福音派ポンペオ国務長官:親イスラエル全開で、西岸地区入植地とゴラン高原を訪問 2020.11.22

ポンペオ国務長官とネタニヤフ首相 出展:GPO

イスラエルとバーレーンと3国でイランを牽制しようとしているポンペオ国務長官だが、パレスチナ問題においても、大きな布石をおいて行った。3者会見の翌日19日、アメリカの国務長官という、最高レベルの高官として初めて、西岸地区のユダヤ人入植地、続いてゴラン高原を訪問したのである。

いずれの地域も、国際社会の公式の認識では、違法な占領地とされる地域である。アメリカの国務長官レベルがこの地域を訪問するのは前代未聞であり、日本を含め、世界で大きな波紋を呼んでいる。

ラマラに近い西岸地区入植地ピスゴット訪問:米高官として初

西岸地区では、聖書時代と同様、豊かなぶどう園があり、おいしいワインが生産されている。しかし、西岸地区の入植地は、国際的には、まだイスラエルの領土とは認められておらず、占領地として非難される立場にある。

トランプ大統領はこれについて、そろそろ現状を見なければならないとして、入植地はイスラエル領とし、それ以外をパレスチナ国家にするという中東和平案(世紀の取引)を出したのであった。パレスチナ側はこれを全面拒否し、アメリカとの対話も断ち切っている状況にある。

その入植地を、今回、ポンペオ国務長官は、アメリカの国務長官としての正式な立場で訪問を実施した。しかも、訪問した入植地は、ピスゴットで、パレスチナ自治政府があるラマラのすぐ近くであった。パレスチナ側への強力なメッセージといえる。

ピスゴットでは、この訪問を記念し、「ピスゴット産ポンペオ」と名付けたワインを製造している。

www.ynetnews.com/article/ByIwQ1V5w

言うまでもなく、パレスチナ人は、これに反対を表明している。

BDSムーブメント(イスラエル・ボイコット運動)を牽制

さらに、ポンペオ国務長官は、この地のワインをアメリカへ輸出する場合は、「イスラエル産」と明記するようにと述べた。これは、入植地をイスラエル領土と認めるという、トランプ政権の立場を象徴するような動きである。

これは、これまでのアメリカ政権、また世界が、入植地の製品は、「入植地産」と明記し、”占領”に反発している人が購入したくない場合にわかりやすくするようにと、イスラエルに要請していたことを覆す発言である。

また、イスラエル製品をボイコットしようとするBDSムーブメントについて、「BDSは、反ユダヤ主義である。」と明言。反シオニズムは反ユダヤ主義を意味すると述べた。その上で、西岸地区製品を差別する動きを監視するよう指示を出した。

www.jpost.com/breaking-news/pompeo-us-to-withdraw-funding-from-groups-with-ties-to-cancer-bds-649581

ゴラン高原のシリア国境:ベンタル山訪問

ポンペオ国務長官は、西岸地区を訪問したあと、すぐに、イスラエルのアシュケナジ防衛相とともに、ゴラン高原のベンタル山を訪問した。

ゴラン高原は、その7割ぐらいを、1967年の戦争以降、イスラエルが支配するようになった。1973年の戦争でシリアを退けた後、1981年に、この地域の併合を宣言している。

その後、ゴラン高原には、イスラエル人が住むようになり、世界でも有数のワイナリーを構築している。しかし、シリアも国際社会もこれを認めていなかった。

トランプ大統領は、昨年、この地域について、アメリカはこの地域はイスラエル領であると認めると宣言。これを受けて、ゴラン高原にはトランプ大統領の名前をつけた地域もできている。

今回、ポンペオ国務長官が訪問したゴラン高原のベンタル山は、ゴラン高原の中で、突出する山の一つ。周辺の平野地域からみて380メートルの高さがあり、山頂からみると、シリアとの国境、クネイトラ周辺がまるみえになる。

逆にいえば、ここをとられると、イスラエル側への攻撃も安易になるということである。

ポンペオ国務長官は、このベンタル山に立ち、眼下に広がるシリアとの国境を見ながら、「トランプ大統領がここをイスラエル領と宣言した理由がよくわかる。もしここが、シリアに支配されていたら、西側、またイスラエルが攻撃されるリスクが高くなる。ここは、イスラエル領だ。」と述べた。

