アラブ・サミットは一致も不一致も露呈:サウジアラビアとイラン首脳が会談 2023.11.13

スンニ派・シーア派超えるアラブ・サミット

11日、ガザ情勢が、人道的にもただならぬ様相になってきたことを受けて、アラブ連盟と、イスラム協力機構が、サウジアラビアを議長国として、その首都リヤドに集まり、ガザ問題を協議した。

会議には、シーア派、スンニ派の枠を超えて、イランのライシ大統領、シリアのアサド大統領、トルコのエルドアン大統領、エジプトのシシ大統領、ヨルダンのアブドラ国王、パレスチナ自治政府のアッバス議長などを含む、錚々たる57カ国のイスラム諸国首脳が勢揃いしていた。

今回、サウジアラビアとイランの首脳は、今年3月に国交正常化に踏み切ってから初めての顔合わせとなった。

*アラブ連盟(1945〜)
アラブ連盟は、第二次世界大戦がまだ終わっていない、1945年3月に創設され、本部はカイロにある。エジプトは、1979年にイスラエルと和平条約を締結したため、一時追放されていたが、1989年に復帰した。現在加盟国は、イラン含まない21カ国。

*イスラム協力機構(OIC:Organization of Islamic Cooperation)(1969〜)
イスラム協力機構は、全世界のイスラム強国57カ国と、オブザーバー国5カ国、8組織からなる、文字通り、世界のイスラム諸国16億人が関係する組織。イランやパレスチナ自治政府も含まれる。*世界最大はキリスト教徒が21億人

基本的にアラブ連盟は、イスラエルが建国する直前に設立され、これに反対する勢力で、イスラム協力機構は、キリスト教徒による神殿の丘での放火テロ(第三神殿設立を実現させてキリストの再臨を早めようとするテロ)後に発足しており、いわば、世界のキリスト教(欧米勢力)の前に備えようとするイスラム勢力といえる。

この2つの組織の違いは、イランが入っているかどうかが大きなポイントで、会議では当初、アラブ連盟とイスラム協力機構は別々に会談する予定であったが、最終的には一緒に行われることとなったという。

結果的に、合意できる点とは別に、やはり一枚岩ではないことも露呈した形となった。

イスラエル非難と停戦要求では一致:イスラエルへの石油禁輸では一致できず

1)一致している点

リヤドでのサミットでは、イスラエルがガザでハマスに対して行っている戦争は、自衛であるというイスラエルの主張を否定。パレスチナ人に対して行われた犯罪の責任は、占領者(イスラエル)にあるという点で合意した。

これは、パレスチナ人に対する戦争犯罪であり、テロ行為だとしてイスラエルを非難するとともに、即刻停戦することを要求する声明を出した。

また、今後について、イスラエルへの武器販売(中東経由のアメリカの武器)を禁止し、ガザ地区をはずした西岸地区だけを対象としたイスラエルとパレスチナの和平交渉は受け入れないとした。(近年、イスラエルはガザがハマス支配下にあることから、西岸地区に限定した認識でパレスチナ自治政府との交渉をすすめようとしていた。)

2)一致できない点

イランのライシ大統領は、イスラエル軍をテロ組織に指定すべきだと主張。紛争の根本的な解決は、ヨルダン川から、海までをパレスチナの国にすること、言い換えれば、イスラエルを抹消することであると主張した。

さらにイランは、イスラエルと関係を持つ国々への石油禁輸政策を主張した。これらのことについて、エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、UAE,バーレーン、スーダン、モロッコ、モーリタニア、ジブチがこれに反対票を投じた。

www.timesofisrael.com/muslim-leaders-blast-israeli-crimes-iran-solution-is-palestine-from-river-to-sea/

中国が仲介したサウジアラビアとイランの国交正常化以来の会合

サウジアラビアとイランは、今年3月に中国の仲介で国交正常化に踏み切って以来、初めての首脳が直接出会う機会となった。それまでの両国の関係の経緯は以下の通り。

サウジアラビアは、メッカがあるアラブ・スンニ派イスラム教の最大国。イランは、ペルシャでありシーア派イスラム教国である。

イランは、かつてパーレビ国王の元、新米であったが、1978年のイラン革命で、一気にイスラム教国に変貌した。以後、サウジアラビアとイランは、イエメンでの代理戦争、シリア内戦においても対立する宿敵となり、2016年、両国は国交断絶となった。

こうなると、同じ敵を持つものとして、サウジアラビアとその周囲の湾岸諸国は、アメリカやイスラエルとの協力に踏み切るようになった。2020年にはアブラハム合意も成立。イスラエルとUAEが国交正常化に踏み切り、バーレーン、モロッコ、スーダンもこれに続く流れになっていた。

こうした中、サウジアラビアの次期国王と目されるモハンマド・ビン・サルマン皇太子は、アメリカの仲介で、イスラエルとの国交正常化の気配もみせるようになっていた。

このように中東情勢が欧米よりに傾く気配にある中で、進出してきたのが中国である。中国は、中東での積極的な外交を展開し、今年3月に、サウジアラビアとイランの国交回復にこぎつけていた。

www.nids.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary269.pdf

これが今後どのような影響を及ぼしていくのか。ハマスとイスラエルの戦争で、中東諸国が欧米離れになっていくかはまだ見通しは立たない・・・

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。