世界初3回目接種開始:イスラエルで新規感染者2328人:重症者・死者も増加中 2021.7.30

3回目ワクチン接種を受けるヘルツォグ大統領夫妻 Photos By : Haim Zach / GPO

イスラエルで増える感染と重症化でワクチン3回目開始

イスラエルでは、26日から1日の新規感染者が2000人を超えて増加を続けている。重症者も増えて昨日159人。死者は毎日1―2人。

イスラエルは、世界の中でトップレベルで国民の間でワクチン接種が行われている国である。国民920万人中、570万人が少なくとも1回接種を終えており、国全体の集団免疫は60%とみられている。それでもデルタ株になってからは、感染が拡大し、重症化する人も出ているということである。

専門家たちは、今、決定的な対策を講じないと、第3波のように重症者が増えて、病院を圧迫することになると、警鐘を慣らしている。

特に注目されているのは、6-7ヶ月前に接種を終えた高齢者の中から感染して重症化する人が出ている点。ファイザーのワクチンが、時間の経過とともに効果が薄れることが否定できなくなっている。

このため、かなりの議論が行われた結果、ベネット首相は、免疫機能が弱い人に加えて、一般の60歳以上の高齢者への3回目の接種を承認。今日30日から、接種が開始された。

www.jpost.com/health-science/israels-two-week-window-to-halt-the-4th-covid-19-wave-675199

ニュースでは、ヘルツォグ大統領夫妻が、3回目のワクチン接種を受ける様子が報じられた。

www.timesofisrael.com/israel-begins-administering-3rd-covid-vaccine-dose-to-the-elderly/

シェバ医療センター:ワクチン専門家エイヤル・レシェム博士の説明

エイヤル・レシェム教授
シェバ医療センター

3回目の接種については、アメリカのファイザー社もまだ治験中である。イスラエルはその結果を待たずに、3回目の接種に踏み切るということで、いわば、あらたな集団人体実験であることを意味する。

これについて、ウイルス、ワクチン学でイスラエルやアメリカでも経験を積んだ専門家で、コロナ中核病院のシェバ医療センターのレシェム博士は、次にように説明する。

本来ならファイザー社の治験結果を待つべきだが、そうなると半年、もしくはそれ以上待たなければならない。今のイスラエルの感染拡大をみると、ファイザーからの結果を待っていた場合のリスク(多数の重症者が出て病院が崩壊・死者も増える)は、3回目のワクチンから発生するかもしれないリスクをはるかに上回る。

このリスクを避けるために、イスラエルは、自分の判断で先手をうって、3回目の接種に踏み出すということである。しかし、未知のことでもあるため、3回目接種の対象となるのは、60歳以上の高齢者ということになった。若年層にまでは広がらないとレシェム博士は予測する。

これについて、バルイラン大学の免疫学者ジョナサン・ゲルショニ博士は、3回目の接種は、危険ではないが、効果も期待できないと言っている。ゲルショニ博士としては、ワクチン接種を受けている人の3回目を考えるよりは、まだワクチンをしていない110万人をどうするのかに力を注ぐ方がいいのではと言っている。

www.timesofisrael.com/experts-third-vaccine-dose-for-elderly-might-not-help-but-it-wont-hurt-either/

意見はいろいろあるのだが、やってみないとわからない。ともかくも3回目は始まる。結果はどうあれ、イスラエルでのワクチン接種は、ファイザーに特化していることと、国民の医療情報がデジタルで管理されているので、ワクチンの効果に関するデータは、科学的にも有益だとレシェム博士は語る。世界に先駆けて3回目を行うイスラエルのデータは世界の役に立つということである。

このためか、ファイザーからは、8月1日に、新たなワクチンが大量にイスラエルに届くことになっている。

ワクチン拒否者はまだ110万人いる

イスラエルには、まだ100万人以上のワクチン拒否者がおり、ベネット首相の呼びかけにも、反発はしても、気を変えて、接種に行く様子はあまりない。さらに、ワクチン拒否者の間では、3回目の接種を始める様子をみて、ワクチンをする意味はないのではないかとの声もある。

これについて、レシェム博士は、ファイザーのワクチンは、コロナの感染を予防するというよりは、重症化を予防すると考えるべきだと訴える。確かに感染を予防するという視点では、残念ながら、効果は期待以下ではあるが、重症化を防ぐ率は、他の抗ウイルス剤よりもはるかに高く90%以上である。また、同時に、このワクチンの安全性も優秀であることがわかっている。総じて、コロナに対するワクチンは、非常に優秀であると考えるべきだと訴える。

また、ワクチンが足りない東アジアに比べて、イスラエルにはワクチンが十分ある。にもかかわらず拒否する人々がいるのは残念すぎるとレシェム博士は、葛藤の思いを語っていた。

ベネット首相のコロナ対策に疑問?

ベネット首相は先週、できるだけ、ロックダウンは避けるとしてウイズコロナの方針を打ち出した。その上で、国民に、「ワクチンをしない人は国を苦しめている」と言い、半強制的な様相でワクチン接種をすすめている。

また空港での水際対策強化、渡航赤信号国を増やすなどもすすめる。マスク着用義務、ワクチン接種、陰性証明を表すグリーンパスの利用再開させた。

エルサレムアッセンブリーでは、礼拝に来る人にグリーンパスの提示を求めないことを決めたため、礼拝には100人が最大とされた。幸い部屋が2つあるので、最大200人ということになる。今週から、出席の予約制度を再開させたている。

ベネット首相が、ロックダウンを避けたウイズコロナを目指す理由は、経済への影響も大きいが、政府は、この1年半の間のロックダウンで、子供たちの教育に大きな影響が出たことを深刻に捉えていることも一因である。

今は夏休みだが、9月1日には必ず新学期を始めなければならない。

イスラエルでは、12-15歳のこどもたちへのワクチンを行なっているほか、5-11歳のハイリスクの子供たちへの接種も開始している。これまでのところ、子供たちの間で、深刻な副反応の報告はない。

また、学校での感染予防策として、陽性が出た子供は、家で数日隔離した後、簡易型抗体検査で、陰性になれば、登校を許可するといった方策も実施している。

www.timesofisrael.com/israel-to-start-vaccinating-kids-aged-5-11-who-have-severe-background-illnesses/

しかし、チャンネル12の調査によると、ベネット首相のコロナ対策を評価しないと答えた人は52%で、評価すると答えた人は39%だった。

コロナ対策については、ネタニヤフ前首相の方がうまく対処していると答え他人は39%、ベネット首相の方がよいと答えた人は21%であった。ネタニヤフ前首相はこのデータを誇らしげにFBにアップしていた。

www.timesofisrael.com/bennett-calls-on-israelis-over-60-to-get-third-covid-vaccine-dose/

石のひとりごと

日本でも感染者数は増え続けているが、日本の場合、ワクチンをしていない若者たちの間で、感染がひろがっている。

いわば、イスラエルは、日本のはるか先を行っているのであり、やがては、日本も高齢者に感染が広がり始めて、3回目をするようになってくるのかもしれない。

今、イスラエルがやっていることは、未知のものと戦いである。それが成功するか、無駄に終わるか、もしくは失敗に終わるかどうかはわからない。後から行く世界の国々は、イスラエルの成功からはもちろん、失敗からも学ぶことができる。未知の世界を先を行くイスラエルの上に、主の導きと守りがあるように。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。