ベネット首相初の国連総会演説 2021.9.30

国連総会メッセージ

27日に国連総会に登壇したベネット首相。その内容について、様々なメディアがそれぞれの着眼点で報じている。特に注目されたのは、イランへの攻撃も示唆したかのような発言と、ベネット首相が、パレスチナ人について、いっさいなにも語らなかったことである。

ここでは、首相府が出している原稿から、演説の順番通りに全体像を、またそれに対するコメントや反論をお伝えする。ベネット首相が政権運営にどのような視点を持っているかもわかるので参考にしていただければと思う。

ベネット首相は、「イスラエルは、嵐の中の灯台のようです。」と述べ、愛国の言葉から、約25分の演説をはじめた。

1)イスラエルは嵐の中の灯台:イスラエルの復活は奇跡「アム・イスラエル・ハイ(イスラエルの民は生きている)」

ユダヤ人の国イスラエルが復活し、今存在していることは奇跡。これまでイスラエルは、戦争によって定義づけられてきたが、イスラエルの民は、それで定義づけられるものではない。

イスラエル人は、戦争のことだけを考えているのではなく、よい暮らし、家族の平安、子供達のためによりよい未来を作ろうと考えている。そのために、国の存続のために時々、戦争に駆り立てられてきた。私の友も私自身も、戦場で戦った。そのことで、この人々が裁かれるべきではない。

イスラエルには、暗く恐ろしい過去があるが、常に前を見て、明るい未来を築こうとしている国である。

2)イスラエルはコロナ禍への希望

世界は今コロナで苦しんでおり、すでに500万人が死亡した。イスラエルは、これを自然のものと受け入れるのではなく、これと戦い、すでに希望を見出している。コロナに勝つためには、新しい発見や、新しい視点が必要になる。イスラエルはその先端に立って研究し、科学とポリシーの決定力で、モデルとなってっきた。

今イスラエルは3つの柱で動いている。

①ロックダウンしない

2020年に受けた経済や心に受けたダメージははかりしれない。社会活動はオープンにしておく。それに伴い家庭で行う検査キットを活用している。国民もコロナとの戦いに貢献できるということだ。

②先手のワクチン接種

コロナとの競争にうちかつべく、イスラエルは早期にワクチンを開始した。今は世界に先駆けて、3回目ブースター接種をはじめている。3回目接種で、感染予防力は2回接種した人の7倍、未接種の人の40倍に及んでいる。この結果、イスラエルは第4波をロックダウンなしで通過できた。

③先手をいくというルール

イスラエルでは、毎日開催する委員会を設けた。政府の役所手続きを待たず、すぐに決断ができるようになった。これについての鍵は、「やってみること失敗」ということである。毎日変化がある。新しいデータに新しい決断が必要だ。うまくいけば、それを続けるが、うまく行かなければそれをやめて先に進むだけである。

パンデミックの時代に国を運営するということは、単に健康だけの問題ではない。コロナで影響をうけている分野、特に就業と教育というあらゆる分野のバランスをとっていくことが必要になる。

医師たちの働きは重要だが、彼らが国をまわす者になってはならない。最終決断を下すのは、国の指導者である。イスラエルはその中で、国民に、自衛するあらゆる資源や方策を提供している。

ユダヤ教の教え、タルムードに中に、「一人の命を救う者は、全世界を救う」という言葉がある。イスラエルはこの事に準じて歩んでいる。

3)イスラエルは世界の政治的な分断の危機への希望

世界は、今分断の危機に直面している。イスラエルでも、2年の間に4回の総選挙があった。私とパートナーが、100日前に確立した新政権は、イスラエル史上最も多様な政府である。しかし、その偶然のなりゆきが、今は一致を目標として一つのテーブルに座ることができている。

合意できなくてもよい。論議してもよい。人々はそれぞれ違う考えを持っているものである。健康的な論議は、スタートアップの国、ユダヤ人の伝統であり、成功への鍵である。

4)中東の中で敵に囲まれるイスラエル:特にイランについて

イスラエルは世界に貢献しようとしているが、同時に、周囲で何が起こっているかから目を離せないでいる。文字通り、シーア派イスラム過激派のヒズボラ、イスラム聖戦、ハマスが私たちの国境ととりかこんでいる。

これらの組織に共通した点は、イスラエルを破滅させるということであり、どの組織も皆イランの支援を受けているということである。そのイランが目指すのは中東を支配するということであるということは、誰の目にも明らかである。その手段が核兵器である。

この30年の間、イランは中東各地に死と破滅をもたらしてきた。レバノン、イラク、シリア、イエメン、ガザ。これらの国で何が起こっているかといえば、国民は飢え、経済は崩壊にむかっている。イランが手をつける場所はすべて崩壊するということである。

イランの脅威がイスラエルだけに迫っていると思うなら、それは間違いである。今年、イランは、UAV(無人ドローン)の特殊部隊をつくり、いつでもどこでも攻撃できるようになった。中東全域がその射程に入っている。

イランはすでにサウジアラビア、イラクの米軍基地、また民間輸送船を攻撃してイギリス人とルーマニア人を殺害した。イランは、イエメン、イラク、シリア、レバノンにその殺人ドローンを配備できるようにしている。

エブラヒム・ライシ氏
wikipedia

イランという国は、1988年に、政治犯だとして5000人を処刑している。その死の委員会は4人の人物からなっており、イランのライシ新大統領はそのうちの1人であった。

