合理性基準法公聴会・13時間の激論:最終結論は来年1月が期限 2023.9.14

Supreme Court President Esther Hayut and all 14 other judges hear petitions against the 'reasonableness law' at the court in Jerusalem on September 12, 2023. (DEBBIE HILL / POOL / AFP)

歴史に刻まれる司法VS政府国会の13時間マラソン議論

最高裁・背後に国会
wikimedia

12日、エルサレムにある最高裁では、予定通り、司法制度改革のはじまるとなる、合理性基準法に関する公聴会が行われた。

現ネタニヤフ政権は、この7月、政府が国会の過半数合意を得て、基本法に組み入れると採択した法律について、司法(最高裁)が、それが真に国民の益になるのかどうかを判断し(合理性基準)、却下する権力を否定する法律を基本法に加えた。これを合理性基準法と言う。

この法律により、政府を監視し、その暴走を止めるシステムがなくなる、いいかえれば、イスラエルが、独裁になっていくことも可能になることから、イスラエルの民主主義が危ういと懸念されてきた。

このため、司法(最高裁)は、政府推進派と、司法反対派、公に、双方が意見を戦わせる場、公聴会を設けた。その論議の結果で、司法(最高裁)は、政府にどういう判断を提示するかを決める。論議が国民にも明らかにされれいるので、すべての国民、また世界もそれぞれの判断ができるようにした形である。公聴会には、イスラエル史上はじめてとなる判事15人全員が出席した。

エステル・ハユート最高裁判事(photo credit: MARC ISRAEL SELLEM)

議論は、これに反対する司法側のハユート最高裁判事含む15人の判事からの意見、これに対し、これを推進する政府とその弁護を行う司法長官、政府弁護士たちの間で行われた。現職のミアラ司法長官は、先に、政府の方針に合意しない考えを明らかにし、公聴会で政府弁護側に立つことを拒否したことから、代わりにイアン・ボンバック氏が司法長官として、公聴会に立っていた。

論議は、13時間以上にわたり、終わったのは12日の午後10時半であった。最初からすべて、インターネット(ユーチューブ)で流され、国民も世界のだれでもが、ごまかしなく、双方の意見を見聞きすることができた。これをもって、ネタニヤフ首相が、反対派野党との何らかの妥協に持ち込む可能性が出てくるのではないかといった推測、逃げ道にもなりうるとの推測もある。

13時間にわたるマラソン議論。双方に意見があり、非常に興味深い論議となっている。結果はどうあれ、こうした国民全部の前で、論議されたこと事態、民主主義の証であるとも言えることから、イスラエルの歴史に深く刻まれる論議であったと評価されている。

www.timesofisrael.com/overhaul-hearing-sees-court-govt-in-bitter-fight-for-quasi-constitutional-primacy/

論議の主な内容

1)司法は、基本法を覆すことは可能か否か:独立宣言持ち出して白熱

イスラエルでは、司法が、政府の決めた方針や、人事を却下したことはあっても、基本法に制定された法律を覆したことはない。基本法は、イスラエルの憲法に準ずるものなので、それを司法が、却下、無効にすることができるのかどうかということがまず、問題であった。

イスラエルの基本法は、1948年の独立宣言に基づいており、司法はその「ユダヤ人の国であり民主主義の国」という原則を守ることを使命として、働いてきた。しかし、この独立宣言を決定した、ベングリオン含む37人は、民主的な選挙で選ばれた人々ではなく、その時のリーダーが、早急に決めたものであった。

このため司法に携わる判事たちは、選挙で選ばれたわけではないが、独立宣言に基づく基本法が、イスラエルとその国民の益になるかどうかを監視する権限があるとしている。

これについて、政府側ボンバック司法長官は、当時は、選挙で選ばれていない37人が、早急な中で決定したのが、独立宣言だったと述べ、民主主義国家として独立したイスラエルが、今後も、当時の独立宣言を土台にした形の基本法の様式を、未来の世代もが引き継いでいくべきかどうかと疑問を投げかけた。

