米・英・仏のシリア攻撃:イスラエルは全面支持 2018.4.15

14日朝4時(現地)、アメリカ、イギリス、フランスが、共同で、地中海に駐屯する海軍からトマホークを含む巡航ミサイル、F15、F16戦闘機から巡航ミサイル、計103発を、ダマスカスとホムス郊外のシリア軍施設に向けて発射した。このうち71発は、ロシアがシリアに提供していた迎撃ミサイルが撃墜した。

BBCによると、この攻撃で打撃を受けたのは、ダマスカス郊外の化学兵器研究施設と、ホムス近郊の化学兵器倉庫、ならびに化学兵器機材倉庫の3箇所。人的被害は、市民3人が負傷したと伝えられたが、詳細は不明。

攻撃直後にトランプ大統領が出した声明によると、今回の攻撃は、シリアが今後化学兵器を製造しないようにすることが目的であり、「先週のドーマでの化学兵器使用」への対処に限局するもので、シリアの内戦に介入するつもりはないということであった。

イギリスのメイ首相は、政権の交代を求めるものではないと強調。あくまでも、イギリス国内や、シリア国内での化学兵器を容認できないということを知らせるものであるとの声明をだしている。

ロシアが、アメリカの攻撃には反撃すると言っていたため、攻撃直後は、緊張したニュースが続いた。イスラエルでは、シリアとの国境で、イランやヒズボラとも対峙するゴラン高原からの中継を行った。

しかし、事件発生から12時間後の現在、反撃はなく、ロシアは、「ただではすまない」と言いつつも、武力による反撃はなく、国連安保理の招集を呼びかけるにとどまっている。イスラエルのテレビも通常に戻り、午後には通常に戻っている。

www.bbc.com/news/world-middle-east-43767156

<攻撃の意味>

今回の攻撃は、シリアにもロシアにも備える時間を十分に与えて後の攻撃であった。シリア軍は、大事な施設は全部避難させ終わった後であったし、ロシア軍もイラン軍も現場にいなかったので被害は受けていない。

今回は、国際社会として、「化学兵器の使用は決して容認できない。」というメッセージを送るための象徴的な攻撃であったようである。

しかし、アメリカのマティス国防長官は、今回の攻撃は、昨年4月のシリア攻撃の時の倍であり、今回の打撃で、今後シリアが再び化学兵器を使えるようになるには何年もかかるとの見通しを成果として報告している。

つまり、攻撃は、とりあえずは、一回限りということである。しかし、もしまたシリアが化学兵器を使えば、もっと大きな武力で対応すると釘をさす効果はあったと思われる。

釘を刺したのはロシアに対してでもある。この攻撃に先立ち、ロシアの要請で、今日から、OPCW(化学兵器禁止機構)が、ドーマでの化学兵器使用の調査調査を開始する予定であった。

攻撃が、調査結果に先立つ形で行われたことで、アメリカはアメリカの判断で動くと威厳を示したことにはなるが、化学兵器は使われていない、もしくは、反政府勢力が自作自演したと主張するロシアを正面から否定したことになる。まさに米露の直接対決の図式である。

しかし、ロシア軍には被害を与えていないので、今米露が戦争に入り、第三次世界大戦になることは、なんとか避けた形である。

一方で、3国が、「化学兵器使用への対応に限局する」と強調していることについて、化学兵器以外なら使っても良いのかということになり、反政府勢力は反発している。

ドーマのある東ゴータでは、先月から反政府勢力がまだ地域に残っていた住民5万人を、バスを長々と並べて避難させている。その車列がシリア政府軍に空爆され、先月にも30人が死亡した。問題は、化学兵器に限っていないのである。

www.bbc.com/news/world-middle-east-43674329

しかし、トランプ大統領はアメリカ軍をシリアから撤退させる意向を表明しており、シリア内戦そのものには干渉しない立場である。シリアの問題であるが、実際は、まさに代理戦争がシリアで行なわれているということである。

副産物ではあるが、今回の攻撃は、来月北朝鮮との対話を控えるトランプ政権が、北朝鮮に対し、アメリカは必要な場合は、国際社会と協力の上で、軍事攻撃も躊躇なく使うということを見せつけたことにもなったと言われている。

トランプ大統領、その場その場で動いているのか、けっこう深くまで考えて動く賢明な大統領なのか、よくわからない人物である。

<世界の反応>

今回は、ドーマでの化学兵器使用への対応に限局し、アメリカ単独攻撃ではなかったこともあり、アメリカへの大きな批判はない。

ドイツは、イギリスや、フランスと違って、攻撃に参加しない道を選んだとみられるが、攻撃には賛同するとの声明を出した。NATOも、「化学兵器を使用した者はその責任を問われる。」と言っている。

