<シリア停戦から直接交渉へ>
シリアで停戦が始まってから約2週間。シリアでは、あちこちで衝突はあるものの、おおむね停戦は守られており、ダマスカスではカフェに座る人々の姿も報じられている。
Wall street Journal (3/9)が、UNからの情報として伝えたところによると、緊急に支援を必要と刷る孤立者180万人のうち、これまでに人道支援物資は24万人に届けることができたという。
www.wsj.com/articles/syria-cease-fire-to-continue-u-n-says-1457547080
これを受けて、国際社会は、今回は和平交渉も可能かもしれないとのうすい期待から、延期になっていたアサド政権と反政府勢力の双方の代表による直接交渉を14日、ジュネーブで開始した。
しかし、事はそう甘くない。1日目より、「アサド大統領・留任」だけは、絶対譲らないとする政府側と、「アサド大統領・退陣」だけは譲れないとする反政府勢力は、まっこうから対立。にらみあっているだけの”和平交渉”になっているもようである。
<プーチン大統領・撤退宣言>
その和平会談が開始されてから2日目、プーチン大統領が突然、9月から軍事介入していたロシア軍を撤退させる発表し、世界を驚かせた。アメリカにも前連絡はなく、オバマ大統領もびっくりぽんだったのではないかとみられている。ロシア軍は、さっそく火曜朝から撤退を始めている。
しかし、撤退とはいえ、完全にいなくなるわけではなく、タルトゥスの軍港(ロシアの唯一の地中海へのアクセス)にはロシア海軍が駐留し、ラタキヤ近郊に建設したヒメイミン空港に、戦闘機などの一部は残すなど、重要なところはしっかりと押さえたままとなっている。さすがにぬかりはない。
また空軍による空爆(対ISIS?)は継続すると言っている。要するに、シリア領内に駐留しているロシア軍の主要陸軍が撤退するということである。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4778688,00.html
今回、プーチン大統領は、「目標を達した。」と撤退理由を述べた。しかし、もともとの介入の目標はISIS撃退であったはずである。それはまだ達成されていない。いったい何をもって目標を達成したというだろうか。
<ロシアは何を達成したというのか>
ロシアのセルゲイ・ショイグ防衛相によると、ロシアが昨年9月からのシリアへの軍事介入で変わったことといえば、次の通りである。
1)6ヶ月で空爆9000回。”無法者”2000人を殺害した。2)シリア政府軍を支援して、ラタキヤや、アレッポ周辺など、400の中心的な町を奪回し、1万平方キロの領土の奪回を実現した。
*イギリスに基盤を置くシリアの人権監視団体が3月初頭に発表したところによると、ロシアが空爆で殺害したのは、反政府勢力のアルカイダ系アル・ヌスラ戦線戦闘員1492人、ISIS戦闘員1183人。巻き添えで死亡した市民は1733人で。うち子供が429人。つまり、ISISが主要目標ではなかったということである。(BBC)
www.bbc.com/news/world-middle-east-35812371
<ロシア撤退のねらいは?>
昨年9月からロシアの介入したことで、勢力を回復したアサド大統領は先月、BBCのインタビューに答えて、「このままシリア全土を取り戻す。」と発言していた。
今回のロシア撤退は、プーチンからアサド大統領へ、「ロシアははそれにつきあうつもりはない。」と言っているようなものである。
www.bbc.com/news/world-middle-east-35561845
モスクワの分析家は、「ロシアは、アフガニスタンに介入した時の二の舞はしたくないと考えている。ロシアが介入できるのはここまでとの判断だ。今が引くにはベストのタイミングだ。」と語る。
ロシアによると、今回、アサド大統領はロシア軍の撤退に合意しているという。しかし、立場の弱いアサド大統領が、プーチン大領領に「合意しない」と言えるわけがない。アラブ紙の政治風刺画を見ても、アサド大統領がロシアに撤退してほしいとは思っていないはずである。
こうした動きをみても、プーチン大統領がシリアに介入したのは、アサド大統領を支持しているからではなかったと考えられている。プーチン大統領にとっては、シリアを安定させ、ロシアの国益を守るために扱いやすい政権なら、別にアサド大統領でなくてもよいのである。
シリアの直接交渉突入後に、ロシアの撤退が撤退することで、アサド大統領が弱気となり、ジュネーブでの交渉に何らかの影響をもたらすかもしれないとも考えられるが、それはまだ明らかではない。プーチン大統領は、「よい影響になればよいが。」と言っている。
いずれにしても、ロシアは、「ロシアは、シリアでは、好き放題に行動することができる。つまりシリア問題解決への大きな影響力を持つのは、ロシアである。」と世界に印象づけることには成功したといえる。
<イランとヒズボラは?>
ロシアとともにシリアに介入していたイランだが、こちらも2月27日から撤退を始めていた。イランは、経済制裁が解除されたことを受けて、今は国際社会との摩擦を防ぎたいともみられる。
イランはロシアがアサド本人にはこだわらないという点では、以前よりロシアとは対立していたとみられているが、イランは、火曜、ロシアのシリアからの撤退について、「停戦にむけて好影響」とのコメントを出した。
ヒズボラの方は、先週、湾岸アラブ諸国に「テロ組織」のレッテルを貼られたが、その後、ヒズボラがシリアから撤退したという明確な報道は、今の所出ていない。ロシアもイランも兵を引いてしまい、ヒズボラはどうするのか、注目されるとことろである。
<イスラエルに影響は?>
イスラエルは、ロシアとは水面下で連絡をとっており、イスラエルが、シリア領内でヒズボラのレバノンへの武器搬入を空爆で阻止する作戦を行う事について、暗黙の了解をもらっていたと伝えられている。
イスラエルにとっては、ロシアがシリアにいることは好都合だったといえる。イランとヒズボラの動きに制限がかかるからである。そのロシアがいなくなることは、イスラエルにとっても課題となりうる。
イスラエルのメディアによると、ロシアはシリアから撤退を始めた火曜になってから、「イスラエルとのこの約束は不変である。」と伝えて来たという。しかし、実際に今後、イスラエルにどんな影響が出て来るかは不明である。
奇しくも、ロシアのシリア撤退の発表がある前に、イスラエルのリブリン大統領が、明日水曜、モスクワでプーチン大統領に会うことになっていた。リブリン大統領がどんな交渉をしてくるのか注目されている。
www.jpost.com/Middle-East/Russia-seeks-to-reassure-Israel-over-Syria-withdrawal-plan-447994