目次
今週、イスラエルは、友好国アメリカを含む国際社会からの大批判をあびることとなった。パレスチナ人権保護団体などNPO6団体をテロ組織と認証をすると発表したことと、西岸地区にユダヤ人家屋1300件の販売に踏み切ったという二件である。それぞれは以下の通り。
パレスチナ人権保護6団体をテロ組織に認定:国連が反発表明
イスラエルからは、22日、ガンツ防衛相が、6つのパレスチナ人権保護団体をテロ組織に認証するとの発表を行なった。その中には、人権保護団体アル・ハック、R&Dのビサン・センター、パレスチナ女性委員会や、農業関連の団体など、アメリカやEUからの支援を受けている著名な団体も含まれていた。
ガンツ防衛相は、これら6団体が、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)の活動家や高官を雇用しており、組織の経済活動を担う部署として稼働していたと発表。そのうちの何人かをすでに逮捕したもようである。PFLPはアメリカもEUもテロ組織として認証する団体である。
6団体は、テロ組織との関連を激しく否定している。これを受けて、国連の人権保護長官ミシェル・バクレット氏は、ガンツ防衛相が確たる証拠を提示していないと指摘。人権保護への攻撃だとして、すぐにもにも取り消すよう、イスラエルに伝えた。
www.timesofisrael.com/france-calls-for-clarifications-after-israels-terror-listing-of-rights-groups/
またフランスが、懸念を表明すると発表した他、アメリカは、6団体のテロ組織指定について、イスラエルから前もっての報告は受けていないと発表した。しかし、情報が伝わっていなかったのは、アメリカの内部事情によるとみられている。
イスラエルは、6団体の情報管理は“鉄壁”であったが、明白な証拠(支払い書類、ビデオクリップ、写真など)を得ているとして、代表団をアメリカに派遣した。
www.timesofisrael.com/shin-bet-foreign-ministry-reps-heading-to-us-over-outlawed-palestinian-groups/
この件については、治安閣議やベネット首相にも報告なしに、ガンツ防衛相が独自に発表したとの報道もある。ベネット首相がうまく、責任を追わない形で、イスラエルの治安を守るよう、動いた可能性もあるが、今後の世界の動きを注目していきたい。
西岸地区のユダヤ人入植地1300戸建設へ:世界が猛反発
世界からの猛反発をあびる動きがもう一つ発生した。
イスラエルは先週、西岸地区のエリアC(イスラエルが支配する地域で西岸地区の約60%を占める)に、パレスチナ人の家屋1300件を許可するとともに、ユダヤ人家屋も3000件を許可する可能性を示唆していた。
この地域にパレスチナ人の家屋を1300件も認めるのは初めてではあるが、ユダヤ人家屋は3000件も許可される方向とあって、アメリカも懸念を表明していた。
www.timesofisrael.com/israel-said-set-to-okay-3000-new-settlement-homes-1300-palestinian-homes/
この後、今週24日、イスラエルは、エリアCの入植地7箇所に1335件のユダヤ人家屋を設立すると発表した。予定されている地域は、アリエルに729件、ベイトエルに346件、エルカナに102件、アダムに96件となっている。
いずれも、すでにユダヤ人入植地として確立している地域である。しかしながら、これらはみな、1967年の六日戦争以前の国境線を超えたところに新たな住宅を建てることを意味する。このため、EUはイスラエルのこの発表は違法であると反発した。
フランスは、二国家設立を妨害する動きだとして、すぐにもこの建設をやめるようにと表明した。
近隣諸国では、ヨルダンが、外相オフィスから、「パレスチナの占領地に、イスラエルの入植地が建設されることに警告を表明する」と発表している。
アメリカのバイデン大統領はまだこれに関する声明を出していないが、ネッド・プライス報道官は、“懸念”を表明した。この動きが、アメリカとイスラエルの友好関係にどう反映してくるかが注目されている。
www.timesofisrael.com/eu-condemns-israel-over-plans-to-build-1300-new-settlement-homes/
統一政権にも影響?:左派政党が反発
パレスチナ人権団体6施設、西岸地区での入植地建設について、左派政党らが反発を表明している。今後の政権維持にも影響する可能性も指摘されている。
パレスチナ自治政府の反応と実情:ベネット首相の対パレスチナ方針
パレスチナ自治政府のシャティヤ首相は、前回と今回とで3000件近い家屋が、パレスチナ人地域の近くにも建設されるとして、これは深刻な挑発だと反発した。
しかし、実際のところ、西岸地区における家屋の建設は、パレスチナ人に労働の機会を提供することにもなるはずである。
ベネット首相は、パレスチナ国家設立には懐疑的な右派で、パレスチナ問題については、新しいアプローチを考えているようにみえる。
現在、パレスチナ自治政府の困窮は極みに達しており、今週、シャティヤ首相は、ブリュッセルでEUと会談する予定になっている。
自治政府は、今年に入ってから最大の支援者であるEUからの支援を受け取っていなかったという。8億ドル(900億円)のマイナスということである。
www.timesofisrael.com/with-no-crucial-eu-aid-since-start-of-year-palestinian-pm-heads-to-brussels/
こうしたパレスチナ自治政府の厳しい現状とともに、パレスチナ人とイスラエルの暴力的な衝突が増えているというのが現状である。ベネット首相は、「まずは、パレスチナ市民の経済を改善しなければならない。今はまだ和平交渉をする時ではない。」との考えを明らかにしている。
このためか、西岸地区のパレスチナ人3000人にIDカードを発行したり、西岸地区には、イスラエルが治安を守るC地区に、これまでとは比較にならない1300件を許可する予定である。
また、パレスチナ人の経済を助ける対策として、ガザについては、ガザのビジネスマン4000人にイスラエルでの労働ビザを発行したが、今後、7000人から1万人にビザが発行することも検討しているとの報道もある。
パレスチナ人の経済が改善すれば、暴力的な衝突が減り、ようやく和平交渉に進めるようになると考えているのであろうか。
このベネット首相の作戦が、成功するのかどうか。国内統一政権は、世界はそれを認めるのか。新時代のパレスチナ問題へのとりくみが成功するかどうか。さまざまな点で、注目されるところである。