米・パリ協定離脱を考える 2017.6.3

6月1日、トランプ大統領が正式にパリ協定からの離脱を表明した。ドイツ、フランスをはじめとするEU諸国、日本や、イスラエルもこの動きを「残念」とする声明を出し、アメリカが孤立する流れになっている。

日本でも多くの報道や分析がなされているが、これが何を意味するのか、これからどうなるのか、今後の注目点について、筆者の学びのためにも、ここでもまとめておくこととする。

<まずは・・・パリ協定とは何か>

パリ協定とは、2015年12月に、COP(Conference of Parties) 気候変動枠組条約締約国会議において、採択された国際的な協定(合意)で、地球温暖化を遅らせ、気候変動に伴う大型災害を防ぐために国際社会全体で取り組んでいこうとするグルーバルな試みである。

温室効果ガスの最大排出国であるアメリカ(オバマ前大統領)と中国が批准したことで、2016年11月にこの試みが発動している。

パリ協定では、今から3年後の2020年以降2100年まで(つまり80年先)の、地球の平均気温の上昇を2度以下(目標1.5度)に抑えることが目標とされている。今のまま無策であれば、平均気温は4.8度上昇し、大型災害は避けられないと予測されている。

その具体策として、温室効果があって、地球の温暖化の要因と考えられる二酸化炭素などの温室効果ガスの各国の排出抑制などが挙げられている。

現時点での主な温室効果ガス排出国は、①中国、②アメリカ、③インド ④ロシア ⑤日本で、これらの国々は5年ごとに削減目標を、自主的に提出することになっている。

この他、途上国は、対策にかける費用がなく、災害の被害も最も受けると考えられることから、これらの国々の温暖化対策の支援金として、緑気候基金が設立された。大国がそれに投資する形になっている。

こうした取り組みはパリ協定に始まったことではない。地球温暖化に対処しようとする最初の試み(COP)は、1992年、リオデジャネイロで始まった。この時、気候変動枠組条約というものができた。

以降、関係国は毎年集まっていたが、1997年には京都でCOP3が開かれ、国際条約としての「京都議定書」が、先進国の間で批准された。この時は2020年までの目標が定められた。

この時、アメリカ(ブッシュ前大統領)は不参加を決めて話題となった。また中国とインドは主な二酸化炭素排出国であるにもかかわらず、まだ後進国として認識されていたため、会議には不参加であった。このため、効果はあまりなかったとされる。

今回のパリ条約は、この京都議定書の次の段階として批准されたもので、2020年から2100年までのことが議題とされた。

今回は、すでに実際に温暖化が原因とみられる異常気象が始まっていることから、先進国だけでなく、全世界がこの試みに参加するべきとの流れになった。このため、パリ条約では、1992年に定められた気候変動枠組条約に参加している196カ国がすべて参加する枠組となった。

www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/256336.html

こうしてみると、国際社会が一丸となって地球温暖化をなんとかしようとしている流れの中で、トランプ大統領は、事なかばにて、椅子を蹴り、「やめます。」と言って水をかけたということである。

<トランプ大統領の言い分と実際>

トランプ大統領の言い分は、平たく言うと「地球温暖化を予防するなど、ほとんど不可能なのに、無駄な取り組みをして、アメリカは、無駄な金を払わされている。こんな無駄金を払うぐらいなら、自国の発展と雇用にまわす。」ということである。

トランプ大統領によると、パリ協定でアメリカ(オバマ前大統領)が緑の気候基金に約束した額は、全世界で100億ドル中、30億ドル(3300億円)。このほかのエコ設備投資なども入れるとアメリカの損失の総額は3兆ドルにもなりうるとトランプ大統領は主張する。

www.nikkei.com/article/DGXLASGN01H1V_R00C17A6000000/

これについては、全く理解不能ではない。これほどの大金をかけ、80年かけて、気温の上昇を2度にまで抑えるという、なんとも気の長い話である。しかも、実際には、上昇を2度までに抑えられるかどうかもわからず、結局、人類がいくら努力しようが、温暖化を止めることは不可能だというデータもある。

