イスラエルのタンカー攻撃:イランによるものとアメリカも断定 2021.8.2

スクリーンショットhttps://www.youtube.com/watch?v=CwMnNQ9WruE

オマーン湾でイスラエルとイランの対立緊張

7月29日、タンザニアからUAEに向かっていたイスラエル企業が運行(船主は日本企業)するタンカーが、オマーン湾で攻撃を受け、ルーマニア人(船長)とイギリス人(警備員)が死亡した。後の調べで、イラン製の自爆ドローン複数が、操縦室の下にある船室に侵入。2人を殺害したとみられている。

事件の後、アメリカ海軍第5艦隊の爆弾専門チームが船内に入り、安全性を確認。第五艦隊は、被害にあった船をエスコートして安全な港に誘導後、詳しい調査を行っている。攻撃がドローンによるものであったということは、この第五艦隊エキスパートが発表した情報である。

オマーン湾ではここしばらく、イスラエルとイランが戦闘に入ったかの様相になっていた。イスラエルは、イランからシリアに原油などを運搬しようとするタンカーや輸送船を、海雷などで攻撃。対するイランは、今年2月と3月にオマーン湾で、イスラエル企業の輸送船をミサイルなどで攻撃していた。

同時にイスラエルは、シリアに進出するイラン関係地点への空爆をかなり頻回に実施ているとみられ、イラン軍関係者やヒズボラ戦闘員の間に死者も多く出るようになっている。これは、まもなく、発足するイランの強硬派とされるライシ政権を前に、先手を打っておくというねらいがあるかもしれない。

この流れの中での攻撃で、海上では初めて、死者が出るほどの攻撃になったということである。

強硬派ライシ政権就任を前にイランが方向転換か?

イランは、これまでは、イスラエルの海上での攻撃には海上で、同レベルの死者が出ない範囲の反撃でやり返してきていた。しかし、今回の攻撃が一歩踏み込んで、死者まで出していたことから、イスラエルが行なっているとみられるシリア国内での攻撃(イラン軍やヒズボラに死者)に対しても、海上で反撃するようになった可能性があると分析されている。これが、まもなく、イランで8月3日に発足する強硬派ライシ政権の足音であるとの見方もある。

このほか、イランでは、7月初頭、強力なハッキング攻撃で、全国の列車ダイヤが大混乱に陥った。またこれに続いて、数多くの不可解な爆発などが発生していた。イランはこれらをイスラエルによるものと非難していた。これらに対する反撃ではないかとの見方もある。

www.timesofisrael.com/hack-causes-chaos-on-iran-trains-posts-supreme-leaders-number-for-complaints/

しかし、イスラエルのラピード外相は、今回のオマーン湾での事件が、重要な公共流通海域で発生しており、戦闘が国際社会にまで影響する形に拡大したとして、「これはイスラエルだけの問題ではない。国際社会の自由な流通を危機に陥れる世界の問題だ。」とイランへの対抗姿勢を表明した。

その上で、31日、アメリカのブリンケン国務長官との会談に入った。ガンツ防衛相は、30日、イスラエル軍のコハビ参謀総長と会談。反撃の可能性を話し合ったとみられ、緊張が続いているが、今のところ、大きな動きはない。

www.timesofisrael.com/multiple-iranian-drones-used-in-deadly-attack-on-israeli-operated-ship-report/

これらの後、ベネット首相も、ラピード外相と同様にイランを非難する声明を出した。

アメリカとイギリスが公式にイランを非難

1日、アメリカとイギリスは、正式に、オマーン湾で2人の死者を出したタンカー攻撃が、イランによるものであった認める声明を出した。ブリンケン米国務長官は、国際流通を脅かすこのような攻撃は許されないとして地域の国々と、どのような対処をするか検討していると述べた。

イギリスのラアブ外相は、イランによりる国際法違反であり、イランはこうした攻撃をやめなければならないと述べた。

イランの反応

8月1日になり、イランのハティブザデ外相は、イランの攻撃を根拠がないとして否定。こうした非難の応酬は今に始まったことではないとして、この騒動は、イスラエルの新政権が中東にその足掛かりを強調しようとしているだけのことだと述べた。

www.timesofisrael.com/iran-denies-baseless-israeli-claim-it-struck-ship-in-deadly-attack/

確かに、被害にあった船は、ややこしいが、船主は日本人。旗印はリベリア(西アフリカの国)で、乗組員は多国籍労働者。しかし、運営者が、イギリスを拠点に置く会社で、その社長が、イスラエル人億万長者のエイヤル・オフィル氏ということである。

明確にイスラエルの船が攻撃され、イスラエル人が殺されたというわけではないので、イランがこのような言い方をしているのだろう。

このためか、ラピード外相の国際社会へのよびかけに答えたのは、アメリカとイギリスだけであったということである。今後、どうなっていくのかは不明だが、大きな軍事衝突になっていくことはまずないのではないか。

INSS(イスラエル治安研究所)アモス・ヤディン元イスラエル軍諜報部長官は、この攻撃による犠牲者が、イスラエル人ではなくイギリス人とルーマニア人であったことは、イランにとって大きな失策であったと語る。

イランもそれをわかっているので、これ以上の騒ぎにはしないだろうとみている。同時に、イスラエルも、今大きく反撃する必要はないわけである。

しかし、アメリカとイランの溝がさらに深まることとなったことは確かであり、アメリカがイランとの核合意に戻る可能性が、さらに難しくなったと考えられる。イランと欧米、イスラエルとの対立がさらに深まったということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。