中東緊張:サウジアラビア対イラン 2015.3.26

シリア内戦にイスラム国と、もう十分カオス状態の中東だが、もう一つ新しい戦線が発生してしまった。25日夜、サウジアラビアが、湾岸諸国とヨルダン、エジプトやパキスタンも巻き込んで、隣国イエメンの主都サヌアを空爆したのである。

この戦闘が新たなスンニ派・シーア派の対立拡大にとどまらず、イランを巻き込んで深刻化して行くのではないかと懸念されている。

<イエメンで何が起きているのか:イラン+シーア派武装勢力の台頭>

イエメンといえば、スンニ派武装勢力アルカイダが、アメリカ関係施設などでテロを頻発させて、幅をきかせていた国だが、昨年9月、イランの支援を受けたシーア派武装勢力フーシ派が、イエメンの治安組織の一部と前大統領をかついで、登場してきた。

治安の著しい悪化から、昨年中にアメリカやイギリスは大使館を主都から南部港湾都市アデンへ移動せざるをえなくなった。湾岸諸国諸施設もその後に続いた。

フーシ派は、そのまま勢力を拡大し、今年1月、ハディ大統領を追放して暫定政権を設立。2月には主都サヌアを完全に占拠して、事実上、クーデターを成功させた形となった。

イエメンのハディ大統領はアデンに逃亡した後、そこからサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国に軍事介入を要請していたもようである。

サウジアラビアの駐米大使は26日、ワシントンで記者会見を開き、「合法的なイエメンのハディ大統領の要請を受けて、湾岸アラブ諸国と、ヨルダンなど10カ国が共同で、昨夜イエメンのフーシ派拠点を攻撃した。」と発表した。

この攻撃で、フーシ派の空軍勢力が壊滅的な打撃を受けたと伝えられている。続いてアラブ連合から地上軍が派遣される可能性もあり、シリアに続く第二の内戦と泥沼になるのではないかと懸念されている。

26日、イランは、「このような行為は問題を複雑化させるだけだ。直ちに攻撃を停止するように。」との声明を出した。またザリフ外相は、「イランは、イエメンの危機を落ち着かせるためにあらゆる努力をする。」とも語っている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4641225,00.html

<湾岸諸国へのイランの脅威逼迫か>

前回の記事でお伝えしたように、イランは対ISIS問題に乗じて、シリア、イラクに地上軍を送り込むなどして勢力を徐々に伸ばし始めている。それがイエメンにまで勢力を伸ばすようになれば、サウジアラビアなど湾岸諸国にはかなりの脅威となる。

今回は、シリアのISISへの攻撃で手一杯のはずのヨルダンも空軍を出してイエメン攻撃に参加している。エジプトも今は国内の問題で手一杯のはずが、サウジアラビアへの協力を申し出ているという。それだけ、中東諸国にとってイランが脅威になりつつあるということである。

イランの核兵器保有に備え、サウジアラビアが静かに核兵器取得の準備を進めているとも言われる。

www.nytimes.com/2015/03/26/opinion/to-stop-irans-bomb-bomb-iran.html?_r=0
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/193139#.VRP0iKW9DCs

ネタニヤフ首相は、世界にうさんくさがられてもなお、声を大にして、しつこくイランの脅威を訴えているが、実際、その状況に近づきつつあるのかもしれない。

*ISISの関与

しかし、ここで問題をさらに複雑化しているのがISISの関与である。イエメンのアルカイダ組織は、シーア派に押されているからか、今年に入ってISISの傘下に入ると発表。ISISもこれを受け入れると発表している。

3月には、ISISがサヌアで巨大な自爆テロを決行し、140人を殺害した。つまり、サウジアラビアは、フーシ派を攻撃することでISISを助けることにもなりかねないということである。

サウジアラビアはシリアでISISを空爆中である。にもかかわらず、フーシ派を攻撃したということは、それだけイランの脅威の方が逼迫しているとも考えられる。

いずれにしても、中東は、だれとだれが戦い、だれがスンニ派でだれがシーア派か、だれがだれの味方か、だんだんわけがわからなくなりつつある。

こうした状況に対し、アメリカはまたも後手にまわり、何もできなかったとの分析する記事がある。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4641278,00.html

<原油価格への影響>

今回のサウジアラビアによるイエメン攻撃で、懸念されるのは原油輸出への影響である。サウジアラビアのイエメン攻撃を受けて、まもなく、原油価格は6%上昇した。

今の所、アジアへの原油の輸出に問題は出ていないが、今後、どうなっていくか目が離せない状況である。

<頑固者:イエメンのユダヤ人>www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4641205,00.html

イスラエルが建国ちた後の1959年、イエメンには5万人のユダヤ人がいたという。そのほとんどはすでにイスラエルへ移住したが、まだ100人ほどのユダヤ人が移住を拒否したまま、イエメンに居残っている。このうち76人が主都サヌアにいるという。

ユダヤ機関は、以前よりイスラエルへの移住をすすめてきたのだが、100人は頑固にその手を拒否しているという。しかし、昨年9月にフーシ派がイエメンを攻撃して以来、治安が悪化し、信仰活動も縮小せざるを得なくなっているもようである。

イスラエルは、今回のサウジアラビアのイエメン攻撃を非常に注意深く見守っている。この100人も、手遅れになる前に移住してくれることを願うところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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