000000/
こうした中、ヒズボラは、イランとの連携で、燃料をレバノンに配給するよう働いた。しかし、イランは国際社会の経済制裁のために、石油を海外へ運搬することが禁じられている。イスラエルとしても、燃料がヒズボラに流れるとすれば、治安上、看過できない状況になる。
しかし9月、イスラエルは、レバノンの悲惨な燃料不足を鑑み、イランの燃料(ディーゼルオイル)が、レバノンに入ることを妨害しないと発表したのであった。以後、燃料を載せたイランの船は3回、レバノンに到着している。搬送された原油は、一回につき、5万リットルを運ぶタンカー60台分とのこと。
www.timesofisrael.com/israel-wont-interfere-with-hezbollah-run-oil-shipments-from-iran-to-lebanon/
イスラエルがレバノンと戦争に備えた緊急事態への大規模訓練開始
31日、イスラエル軍と国防省国家危機管理庁は、レバノンとのフルスケールに備えた訓練を開始した。訓練は、軍と、警察、消防、救急隊、医療体制などが協力して行う、文字通り国家総力をあげての訓練である。期間は1週間。
イスラエルでは今年5月、ガザとの戦争において、予想以上のロケット弾が同時期に撃ち込まれ、十分に対処することができなかった。またこの時、まったくの予想外に、国内にいるアラブ人が反発して、国内が混乱に陥ったのであった。
今回の訓練は、この時の教訓によるものだが、ヒズボラとの戦争になった場合は、ガザとの戦争とは、まったく比べようもないほどに大規模になると予想される。ヒズボラがイスラエルに対して準備しているミサイルは、10万発を超えるとされ、高度な誘導ミサイルも含まれている。
1日に2000発がテルアビブや、エルサレムにも届いてしまい、迎撃ミサイルが対処できない数になる可能性もある。さらには、生物化学兵器、イスラエル国内の危険物質倉庫が攻撃されることも想定。停電や医療崩壊の事態にも備えなければならない。
イスラエル軍国内対応部は、連続してふりそそぐロケット攻撃の際の早期警報システムをより効果的にするため、大きな市では、エリアを分離して、より効果的な警報システムを構築する。たとえば、危なくない地域にまで警報をならすと、多くの人々がパニックになって避難誘導が難しくなるなどである。
原子力・生物・化学兵器対処班は、国境付近での生物科学兵対処や、危険物資が漏れた際に、軍と協力して、群衆を避難させる訓練を行う。北部の病院は、負傷者が押し寄せる事態を想定した訓練を、またそこからヘリや救急車でイスラエル中央部への搬送の準備と訓練も行う。
国内での暴動が発生した際の対処には警察があたる。今回の訓練で何が大きな課題かを分析しながら訓練を行う。