www.bbc.com/news/world-middle-east-43767156

欧米は、軍事攻撃だけでなく、外交、経済でもシリアに圧力をかける予定で、EUは来週月曜にもシリアへの対処で外相級に会議を開く予定である。

www.jpost.com/Middle-East/EU-to-look-at-imposing-fresh-sanctions-on-Syria-549745

このほか、最近イスラエルや欧米に接近しているサウジアラビアもアメリカの攻撃を指示するとの声明を出したほか、日本の安倍政権も、指示を表明した。

中国は、攻撃に反対を表明している。あくまでも外交による平和的解決だけが効果的であるとし、国連安保理をスキップした攻撃には反対すると表明した。

<シリア側の反応:ロシア、イラン>

ロシアのプーチン大統領は、攻撃の後、「非常に深刻に受け止めている。正式な政府を支援するためにロシアが派遣している我が国の国民がいるところを攻撃されたのだ。」と言った。ロシアは、アメリカがOPCWの調査を待たなかったことを避難している。

なお、ロシアはすでに十分な迎撃ミサイルシステムをシリアに配備しているが、この上さらに、S300(飛行中の戦闘機を撃墜可能)を配備する可能性にも言及している。これについては、イスラエルが全力で阻止するものと思われるので、実現するかどうかは不明。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5230031,00.html

シリアのアサド大統領は、「国際法違反だ。アメリカとイギリス、フランスの試みは失敗する」と反論。シリアの日常に影響はないと主張するためか、普通に登庁するアサド大統領のビデオを流している。

アサド大統領が、支援国イランのハメネイ最高指導者に対し、「シリアはこれまでと変わらず、テロリスト(反政府勢力)の掃討を続ける。」と会話したとも伝えられている。

ダマスカス市内では、アサド大統領を支持する市民らが、シリアとロシア、イランの旗を振りかざしながら、迎撃ミサイルが効果的にミサイルを撃墜したとして喜び、「アメリカのミサイルなど怖くない」と叫ぶ様子が伝えらえている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5229996,00.html

イランのハメネイ最高指導者は、「これはアメリカとイギリス、フランスの犯罪である。世界になんの益ももたらさない。アメリカは中東での存在を正当化したいだけだ。」と語った。

イラン革命軍関係者は、「この攻撃で、地域情勢はより複雑になった。そのツケを払うのはアメリカである。イランは”前線”(通常イスラエルとアメリカをさす)を強化する。攻撃への対処能力を高める。」と語っている。

www.reuters.com/article/us-mideast-crisis-syria-iran-guards/irans-supreme-leader-says-western-attack-on-syria-a-crime-idUSKBN1HL0DO 

<イスラエルの反応:イランとの敵対関係を強調>

イスラエルは、今年2月に続いて、先週9日、シリア領内のその同じイラン軍基地を攻撃し、イラン軍関係者8人を含む14人を死亡させている。イスラエルでは、今週末、もしアメリカがシリアを攻撃したら、イランとイスラエルとの戦争に拡大する可能性があるとして、懸念が広がっていた。

www.timesofisrael.com/attack-drone-revelation-shows-grave-immediate-adjacent-threat-to-israel-iran/

今回、アメリカがシリアを攻撃するという流れになった先週水曜、ネタニヤフ首相は、プーチン大統領に電話をかけた。

プーチン大統領は、ネタニヤフ首相に、手出しはしないよう伝えたが、ネタニヤフ首相は、イスラエルは、これまでと同様、自国の防衛のためには、躊躇なく(予告なく)攻撃する旨を伝えたという。

さらにこのタイミングで、攻撃の前日、イスラエルは、今年2月、イスラエル領内に侵入してきたイランのドローンには、軍事攻撃をする装備があったことを明らかにした。

言い換えれば、イスラエルは、イランの動きによっては、躊躇なくシリアのイランと対決する理由があると主張したということである。ことによっては、イスラエルはシリア内部のイラン軍を攻撃するつもりだったのだろう。

イスラエルは、安息日開けの土曜夕刻になってから、ネタニヤフ首相が、正式に、トランプ大統領を支持する声明を出した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5230354,00.html 

<石のひとりごと:今後について>

今後どうなるかだが、残念ながら、予測不能な中東に加えて、予測不能なトランプ大統領が、世界を動かしている。専門家でも予測を述べられる人はいないだろう。

米露が戦争を始める可能性は、まだまだ残されているが、それ以上に、イスラエルとイランが戦争となり、ヒズビラが山のようにミサイルを飛ばしてきて、アメリカが介入。米露の戦争に発展していくシナリオの方が可能性は高いかもしれない。

そうなれば、ロシアとイランと同盟になっているトルコも介入してくるだろう。いよいよゴグ・マゴグの戦いの気配だが、そうなると、イスラエルにはまもなく大きな地震が発生し、中東は大混乱になるということである。(エゼキエル38章)

しかし、今は一応落ち着いている。今日の聖書箇所には次のように書いてあった。

神である主、イスラエルの聖なる方は、こう仰せられる。「立ち返って静かにすれば、あなた方は救われ、落ち着いて信頼すれば、あなた方は力を得る。」イザヤ書30:15

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。