イスラエルが4回目の囚人釈放を保留にしたのに続いて、パレスチナ自治政府のアッバス議長は1日、国連15組織への加盟申請書に署名したと発表した。将来、国連加盟国として承認されるための一歩である。
イスラエルが囚人を釈放しないことも、アッバス議長が国連へアプローチすることも、和平交渉の継続条件を破棄することを意味する。
さらにケリー国務長官も、2日に予定されていたアッバス議長との会談をキャンセルした。和平交渉はいよいよ破綻かというニュースが駆け巡った。
しかし、ケリー国務長官は、「破綻と決めつけるのはまだ早い。4月29日までは対話を続けると双方とも言っている。」と強調している。
<ケリー国務長官の切り札>
アッバス議長が国連へのアプローチを進める直前の31日、ケリー国務長官がパリからトンボ帰りでエルサレム入りし、ネタニヤフ首相と会談。その時に、大きな切り札を切っていたことが明らかとなった。
その切り札とはアメリカの刑務所で終身刑で服役中のイスラエル人スパイ・ジョナサン・ポラードの釈放である。
ポラードは、アメリカ国内でイスラエルのためにスパイ活動を行ったとして逮捕、収監され、今年29年目になる。ポラードの釈放は、これまでに歴代首相がその返還をアメリカに要請したが、ことごとく却下されてきたというイスラエルの悲願である。
ニュースによると、ケリー国務長官は、もしイスラエルが、和平交渉を2015年まで(今年末まで)延長させるため、パレスチナ人の囚人400人を釈放し、さらに入植地の建設を凍結方向で検討するなら、このポラードを返還するとの取引を持ちかけたのである。
400人の囚人の中にはマルワン・バルグーティの名前も含まれているという情報がある。バルグーティはかなりのカリスマ性を持つ強力な指導者で、これまでイスラエルが徹底して釈放を拒否してきた人物である。
<紛糾するイスラエル政府>
ケリー国務長官のこの切り札をめぐって、イスラエル政府は分裂する勢いで紛糾している。
ー和平交渉を継続して時間稼ぎは必要だ。ポラードを過越までに帰還させたい。しかし、400人もの囚人釈放と入植地凍結との交換は、赤線を超えた要求だ。受け入れるべきでないー。
アメリカにいるポラード自身は、昨日の仮釈放に向けた審議を欠席したという。自分の身柄と引き換えにパレスチナ人が400人も釈放されることをポラード自身は望んでいないと伝えられている。
アメリカ国内でも、アメリカの治安を損ねたスパイを、中東問題の道具として釈放することについて批判する声が高まっているという。
<今後どうなっていくのか>
もしイスラエル政府が、ケリー国務長官の提示した取引を受け入れた場合、和平交渉は今年末まで延長される。もし受け入れなかった場合、和平交渉は頓挫する見通しとなる。
ラマラの統計局ディレクター(パレスチナ人)のカリル・シカキ博士が予想するところによると、おそらく和平交渉は頓挫する。
しかし、それですぐに西岸地区のパレスチナ人が、暴力に出てくる事はないという。ガザのパレスチナ人は別として、西岸地区のパレスチナ人は、これまでのインティファーダで自らも大きな痛みを経験し、暴力が得策ではないと十分経験しているとシカキ博士は解説する。
暴力ではなく、国連へのアプローチをすすめ、イスラエルを国際法廷に訴える。同時にイスラエルへのボイコット運動を加速させるだろうと語る。
するとイスラエルは代理徴収している税金を再び差し押さえる。アメリカも支援を停止するなどして、結局は徐々にパレスチナ自治政府は力を失っていく。
そうなると自治政府自身で過激派を押さえられなくなり、テロが発生し、イスラエルが介入せざるを得なくなる・・・というのが、シカキ博士が予想するシナリオである。
しかし、そこはイスラエル。中東である。思わぬことがおこることもありうる。しばらくは目を離せない状況である。