ぎりぎり打倒ネタニヤフ陣営が組閣完了を大統領へ通知 2021.6.3

Yesh Atid leader Yair Lapid (L), Yamina leader Naftali Bennett (C) and Ra'am leader Mansour Abbas sign a coalition agreement on June 2, 2021 (Courtesy of Ra'am)

ぎりぎり交渉完了の現実

打倒ネタニヤフ首相という目的一点で結束した、右派左派、アラブ政党も含め、8党からなるヤイル・ラピード氏(未来がある党)の陣営は、組閣期限わずか35分前の6月2日23時25分、文字通りギリギリセーフで、リブリン大統領に組閣完了を電話通知するに至った。以下は夜中に大統領に電話するラピード氏。相棒のベネット氏が共に大統領の返答を聞いている。

www.timesofisrael.com/lapid-informs-president-he-can-form-government-removing-netanyahu-from-power/

この政権では、まずヤミナのナフタリ・ベネット氏が先に2年間首相となり、続いてヤイル・ラピード氏が首相になる。

得票率でいうなら、ラピード氏の方が格段多い上、今、大統領から組閣を命じられているのは、ラピード氏なので、法律上は、ベネット氏が先に首相になることはできないとのこと。

しかし、今回は、打倒ネタニヤフ政権を立ち上げるためにベネット氏をとりこまなければならなかったという特殊な事情であったことを踏まえ、大統領がこれを認めることになったという。

また、組閣交渉は、最後の段階になって、法務相のポジションをヤミナ党(右派)シャキード氏と、労働党(左派)ミハエリ氏が、争う形で硬直。

このままでは組閣不可能な状態にまでになったが、11時間におよぶノンストップ交渉で、最終的に、サル氏が法務相、シャキード氏が内務省、ミハエリ氏は交通相で同じく労働党のバーレブ氏が国内治安相のポジションを受けることで落ち着かせた。

また、アラブ政党ラアムとも最終合意にこぎつけて、大統領への組閣完了報告となった形である。

新政権発足までの様々な障害

とはいえ、まだ決定ではない。今後12日以内に、国会での承認決議が行われ、120 議席中、61以上の賛同を得られてはじめて、この形での新政権発足となる。では、国会で、61議席以上をとれるかどうかだが、これがまたぎりぎりすぎて、まだひっくり返る可能性を含んでいる。

一番危ういのがヤミナで、すでに、左派とともに政府を担うとするベネット氏に同意できないとして、アミハイ・チクリ氏がこの政権に反対票を投じると表明。続いて、2日、同じくヤミナのニール・オルバック氏が、反対票を投じる可能性を示唆した。

今回、組閣に成功したと言っている勢力は、中道から未来がある党(ラピード氏)17議席、青白党(ガンツ氏)8議席、右派からイスラエル我が家党(リーバーマン氏)7議席、ヤミナ(ベネット氏)6議席、ニューホープ(サル氏)6議席、左派から労働党(ミハエリ氏)7議席、メレツ(ホロビッツ氏)6議席。そして組閣には入らないが、国会で政府を支持するとするアラブ政党(アッバス氏)の4議席で、総計でぎりぎり61議席である。

あと一人でも離脱者が出れば、この組閣は成り立たないわけで、もしオルバック氏が本当に反対票を投じれば、この政権案は終わる。

今後、国会での決議までの間に、特にヤミナとニューホープといった右派勢からさらなる離脱者が出るよう、ネタニヤフ支持の右派勢から圧力がかかる可能性が指摘されている。それは脅迫の段階にまでになっており、ヤミナのシャキード氏については、警察が周辺の護衛を命じている。

打倒ネタニヤフ陣営にとっては1日も早く国会での承認にこぎつけたいところだが、国会議長のヤアリブ・レビン氏はリクードで、ネタニヤフ陣営。12日ぎりぎりの14日まで、承認決議を引き伸ばすとみられている。

このため、3日、新政権陣営はレビン氏を議長から辞任させることを要求したとのニュースが入っている。・・・なかなかの泥沼状態である。

www.timesofisrael.com/right-flank-of-change-coalition-lays-low-as-netanyahu-backers-fume-at-alliance/

www.timesofisrael.com/lapid-and-bennett-have-a-coalition-on-paper-but-netanyahu-will-fight-to-the-end/

石のひとりごと

昨今、民主主義の限界が語られるようになってきているが、イスラエルは、まさにそれを表現したような流れになっている。

多数決でいうなら、ネタニヤフ首相が最も得票率が多く、獲得議席数もリクードが30議席と最大である。しかし、そのままでは首相にはなれない。

次に議席数を獲得していたのは、ラピード氏で17議席。しかし、この人もまた、首相にならないわけである。今、首相になるのは、議席数がわずか6議席のベネット氏という流れである。もはや多数決は意味なしで、民意はいったいどこにあるのか、わからない状態といえる。とはいえまだ結果はわからないのだが・・・

また、もしベネット氏が首相になった場合、どんな政治になるのかはまったく予想もできない。ベネット氏本人は、かなり明確な右派で、ユダヤ人の国イスラエル1国が、イスラエル全土を支配する形を支持しており、2国家2民族支持者ではない。

左派やアラブ政党も加わる政権で、この主張が通ることはありえない。これまで、ベネット氏についてきたヤミナ党員はじめ、右派議員から脱落者が出るのも無理はないわけである。

また今、ラアム党のアッバス氏が、イスラエル史上初めて、アラブ政党としてイスラエルの政権を左右するまでになったことは、今後どうなるかは別として注目すべきできごとであった。

ラアム党が発足した当時の記者会見に行ったことがある。既存のアラブ政党がパレスチナよりで、アラブ系市民の声を代弁していないとして、保守派のラアム党が立ち上がったのだが、あまりにも弱小で、イスラエルの政治になんらかの影響を及ぼすとは予想もできなかった。

メディアの関心も低く、当時集まった海外記者は、わずか3−4人であった。それが、今やイスラエルの政権を決める立場に立っている。

まさに一瞬先は見えず・・・今回もまた、イスラエルらしいあゆみと言える。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。