ライシ大統領は、イランの子供が殺戮されるところを見ていたことから、「テヘランのブッチャー(肉や)」という異名をとった人物だ。このとき、ライシ大統領は、殺害された者の金を着服し、その後パーティを開いて、クリームケーキを食べたのだ。

殺戮を祝ってクリームケーキを食べたのだ。この人物が今イランの大統領である。イスラエルはこの人物と対峙しているということである。

ここ数年の間にイランは、核開発で大きく前進している。査察は無視している。IAEAとの合意から逸脱している。ウランの濃縮を60%にまで上げて、核兵器製造に近づいている。テヘランとマービンにある極秘の核兵器関連の場所は明らかだが、(国際社会に)無視されている。

イランの核兵器開発は勢いをとどまらない。イスラエルの忍耐も限界に近づいている。言葉で、遠心分離機が止まることはない。

世界には、イランの核兵器保有に危機感を持つ人もいるが、もはや聞き飽きたという人もいる。イスラエルは後者になるという余裕はない。イスラエルは、イランを核保有国にはさせない。

イランは、今、かつてのイランほど強くなく、かなり弱いとみえる。その経済は縮小し、若い世代は政権から離れようとしている。イスラエルが、真剣にイランの(核開発)を止めようとし、あらゆる手段を使うなら、イランを止めることができるだろう。イスラエルはこの道をたどっていくだろう。

5)中東での明るい未来:アブラハム合意

中東には明るいニュースもある。イスラエルがアラブ諸国、イスラム諸国と手を結ぶ傾向にあるということだ。その動きは42年前にエジプトで肺まった。27年前には、ヨルダンとの合意に至った。最近ではアブラハム合意で、UAE,バーレーン、モロッコが、イスラエルと国交正常化に合意した。今後これに続く国々があるだろう。

イスラエルが建国73年となり、イスラエルの存在価値や、世界でのユニークな立ち位置を理解する国が増えてきた。アメリカは、長年イスラエルとともにたつ友人だ。それは数日前の議会での決定にも現れている。(イスラエルへの迎撃ミサイル増強支援を可決)

その動きは中東にも出始めている。反ユダヤ主義で知られるダーバン・カンファレンスを38カ国が欠席をした。このカンファレンスに出席した国に言いたい。イスラエルを攻撃することが、道徳的なのではない。中東で唯一の民主国家を攻撃することは、目覚めるということではない。

6)暗闇か光か

イスラエルに関する現状をよく調べないで批判をそのまま受け取ることは、ただ怠惰といえる。このビルにいる国々には、すべて選択の自由がある。その選択は政治的ではなく、道徳的なものである。暗闇を選ぶのか光を選ぶのかということである。

暗闇とは、政治犯を迫害し、罪のないものを処刑する、女性や少数民族を虐待し、近代社会を終わらせようとする力である。光とは、自由、繁栄と機会を追求することである。

独立73年を超えたイスラエルとその人々は、多くのことを達成してきた。自信を持って言えることは、さらによいことを将来にむけて達成するということだ。イスラエルは、大きな希望の国であり、トーラー(聖書)の教えを近代社会にもたらす国、けっして破壊されないスピリットの国だ。

小さな光が大きな暗闇を吹き度ばすのだ。イスラエルは嵐の中の灯台。強く立ち続けて光を放ち続ける。

www.timesofisrael.com/full-text-of-bennetts-un-speech-irans-nuclear-program-at-a-watershed-moment/

世界とイスラエルの注目点・批判

今回の注目点は、まず、核兵器開発が急速に進むイランに、武力行使もありうるかとも聞こえる発言である。次に、パレスチナ問題にはいっさい触れなかったこと。ベネット首相は、すでに、パレスチナ自治政府との対立はあまりにも深く、今は、話し合う段階にはないという認識を明らかにしている。国連総会でその点に触れなかったことで、この考えを明確にしたといえる。

コロナ問題については、いわゆる専門家たちが、ベネット首相が、「医療者には全体像が見えていない」と語ったことに反発を表明した。そういうコメントは言う必要がなかったとホロビッツ保健省は語っている。

またイスラエルのコロナ対策が成功したとはいえないとして、国際社会にむけて発したベネット首相のコメントが現実と違うといった批判も出されていた。国内では、感染拡大の収束への動きは低迷し、逆に重症者は増えるという状況にあった。しかし、これも日々変化しているので、政府への批判が殺到し続けているということもないようである。

石のひとりごと

イスラエルの文化からは、学べることが多いが、特には、ベネット首相のいう、「やってみて失敗するはOK」である。日本を含め多くの国では失敗すると、徹底的に責任を追求され、それで人生が終わってしまったりする。だから、だれもが石橋を叩いて渡るようになる。さらには、責任逃れの道を必ず用意する。これが日本が危機管理に本領を発揮できない原因であろう。

どんどんやってみることで、新たな道が見えてくるものである。失敗からも新しい道や知恵が得られる。確かに、イスラエルの最大の強みは、この「とにかくやってみて失敗はOK」の社会である点にあると思う。

クリスチャンの中には、主のみこころの確信を待ち続けて永遠に動かない人がいる。ともかくやってみたらみこころがわかるかもしれない。うまくいけば道は開ける。失敗したらみこころでなかったというだけである。このイスラエルスピリット、特にイスラエルの神を信じているクリスチャンたちには受け取って欲しいと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。