合法化法案:国会通過 2017.2.8

西岸地区の入植地のうち、土地の所有権がパレスチナ個人になっているため、違法とされる未認可の入植地の合法化を可能にする法案、「合法化法案(Regulation Bill)について。

イスラエルでは、法案が成立するためには、まずは、国家での審議を3回通過し、最高裁が認めることが必要となる。合法化法案は、昨年中に1回目を通過していたが、6日夜、2回め、3回目が行われ、賛成60、反対52と、賛成が上回って、国会を通過した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4918700,00.html

この後、最高裁の司法長官が、この法案に関する不服申し立てを聴取して、これらをクリアすれば、正式にイスラエルの法律となる。もしクリアしない場合は、法律にはならない。

これまでのところ、マンデルブリット司法長官は、「この法案は、どうみても国際法上違反であり、イスラエルを国際的に難しい立場に追いこむ可能性がある。」と主張。この法案を、最後の司法の段階でストップさせるとの意向を明らかにしている。

しかしその場合、政府は、司法長官を解任することも可能とのことで、今後、司法長官がどういう決断を出すのかが注目されている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/224590

<法律になった場合、ならなかった場合どうなるのか>

もし法律となった場合、イスラエル政府は、未認可入植地の土地を所有するパレスチナ個人に、相当額以上の補償金をもって土地を買い取り、正式に国有地として、入植地に長期リースする。*

しかし、もし法律にならなかった場合、法的にパレスチナ個人の土地とされる地所にある入植地家屋は、違法として撤去を命じられ、家屋は破壊されることになる。先週、強制撤去が完了したアモナでは、建物の破壊が始まっている。

もしこの法案が通らなかった場合、撤去措置を命じられる入植地は、アモナだけで終わらない。

アモナに近いオフラという入植地では、9軒の家が、高等裁判所によって、2月8日を期限に撤去が命じられていた。しかし、反発が大きいため、高等裁判所は、期限を約1ヶ月延期し、3月5日までとした。3ヶ月の延期要請に対しぎりぎりの譲歩である。

すると、これを不服とするオフラ住民ら約5000人が、「これ以上入植地を撤去させるのではなく、合法化すべきである。」と訴えるデモを行った。さらに国会が合法化法案を論じた火曜にも、エルサレムで、9軒の合法化を訴えるデモを行った。

この他、入植地タプアハでも、高等裁判所から、6月を期限に17の家屋の撤去を命じられている。Yネットによると、もし合法化法案が成立しなかった場合、西岸地区で、同様の処置を命じられる物件は2000~2500軒にのぼるという。

国際社会からの非難を避けて合法化法案を破棄した場合、今度は入植者の怒りがイスラエル政府に向くということである。

www.timesofisrael.com/5000-rally-in-ofra-to-protest-planned-evacuation-of-9-homes/
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4860424,00.html

*土地は全部国有ということについて

イスラエルでは、土地はすべて国有で、個人所有地はない。一部、ギリシャ正教の土地などがあるが、政府が長期で借り上げて、市民にリースしている。ちなみにクネセト(国会)を含む地域の土地は、政府が、ギリシャ正教から長期で借り上げている土地。

このため、新しい土地に何かを建てる際、非常に複雑で長い手続きが必要になる。イスラエルの住宅事情がなかなか改善しない一因になっている。

<国会大論争>

この法案については、審議をすすめようとする与党連立政権に対し、激しく反発する野党勢の間で、昨年からずっと激しい論議となっていた。

この法案は、最終的には西岸地区のユダヤ人地域(C地区)を、すべてイスラエルに合併するということで、事実上、二国家共存案を不可能にしてしまう可能性がある。これは、パレスチナのみならず、国際社会の反発も避けられないことを意味するからである。

実際、この法案の国会での議論が始まると、パレスチナ自治政府は、イスラエルへの暴力の再燃を示唆するほど反発。また国連では、安保理が、昨年末に反イスラエル入植地決議を可決したばかりである。野党勢は、今、合法化法案を論じるのは、時が悪すぎると訴えている。