最近では、地殻からくる地球の温暖化を海水が抑えられなくなり、予想以上に気温が上がる可能性があるという説もでている。そうなれば、確かにアメリカが、今これほどの大金を出資して、自国を犠牲にしても、まったく無駄ということにもなりうる。

もしかしたら、トランプ大統領は、いわば、「はだかの王様」に出てくる”本当の事”を叫んだ子供である可能性もある。この後、これに賛同する国々が出てきて、将棋倒し的に協定が崩れる可能性もなきにしもあらずである。

しかし、最終的に、全世界がこれを認め、パリ協定そのものが破棄にならない限り、トランプ大統領は、国際社会全体に逆らうもの、破壊者としか見えないだろう。

なお、アメリカ国内でも、ティラーソン国務長官はじめ、イバンカ補佐官等多数の閣僚も、離脱に反対する意見で、政権内部でも意見は大きく分かれていた。

ティラーソン国務長官は、アメリカが完全に孤立するのを防ぐため、パリ協定は離脱しても1992年の気候変動枠組条約の加盟はやめないと言っているもようである。

<各国の反応:嫌われるアメリカ>

2日、トランプ大統領が、パリ協定からの離脱を正式に表明すると、まずはドイツ、フランスなどEU諸国から、また中国、カナダなど世界諸国から次々にブーイングが飛んだ。

トランプ大統領は、離脱表明とともに、パリ協定の内容の再交渉をしたいと言ったが、当然ながら、フランスのマクロン大統領は、すかさずきっぱりと断った。

パリ協定に同意しないトランプ大統領が、加盟したまま残留し、皆の足をひっぱるよりは、すっぱりやめてくれてよかったという開き直ったような意見もある。

しかし、温暖効果排出第2位のアメリカがこの試みに参加しないとなると、世界がいくらがんばっても温暖化はますます遅らせることができないのではないかという懸念は否めず、アメリカのこの動きはまさに「水をさす」ものである。

先週、トランプ大統領は、NATO首脳会議に出席した際にも、「アメリカだけでなく、加盟国は、全員払うべきメンバーシップをきっちり払うべきだ。」とストレートに語り、首脳たちが眉をひそめる様子が報じられている。

アメリカと欧州との関係悪化は否めないようである。

なお、日本は、安倍首相らが「クールビズ」に身をかため、「トランプ大統領にはついていかない。」旨を表明した。イスラエルも同様である。アメリカ国内からも様々な形でこれに反対するデモも発生している。

<離脱の必要はなかった!?>

どうもこの離脱表明は、アメリカにとって不利に流れているようだが、実際には華々しく離脱表明をする必要はなかったとの意見がある。

アメリカを代表して、パリ条約に署名したケリー前国務長官は、「この条約は単に枠組、つまりボランティアであることが基本になっている。アメリカに課されている義務はない。条件が気に入らないなら、自ら変えることも可能だった。そこから離脱する必要は全くなかった。」と指摘した。

ケリー氏は、この離脱宣言により、「今後、アメリカは国際社会の尊敬と発言権を失うことになる。結局、アメリカ・ファーストがアメリカ・ラストになった。」と激怒している。

www.bbc.com/news/av/world-us-canada-40126807/paris-negotiator-john-kerry-grotesque-abdication-of-leadership

この点はロシアのプーチン大統領も同様で、「パリ条約は単なる枠組なのだから、トランプ大統領は離脱する必要はなかったと思う。”Don’t worry, Be Happy”だ。」と笑いとばした。

またプーチン大統領は、「ここ(ロシア)では寒いので温暖化は感じない。」と冗談めいて語り、パリ協定で本当に温暖化は防げるのかどうかも疑問視するような発言をして、「ロシアはロシアのやり方で行く。」との考えを語った。

tass.com/politics/949542

また、もう一点ナンセンスな点がある。離脱を大きく宣言したものの、加入国が離脱できるのは、3年以降と定められている。様々な手続きを考えると、実際の離脱は4年先になるという。その時点で、トランプ大統領がまだ大統領であるかどうかもわからないので、その時点で、また状態がひっくりかえっている可能性もあるという。

離脱表明をしてからの4年間は、いわば、辞職願を出してから実際に職場を去るまでのあの、しんどい期間ということである。その時までは、条約に批准したままの中途半端で、アメリカは、発言権を失うだけになる。