これは、言い換えれば、今イスラエルが、独立国家として落ち着いたのであるから、これからは、司法ではなく、民主主義で選ばれた政府が、基本法を見守ることが肝要ではないかということである。これについては、独立宣言が卑下されたとして、野党側からは、激しい反発が相次いだ。

司法側:ハユート裁判長は、確かに、基本法は、よほど、民主主義が脅かされるとの決定的な懸念がない限り、撤回するべきではないという点では合意した。

www.timesofisrael.com/at-crucial-hearing-judges-challenge-assertion-they-cant-intervene-in-basic-laws/

2)合理性基準法は、民主主義に反するか否か

では、次に、今の合理性基準法は、その深刻な民主主義の危機にあたるのかどうかということである。

司法側弁護士協会のナダヴ・ワイツマン氏は、合理性基準法は、最終的な権威が、司法ではなくなることを意味するので、最終的には、市民が訴えを裁判所に持ち込むことを控えるようになることを意味すると指摘。

合理性法案は、現時点では、小さいことのようにみえるかもしれないが、そこから始まっていく小さな一歩が重なることで民主主義が崩壊することは可能だと述べた。言い換えれば、合理性基準法は、深刻な民主主義の危機をもたらすものだという意見である。

これに対し、政府側:国会で憲法・法律・司法委員会のロズマン委員長は、選挙で選ばれた政府と国会の決定に対し、国民に選ばれるのではなく、特別な司法の中から選ばれる最高裁が、最終決断を下すことこそ、民主主義に反すると指摘した。

実際のところ、これほど多様な移住者の背景がある国で、それぞれが意見をいうことをはばからない民族性からすると、イスラエルが民主主義から離れて独裁になることはありえないとの意見もある。

3)合理性基準法が政府の暴走を許す結果になるか否か

司法側:バロン判事は、たとえば、政府が、選挙は10年に1回にするとか、アラブ人の選挙権をなくすといった、いかにも独裁、アラブ人の反発から基本法を出した場合、合理性基準法に基けば、それを司法が、止めることができないという事態になりうると指摘した。

(photo credit: MARC ISRAEL SELLEM/THE JERUSALEM POST)

政府側:ロズマン氏は、政府は国民にとっての最善を考えているので、そういう間違いはしないことと、間違いに気づけばすぐにそれをとりやめることができる。またその善悪は選挙によって、判断されることになると反論した。

これについて、司法側は、「政府は間違いをぜったいに犯さない」という政府ほど、信用できないものはないと反論した。

www.jpost.com/israel-news/politics-and-diplomacy/article-758704

このほか、政府は、政治的な理由で、司法制度改革を進めていると言う非難や、裁判所は、権威を維持したいだけだといった非難の合戦もあったようである。

これからどうなるのか

合理性基準法について、最高裁は、それを却下するのかしないのか、またなんらかの返答をすることになるが、ハユート最高裁最高判事は、この10月に70歳の定年を迎え、退職となる。10月から3ヶ月はまだ権限を維持するので、遅くても来年1月までには、最高裁としての意見を出すことになる。

それまでの間に、なんらかの妥協になるのか、もしかして、政府がひっくり返って、政権交代となり、すべてが出だしに戻る可能性もゼロではない。実際、問題がつきないベングビル氏が、また自分の要求が通るまでは、与党に賛成しないと反旗を翻したりして、どうにもおちつかない状況にある。

なお、今後、裁判官任命委員会に関する論議が計画されている。しかし、国会については、明日から新年入りとなり、秋の例祭シーズンに入るので、時期会期が始まるのは、10月15日になる。

石のひとりごと

この件については、いろいろややこしく、理解するだけでも必死である。

大きな時代の変化の中で、今後、イスラエルがどういう国になっていくのか、そういう根本的な論議であったということのようである。

12日の論議について、取材しながら、1965年に、三島由紀夫が、東大生1000人と論議した事件を思い出した。右派の三島と、左派の東大生たちの論争である。

言葉と言葉による論争が、かつて日本にもあった。その論争で使われている日本語は、かなり高度で、理解するだけで必死だった。しかし、不思議な魅力も感じた。

こんなすごい論議が、日本にもあったということである。

石堂ゆみ

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。