あまりにも論争が激しいことから、与党リクードの中からも、国会での最終審議は、せめてネタニヤフ首相とトランプ大統領の会談(2月15日予定)が、終わるまで延期すべきだと声も多数あった。

また、ネタニヤフ首相は、今日、6日、イギリスのメイ首相を公式訪問したのだが、せめてそれが終わるまで審議は延期するよう、発案者の右派ユダヤの家党ナフタリ・ベネット党首に要請していた。

しかし、ベネット氏はそれを拒否。6日火曜、国会は、ネタニヤフ首相を待たずに、法案の審議に突入したのであった。ネタニヤフ首相は、メイ首相との会談後、急ぎ直帰したが、審議、採択は、ネタヌヤフ首相不在のままで始められた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4918700,00.html

<国際社会いっせいブーイング>

この法案が国会を通過したことが伝えられると、予想通り、国際社会はいっせいにブーイングを出した。名をあげたのは、イギリス、フランス、トルコ。

EUは、入植地の合法化は、”赤線を超える”(受け入れられない)とする声明を発表。2月28日に、イスラエルとの関係改善をめざすサミットを予定していたが、これを保留にすると伝えてきた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4918960,00.html

国連のグテーレス事務総長は、「国際法に違反する。イスラエルは、法的な責任を問われる。」と厳しく非難した。

パレスチナ自治政府は、国際社会に対し、イスラエルを処罰するよう、呼びかけた。

また、アッバス議長は、先月、70カ国以上を招いて、この問題に関する国際会議を開催し、安保理の反入植地決議案を確認したフランスのオーランド大統領を訪問した。オーランド大統領は、イスラエルはこの法案を撤回すべきであると語った。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4919004,00.html

<アメリカの反応>

今回、イスラエルが一気に入植地政策をすすめているのは、トランプ政権がイスラエル支持ということが拍車になっている。しかし、ホワイトハウスは。「入植地の存在は平和への妨害にならないが、一方的な建築は妨害になりうる。」と若干、釘をさすコメントを出していた。

合法化法案の国会での議論については、トランプ大統領とネタニヤフ首相の会談が終わるまでは、動かないようにとネタニヤフ首相に伝えていたという。しかし、結局、審議は会談の前に行われ、国会を通過してしまった。

これについて、ホワイトハウスは、「最高裁の判断が出るまでは、コメントは控えるべきと考える。」と言っている。

<石のひとりごと:今後どうなるのか>

まずは今後、この法案が、実際に成立するかどうか。司法長官の決断が注目される。

しかし、現時点では、この法案が国会を通過して、イスラエルが世界中から非難されていることから、たった今、パレスチナがイスラエルを攻撃しても、イスラエルに同情する国はほとんどないという形が出来上がっている。正義はパレスチナ側にあり、という状況だ。

実際、ここ数日、ガザから銃撃が数回あり、南部地域に向けてミサイルも飛んできたことから(被害はなし)、イスラエル軍がハマスを空爆するという事態になっている。

しかし、ここで、この先、トランプ政権がどう出てくるかによって、状況は変わるだろう。イスラエルの盟友はアメリカだけだが、そのアメリカは、なんといってもまだまだ世界最強の国だからである。このジャイアンが味方してくれれば、イスラエルは、守られるかもしれない。

ところで、イスラエルが孤立しているというのは、政治上、ということであり、ビジネスや技術開発という面では、イスラエルは決して孤立していない。以前にもまして、イスラエルの技術力を求めてくる国は増えている。

不思議なパラドックスだが、ビジネスはビジネス。友ではないので、国益にならなければ、それらの国々はイスラエルをさっさと見捨てるだろう。

そういう意味では、やはり、イスラエルにとって、アメリカは唯一の”決して裏切らない”・・・はずの同盟国なのだが、そのアメリカがトランプ政権で、予期不能だから、なんとも危うい感じである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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