相変わらず緊張:北部・南部情勢 2017.3.3

トランプ大統領が就任して以来、確かに北部情勢、ガザ情勢でも衝突が続く。また、イスラエル以外の国々での反ユダヤ主義暴力が増加しているという。詳細は以下の通り。

1)シリア内戦にイランの進出懸念

シリア情勢は、トランプ大統領が、”他国政権の打倒はアメリカのすることではない”として、自由シリア軍(反政府勢力)への支援を打ち切ったため、現在は、ロシアに支えられたアサド政府軍とヒズボラ勢力が優勢となっている。シリア内戦におけるアメリカの影響力はほとんどない。

先週火曜、国連安全保障理事会は、シリア内戦で、アサド政権が化学兵器を使っている疑いがあることについて非難する決議が行われたが、ロシアと中国が拒否権を発動したため、却下されるに至っている。

これはイスラエルにとっては、穏やかなことではない。やがてアサド政権とヒズボラの背後にいるイランが、ゴラン高原にまで進出してくる可能性があるからである。

2月21日、シリア領内のヒズボラの武器関連施設とみられる地点で、爆撃が確認された。イスラエルはノーコメントだが、おそらくはイスラエルによるものとみられている。こうした攻撃は、危険が迫る前に行われる防衛の一環で、これまでにもなんども行われてきたものである。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Initial-report-Israel-Air-Forces-strikes-Damascus-overnight-482263

また。現在、ゴラン高原のシリア側は、反政府勢力のアル・ヌスラ(アル・シャム)と、南部に小さくISISが支配する形となっている。これらとシリア政府軍が戦う中、流れ弾がイスラエル内にも着弾し、そのたびにイスラエルは、シリア軍の施設を報復攻撃するという繰り返しとなっている。

これまでのところ、すべては流れ弾であるとみられ、大きな対立には発展していない。また、イスラエルは、ゴラン高原を介して、スンニ派反政府勢力から負傷者を受け入れるなどして、反政府勢力となんらかの合意が成り立っているのか、平穏が続いている。

しかし、シリア人患者を受け入れてきた北部の病院に政府からの支援金が一部しか届いていないことから、病院側は、今年3月5日から、かなりの重症でない限り受け入れを止めると発表している。これが今後の北部情勢にどう関わってくるか注目されるところである。

*イラク・シリアのISIS

トランプ大統領が、ロシアと協調路線をとってでもISIS妥当に乗り出しているが、ISISはイラク、シリア双方で、勢力を失いつつある。

昨年10月、ISISの拠点で、イラクの大都市モスルに対するイラク軍、クルド人勢力などの総攻撃は始まったが、これまでに、東モスルをISISから奪回。西モスルにせまっているところである。

BBCによると、西モスルからは約17万人が難民となって避難したが、まだ65万人の市民がいる推測されている。

www.bbc.com/news/world-middle-east-37702442

シリアでは、世界遺産のパルミラがISISに支配されていたものの、昨年10月にシリア軍がいったん奪回していたのだが、昨年末、アレッポでの戦いが激化しているすきに、ISISが再びパルミラを支配するに至っていた。

それを再びシリア軍が、3月1日、奪回したと伝えられている。シリア領内のISISの領域はかなり縮小している。

www.bbc.com/news/world-middle-east-27838034

2)南レバノンからイスラエルを脅迫するヒズボラと背後のイラン

南レバノンはヒズボラが支配している。その背後にいるのはイランである。イスラエルとレバノン国境に行くと、ヒズボラの旗とともにイランの旗も見ることができる。

その国境にあるキブツ・マナラ付近で、レバノン市民数十人が、イスラエルに対するデモを行い、一時、国際的に定められたイスラエル領内にまで入ろうとした。(イスラエルの防護壁は超えず)

そのため、イスラエル軍は、手榴弾による脅しや、催涙弾を使ってデモ隊をレバノン領内へ追い返した。デモは、ヒズボラが、イスラエル軍が南レバノンにスパイ機器を仕掛けたと主張していることに関するものとみられている。

ヒズボラのナスララ党首が、今週、イラン国営放送のテレビインタビューにて、ヒズボラはイスラエルがヒズボラとの戦闘に入った場合は、”非常に繊細”な施設への攻撃も辞さないと豪語している。

イスラエル軍によると、現在、ヒズボラが南レバノンに設置したミサイルは15万発。イスラエル全土が標的に入る。その中には、ディモナの原子力施設も含まれる。

また南レバノンに近い北部都市ハイファには、非常に危険で施設も老朽化が進む化学工場がある。ハイファ市によると、特にアンモニアが貯蔵されているタンクが崩壊した場合、16000人が死亡すると推測されるという。

さらに、このタンクがあるために毎月アンモニアを運搬してくる船舶が攻撃されるなどした場合、最大60万人が死亡する恐れもあるという。会社側からは反対もあったが、ハイファ地区裁判所は、4月1日を期日に、アンモニアタンクを空にするよう指示した。

www.timesofisrael.com/haifa-court-upholds-ruling-ordering-ammonia-tank-emptied/

なお、ヒズボラの脅威だが、レバノンという国と無関係ではない。ホズボラは正式にレバノンの政党の一つであり、レバノンのミハエル・アウン現大統領は明白にヒズボラ支持である。

今後ヒスボラとイスラエルが戦争になれば、イスラエルとレバノンとの戦争という形になると懸念されている。

www.timesofisrael.com/dozens-of-lebanese-cross-israeli-border-during-protest/

3)ガザからのロケット弾とイスラエル軍の攻撃

ガザからのロケット弾がイスラエル領内に着弾する事件が相次いでいるが、今週、水曜夜、アシュケロンのビーチに着弾した。被害はなし。また木曜には、ガザの国境を警備するイスラエル軍兵士らに対する発泡もあった。

イスラエル空軍は、こうした攻撃が発生するたびにガザ地区のハマス関連施設を空爆している。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/225994

Yネットによると、水曜、ハマス関連組織は、こうしたイスラエルの反撃に対し、「今後、新しい攻撃のメカニズムを準備している。それは、一気に暴力のエスカレート、紛争へとつながるものだ。」との警告を発表した。

一方、イスラエル軍でガザへの物資搬入などの出入りを担当するCOGATのヨアブ・モルデハイ少佐は、木曜、「ハマスが市内半島のISISに協力していることを、イスラエル軍はよく把握している」と、ハマスへのメッセージとしてフェイスブックに書き込んでいる。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israeli-official-to-Hamas-We-know-of-your-cooperation-with-ISIS-In-Sinai-483071

イスラエルは北部も南部も火薬庫である。ヒズボラとの戦闘の方が危険性は高いが、先に火をふくのは、南部ガザのハマスとの戦いになるとみられている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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