この地域は、ポンペオ国務長官が訪問するわずか2日前に、イスラエルが、国境に対人地雷を発見したことから、シリアを攻撃した地域からそう遠くない場所である。その緊迫した中で、アメリカの国務長官ほどの人物が来るのであるから、警護は地上、上空からとかなり高い緊迫度であった。

逆にシリアからみれば、この時期に、この場所にアメリカの国務長官が来るということは、イスラエルからすれば、強力な牽制であるが、シリアからすれば、挑発ともみえる行動である。

シリア政府は、国営放送を通じて、「トランプ政権が終わる直前に、シリアの主権を脅かす挑発行為だ。」との声明を出した。

www.timesofisrael.com/pompeo-makes-unprecedented-golan-heights-visit-this-is-israel/

福音派クリスチャン・シオニストのミュージアム訪問

ポンペオ国務長官は、ペンス副大統領と同様、福音派クリスチャンであることを公にしている政治家である。その立場を強調するかのように、ポンペオ国務長官は、エルサレムにある、クリスチャンシオニストとイスラエルとの関係を展示するミュージアム、Friend of Zion ミュージアムを訪問した。

*福音派クリスチャンはなぜイスラエルよりのシオニストなのか

キリスト教会は、はじめは、イエスが生まれて、十字架に架けられた国、イスラエルに住むユダヤ人信者で成り立っていた。しかし、1世紀後半に、ローマ帝国によってイスラエルが滅亡させられて以降は、ユダヤ人以外の信者が教会を支配するようになる。

そこから、キリスト教はどんどんユダヤ人から離れ、中世までにはすでに反ユダヤ主義へと、初めの様相とはすっかり違ったものになっていったのであった。

そうした中、約、1900年たってイスラエルという国が、聖書に書いてある通りに復活する気配が見えてくると、キリスト教徒の中から、聖書が文字通りのものであり、イスラエルという国は、よくも悪くも、神に支配されている国だと、認識する人が増え始めた。

神が支配している国ならば、これが福音派とよばれるクリスチャンたちで、通常は、親イスラエルの立場をとる場合が多い。ポンペオ国務長官、ペンス副大統領は、このグループに属する人々である。

実際のところ、今のイスラエルが建国する前、後も、様々な福音派の人々が、イスラエルの建国を助けている。そのうちの一人が、イギリス人のウィンゲート大佐である。優秀な軍人として、大佐は、ホロコーストから逃れてきて、武器もろくにない中で、アラブ人たちを戦おうとするユダヤ人たちを助けたのであった。ウインゲート大佐は、福音派クリスチャンであった。

こうした、クリスチャン・シオニストたちの歴史を展示するミュージアムが、エルサレム市内にある。建てたのは、アメリカの福音派団体(マイク・エバンズ代表)で、政治的にも大きな影響力を持つようになっている。明らかに、右寄りに過ぎる感じもあり、反発も小さくないようである。

これらのことを実施した後、ポンペオ国務長官は、アラブ首長国連邦へと出発していった。出発に先立ち、ネタニヤフ首相は、ポンペオ国務長官に聖書を贈り、次のように述べた。

「聖書の民(イスラエル)には、あなたほどの友は他にない。」と述べ、トランプ政権がこの4年で成し遂げた、すべての親イスラエル政策に心から感謝していると述べた。

石のひとりごと

ポンペオ国務長官の動きを見ていると、もはや、恐れるものも、遠慮するものも何もない、出すものは全部出すという感じにみえる。

あとわずかな期間、与えられた力と影響力を全て出し切って、イスラエルのためにできるだけのことをやっているようである。またポンペオ国務長官は、聖書に従う福音派としての証も明確に、イスラエルと世界に証明したといえる。

この動きの背後に、トランプ大統領の指示がどこまでであるのかは不明だが、ポンペオ国務長官個人の本気と情熱が見えてくるようである。しかし、イスラエルの中からは、ポンペオ国務長官には感謝するが、この駆け込み外交の影響がどのぐらい続くのかと疑念を持つ記事もある。

イスラエルと福音派クリスチャンという聖書に忠実な人々が、いよいよ公に一つになり、世界からの反発を受ける様子を見ていると、やはり終わりが近いことを、いよいよ実感させられている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。