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核合意頓挫に苛立つ欧米諸国
ウイーンで継続されているのかいないのか、延々と行われているイランの核開発に関する核合意(2015年JCPOA)再開にむけたイランと欧米・ロシア・中国の核交渉。
その後、ロシアが、ウクライナへ侵攻し、ロシアが孤立。世界的な経済制裁を受けるようになり、そのロシアを含んでいるこの交渉は複雑な様相になっている。
ロシアは、もしイランとの核合意が成立し、イランへの経済制裁が解除された場合、ロシアとイランの間の貿易は世界的な制裁の対象にはしないことを要求した。中国の意向は不明だが、おそらくロシア側に立つとみられる。このため、交渉はさらなる暗礁に乗り上げた形である。
しかし、イギリス、フランス、ドイツなどは、もう辛抱切れの様相で、ともかくも、なんらかの合意を締結してしまおうという動きになっている。これに対し、イスラエルのベネット首相は、イランは、すでに高濃度ウランを、上限の18倍を保有している他、IAEAの情報を一部盗んだり、偽の情報を提供しているとして、イランとはいかなる合意にも至ってはならないと強く警告している。
こうした中4月末、イスラエルの諜報機関モサドは、自宅にいたイラン革命防衛隊の外部組織高官マンソール・ラゾウリの身柄を一時拘束。トルコのイスラエル外交官、ドイツにいるアメリカ軍高官と、フランスのジャーナリストを暗殺する計画を自白させた。イスラエル首相府は、これを認め、イランの暗殺計画を未然に阻止したと発表。イランが、国際社会の脅威になっていると発表した。
さらに、その後の5月、ひと月ほどの間に、イラン革命防衛隊高官ら4人が次々に暗殺など不審死を遂げた。イランはイスラエルによるものと非難しているが、イスラエルは、ノーコメントである。
イスラエルは、今後、各国にいるイスラエル市民がイランに誘拐されたり、殺害される危険が高まったているとして、海外旅行に出るイスラエル人に警告を出した。
しかし、そんなことに耳を傾けるイスラエル人はほどんどないとみられ、ベングリオン空港は、毎日混雑するまでになっている。
5月中不審死のイラン高官たちから見るイラン情勢に変化か
上記のような水面下でのイランとイスラエルの戦闘は今にはじまったわけではない。ここ数年ずっと続いていたことで、これまでにも複数の核科学者などが暗殺されてきた。
しかし、こここひと月の間に、不審死を遂げたイラン高官4人は、特に核兵器に関係した人々ではなく、ミサイルやドローンに関わる人物であった。
このため、イランが核兵器開発を完了しつつあり、すでにそれらを搭載する兵器の開発や運搬を阻止する段階に入っている可能性があるとの推測も出ている。エルサレム・ポストによると、死亡した4人は以下の通りである。なお、暗殺のすべてが、イスラエルによるものかどうかは、明らかではない。
5月22日、イラン革命防衛隊高官ハッサン・サイード・コダエイが、テヘランの自宅前、車の中で二人の暗殺者により銃殺された。コダエイは、2020年にアメリカに暗殺されたスレイマニ将軍の側近の一人であった。
コダエイは、シリアに武器の搬入をしていたほか、海外にいるイスラエル人やユダヤ人、欧米要人の暗殺を計画していたとされる。
これに先立つ4月末にモサドに暗殺計画を自白させられた、ラゾウリの上官であった。
さらに25日、上記コダエイの同僚で、やはりイラン防衛革命隊高官、アリ・エスマエルザデが、カラージ自宅のベランダから落ちて死亡した。当初自殺を言われていたが、イラン革命軍が情報漏洩を疑い、自殺の様相で実は殺害した可能性が高いとのこと。これについては、イスラエルは関与していないとイラン高官の情報としてNYTが伝えている。
この数日後、テヘラン郊外のパルチンの核兵器含むミサイルやドローンに関係する軍事施設で、イラン軍のエンジニアがドローンにより暗殺された。
さらに31日、イランの航空科学者で、ミサイルやドローンの開発の関わっていたアヨーブ・エンテザーリが、夕食後に病院に搬送され死亡した。夕食に毒をもられていたとみられている。エンテザーリにこの日夕食を提供した人物は、すでにイランから逃亡したとのこと。
www.jpost.com/middle-east/article-708666
IAEA(国際原子力機関)グロシ長官がイスラエル訪問:ベネット首相会談
こうした緊張の中、6月3日、IAEAのディレクター、ラファエル・グロシ氏がイスラエルを訪問。ベネット首相と会談した。ベネット首相は、グロシ氏に、「イランは、核兵器開発をすすめている。さまざまな偽情報で国際社会を欺いている。いかなる合意で妥協してはならない。イランを止めるため、緊急に強い姿勢で対応しなければならない。」と警告した。
また、イスラエルは、外交的な解決を望むが、国際社会のその努力が成功しない場合、自衛のために、イランの核開発を止めるための措置を講じる権利を有すると伝えた。この様子は、危機感をもって日本でも報じられていた。
しかし、実際のところ、IAEAもイランが査察に非協力的であり、まだ捜査に入れないままになっている施設もあるので、イスラエルの声に耳を傾ける様子もある。
IAEAの調べでは、イランが保有する60%以上のウランは、43.1キロで、90%にまで濃縮された場合、10日以内に核爆弾3つを製造可能だという。あとはそれを搭載する武器を作るだけということになる。
これは、もはやイランの各関係者ではなく、むしろ、ミサイルやドローンといった核を掲載する武器の開発関係者やその施設が狙われるようになっているという点ともつながるところである。
www.timesofisrael.com/as-iaea-convenes-amid-stalled-nuclear-talks-iran-faces-likely-censure/
グロシ氏は、その後、ウイーンへ戻って、今週末まで、イランとの核合意関係国との会議を行なう。この会議で、関係国は、2018年に離脱したアメリカを合意の枠組みに戻ることを受け入れ、イランとの核合意(経済制裁緩和含む)を復活させるかどうかを決めるとみられている。
しかし、IAEA自身、イランへの危機感を持っていることから、逆に国際社会としてイランを非難し、その核兵器問題を安全保障理事会に提出するのではないかとの見通しになっている。
www.timesofisrael.com/frustrated-west-beginning-to-turn-up-heat-on-iran-israeli-official/