実際のところ、アメリカ国内でももすでに進んでいる温暖化ガス削減計画がストップすることもないので、実際は、何も変わらないのに、国際社会でのアメリカの権威がただただ失墜しただけに終わるとの見方もある。

<中国の台頭> http://www.bbc.com/news/world-us-canada-40127896

アメリカが、パリ協定から離脱を表明し、ほくそ笑んだのは中国だと言われている。中国は、すかさず、ドイツとともに、率先してパリ協定を進めていく考えを明らかにした。

中国にすれば、グリーンエネルギー(風力など)の開発や、それらの技術を後進国に販売する、もしくは投資することは大きなビジネスチャンスになりうる。ライバルのアメリカはもういないのである。

今後、この分野では、アメリカに代わって、中国が、国際社会で主導権を発揮していく可能性が出てきた。

中国は先月14日、ロシアやトルコを含む29カ国の首脳を北京に集めて、現代版シルクロード「一帯一路」構想を一歩推し進める会議を行った。これは、中国からヨーロッパに向かう広大な地域を、中国が率先して設備投資するなどして、大経済圏にしようというよびかけである。

トランプ大統領が、アメリカ・ファーストと言って、他国への支援を渋っているのとは逆に、中国は積極的に投資しようとしているのである。ただし、この投資は、曲者で、のちにそれを返金するしくみとなっている。もしできなかった場合は、中国がその主導権をとりあげる、つまりは没収することになる。

スリランカでは、中国の投資で広大な港を建設した。しかし予想よりはるかに利用率が少なく、出資金を返金するみこみがなくなった。するとスリランカは、その港を中国に売却せざるをえなくなった。地域住民は立ち退きの危機にもなっている。

このように、一帯一路構想には、中国が一帯を征服してしまう可能性も秘めていると懸念されているところである。

www.nikkei.com/article/DGXLASGM09H88_Z01C16A2FF1000/

このほか、中国は、南シナ海に人口島を作り、今や戦闘機も発着できる空港を作ってしまったようである。軍事的にもその影響力は拡大している。トランプ大統領のパリ協定離脱宣言は、まさに中国にとっては渡りに船となったと思われる。

<今後の注目点>

これから注目すべき点は、アメリカに続いてパリ協定を離脱する国があるかどうか。嫌われ者となったアメリカの経済と指導力が、今後どうなっていくのか。そして、中国が本当にパワフルになってくるかどうかなどである。

<石のひとりごと>

今朝聖書を読んでいると次のようなことばが目に付いた。

すべての肉なるものの終わりが、わたしの前に来ている。地は、彼らのゆえに暴虐で満ちているからだ。それで今わたしは、彼らを地とともに滅ぼそうとしている。(創世記6:13)

地球温暖化について、よく考えると、確かにできるかぎりのことはすべきであろう。しかし、もうすでに異常気象は始まっている。

この後に及んでは、もはや人間のわずかな力で温暖化を遅らせることに資金を費やすよりも、それにどう対処していくのかに資金を使った方がいいのかもしれない。

イスラエルは来るべき世界規模の食料危機に備えて、最も早く、少ない水で育つ食料や、最も少ない飼料で最大の牛乳を得る方法、またその保存法などを研究している。大災害、大戦争時にどう市民を保護するのかもきわめて具体的に計画していると聞いている。

無論、聖書の視点で言わせてもらえば、大患難が来る前に、すべてを支配する天地創造の主と和解しておくことはもっと大切だ。

そういう意味では、トランプ大統領は、結果的には自らの孤立というリスクを負って、世界に警鐘を鳴らしたといえるかもしれない。

まあ、トランプ氏の場合、アメリカの雇用だけを考えているのであって、そこまで人類のことを考えていたというのは、こちらの考えすぎだとは思うが・・・。

地球温暖化を遅らせる努力などナンセンスと言ったトランプ大統領が正しかったのか、彼の行動は愚かであって、本当にアメリカが世界の指導者としての立場から落ちて、アメリカ・ラストになってしまうのか、それはこれからの時代が証明する事になる。

それは意外に早く、わかってくることではないかと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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