ポンペオ米国務長官中東歴訪:大きな成果なく帰国 2020.8.28

ポンペオ国務長官とネタニヤフ首相 出展:GPO

ポンペオ米国務長官は、エルサレムを皮切りに4日間の中東歴訪を終え、27日、アメリカに帰国した。

UAEでは、F35戦闘機の取引について話し合いがなされ、大変前向きな話ができたと報告した。イスラエルでは、たとえ国交を樹立したとはいえ、いつ敵になるかわからないアラブ諸国にF35が売却されることについて、イスラエル、特に軍関係者の間で懸念が高まっている。この懸念について、ポンペオ国務長官は、イスラエルとのバランスには留意すると約束した。

www.jpost.com/israel-news/pompeo-well-supply-uae-with-arms-without-hurting-israels-advantage-639746

しかし、UAEに続いてイスラエルとの国交を樹立すると期待されて訪問した湾岸、アフリカのアラブ諸国からは、その確約を取ることはできなかった。

スーダンでは、ハムドク首相が、イスラエルとの国交樹立には難色を示し、一方で、アメリカに、スーダンに宣言されたテロ国家のレッテルを外すよう、要請した。それとの取引として、将来、イスラエルとの国交も希望がないわけではないが、今はまだイスラエルとの国交はなさそうである。

バハレーンでは、ハリファ皇子と会談。皇子は、イスラエルとの国交樹立は、パレスチナ国家の設立が条件との姿勢を崩さなかった。

最後に訪問したオマーンは、前のスルタンで今は亡きスルタン・カブーが、ネタニヤフ首相を国に招いたり、後継のスルタンも、UAEのイスラエルとの国交樹立を歓迎する意向を表明していた。しかし、こちらも、パレスチナの立場を擁護するとして、イスラエルとの国交樹立への確約はとれなかった。

このように、ポンペオ国務長官は、UAEに続いてイスラエルとの国交を樹立するアラブ諸国との確約はとれないまま、アメリカへの帰国の途についた。

www.timesofisrael.com/pompeo-heads-home-after-appearing-to-hit-wall-in-push-for-israel-ties/

<今後の予定:アメリカがイスラエル代表をUAEへエスコート予定>

ポンペオ国務長官に続いて、クシュナー大統領補佐官を含むトランプ政権の高官たちが、イスラエルを訪問。イスラエルからUAEまでの初の直行便で、イスラエルの代表団をUAEまでエスコートすることになっている。

クシュナー補佐官たちは、バハレーン、オマーンも訪問予定であったが、ポンペオ国務長官の訪問で前進がみられなかったため、変更になる可能性も出てきている。

なお、イスラエルとの国交樹立を決めたUAEだが、まるまる両手を上げてイスラエルと手を結ぶわけではない。国交を樹立するのは、ネタニヤフ首相が、西岸地区の一部併合を停止すると約束したからだとし、これがパレスチナ国家設立への道備えになると考えていると述べている。西岸地区の一部併合については、のちにネタニヤフ首相が、停止ではなく、一時保留に過ぎないと述べたため、UAEとの見解の相違が問題にはなり始めている。

とはいえ、イスラエルとUAEは様々な分野での協力について、話をどんどん進めているところである。

edition.cnn.com/2020/08/25/politics/kushner-middle-east/index.html

<イラン問題でアメリカは孤立に向かうか?>

こうした湾岸諸国とイスラエルとの和平を推進することで、アメリカはイランへの包囲網を強化しようとしている。アメリカは、先週、国連安保理において、イランがテロ組織を支援、JCPOAとの約束を破って、核開発も行っているとして国際的な経済制裁を課すべきだと主張した。

しかし、安保理はこれを否決した。これに対し、ポンペオ国務長官は、JCPOAとの合意にイランが反しているとして、こちらからの制裁復活を再開するよう求めていくと述べた。しかし、JCPOAの国々は、アメリカが、単独でJCPOAから離脱した以上、それを持ち出すのはおかしいとして、これも拒否するみこみである。

www.aljazeera.com/news/2020/08/unsc-dismisses-demand-impose-snapback-sanctions-iran-200825163456943.html

一方、イランは、JCPOA諸国とアメリカの要請に応じ、核物質が保管されているとの疑いがかかっている場所へのIAEAの査察を受け入れると発表した。査察日は公開されないが、9月中にもその結果が発表される予定とのこと。これでもしイランは問題なしと言われた場合、アメリカは、イランへの敵意を継続できず、世界から孤立することにもなりかねない。

www3.nhk.or.jp/news/html/20200827/k10012585831000.html

イスラエルと湾岸アラブ諸国をつなぐことで、パレスチナ問題を解決すると同時に、イラン包囲網を作り上げるというのがアメリカの作戦のようだが、なかなか、すんなりとことは運んで行かないようである。

また、アメリカのこのような動きに対し、イランは、アメリカが、ますます敵視する中国に近づく様子を見せている。現在、両国は25年間の同盟契約を結ぶ方向で動いている。イランと中国が結びつけば、アメリカの制裁などほとんど意味はなさなくなる可能性がある。

28日、中国は、アメリカを牽制するためか、南シナ海へ中距離弾道ミサイルを4発発射した。これがイランから、アメリカへの返答のようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。