バイデン大統領の外交始動:イスラエルとの関係はどうなる?2021.2.6

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トランプ政権政策を覆す外交方針

4日、バイデン大統領が、国務省で、就任後はじめて、外交方針に関する演説を行った。バイデン大統領は、「アメリカが戻った。外交が戻った。」と宣言。パンデミック、地球温暖化など多くの試練に直面する今の世界では、共に働かなければならないと強調した。

そして、ともに働くことは外交から始まると述べ、アメリカの本来の理念である民主主義を守ること、法のルールを守ることなどを通して、”失われた”アメリカのリーダーシップを回復すると述べた。主な内容は以下の通り。

1)国際協調路線:米露には厳しく

国際協調を目指すという点においては、就任早々に、パリ協定に復帰、WHOとの関係(トランプ大統領が出資を停止)を回復したことをあげた。

また、ロシアとの核軍縮条約にあたる新戦略兵器削減条約(新START)を5年延長したとも述べた。しかし、プーチン大統領には、ロシアの暴力的な動き(サイバー攻撃や反政権活動家ナバリヌイ氏毒殺未遂など)を、今後、看過することはないと釘をさしたと述べた。

これは微妙にプーチン大統領に近づいていたトランプ前大統領の方針と決別した形である。

トランプ政権時代にはじまった新冷戦の状態にある中国に対しては、経済的な不正利用や、人権、知的財産権や、民主主義への挑戦に応じるとしつつ、国益につながるなら、話し合いもありうると述べた。

2)世界に駐留する米軍の意味を見直し:イエメン介入方針見直し

世界に駐留する米軍が、現地諸国の益になっているかの見直しをすると述べた。特に、イエメンへのアメリカの介入の仕方をみなおすと述べた。単に政府軍を支援することはやめて、内戦そのものを終わらせる方向に向きを変えると言っている。

アメリカ軍は、イエメンだけでなく、イラクなど中東各地の駐留し、イランを警戒するシーア派の支えになっている。特にイラクでは、バイデン政権が、こうした地域からの米軍撤退を決めれば、イランの進出の他、ISなどの過激派の台頭につながるとの懸念も広がっている。

今回の外交方針演説では、イスラエル、パレスチナ問題についての直接の言及はなかった。

3)多様性への許容:移民政策見直し/同性愛者人権保護

バイデン大統領は、世界で苦しんでいる8000万人の難民問題に言及。現在、5000人にとどまっているアメリカへの難民受け入れを、4年の在職中に12万5000人まで回復させるとした。

これについては、先月、バイデン大統領が就任する直前、アメリカへの入国がしやすくなるとみた中南米、ホンデュラスの難民約7千人が、アメリカをめざして北上し、通過しなければならないグアテマラの治安部隊と暴力的な衝突となっていた。

www.bbc.com/japanese/55702104

バイデン大統領は、トランプ前大統領が停止したイスラム教徒入国禁止の緩和についても言及しており、アメリカ移住を目指す難民や、外国人が押し寄せて混乱をもたらす可能性がある。

この他、国際的にLGBT(同性愛者)の人権保護を推進することや、同性愛者の従軍禁止を緩和するなどを挙げた。なお、バイデン大統領は、人工妊娠中絶においても容認の立場を表明している。

4)外交と内政の関係:Buy American政策は維持

外交を維持しつつも、アメリカ製品の販売拡大に努め、国内経済を救済することも協調した。

この他、定期的なホワイトハウスからの記者会見の実施を通して、透明性を高めると表明するなど、世界に、トランプ政権時代は終わったのだということを印象づけた。実際、就任以来、署名した大統領令は、28項目にのぼっている。これは、歴代最速だという。

しかし、これだけの数の大統領令を就任後すぐに出したということは、正式に議会を通していないということでもあり、職権濫用の懸念も否定できない。このため、バイデン大統領の外交方針を支持する共和党員は、わずか18%にとどまっている。

また、同性愛や人口中絶を容認するなど、前トランプ政権を支持した福音派を逆なでするような項目にも遠慮なく着手している。今後、アメリカ国内の分断をさらに深めるのではないかとの懸念も出ている。

www3.nhk.or.jp/news/html/20210130/k10012840991000.html?utm_int=detail_contents_news-related_001

ネタニヤフ首相とまだ電話会談していないバイデン大統領

バイデン大統領は、就任2週間の間に、多くの首脳と電話会談を実施した。まずは近隣のカナダ、メキシコ、続いて、欧州イギリス、フランス、ドイツ、拠出金削減で、関係が冷え込んでいたNATO事務局長とも電話会談し、同盟関係を確認した。

その後、バイデン大統領はロシアのプーチン大統領に電話。続いてアジアの日本、韓国、オーストラリアの首脳を電話会談した。

バイデン大統領にとって、まずは、民主国家の同盟国たちとの関係回復をはかるとともに、共産主義国との間に明白な線を引くことで、世界を”本来の形”に戻すことが優先だということである。

一方、バイデン大統領は、今もまだ、トランプ前大統領が、力を注いできた中東諸国やイスラエルには電話をしていない。バイデン政権において、中東政策の優先度は低いということだと言われてはいるが、それ以外のメッセージもあるのではないかとの憶測もある。

バイデン大統領とネタニヤフ首相は、まずはイラン問題で対立している。イスラエルは、バイデン大統領が、イランとの核合意に戻る可能性を示唆していることについて明白な懸念と反対を表明している。

さらに先週、イスラエル軍のコハビ参謀総長が、INSS(イスラエル国家治安研究所)のカンファレンスで、「イランへの攻撃準備を命じた。」と発言して物議をかもした。これは、イランとの核合意に戻る可能性を示唆するバイデン大統領に対するネタニヤフ首相の警告であったと考えられている。

こうした流れからバイデン大統領は、ネタニヤフ首相との会談を行わず、現時点ではまだイランに対する立場を明確にすることを控えているとも考えられる。

また単純に、ネタニヤフ首相が、特にバイデン大統領が、覆そうとしているトランプ前大統領と蜜月であったので、今はまだ一定の距離を置いているのではないか。3月23日の総選挙までに、ネタニヤフ首相にいかなる勲章を与えてはならないと考えている可能性もある。

ところで、バイデン大統領とネタニヤフ首相は、長年の知り合いである。1980年代、バイデン大統領が、まだ40歳代の若き上院議員であったころ、ネタニヤフ首相はさらに10歳若い、駆け出しの外交官として、ワシントンのイスラエル大使館で働いていた。

両者は、お互いにメールを交わす仲でもあったとのこと。しかし、ネタニヤフ首相とは関係が芳しくなかったオバマ前大統領の時代に、バイデン大統領は副大統領であった。このころから、両者の関係も冷え込んだとみられる。

今後、ネタニヤフ首相が、バイデン大統領とどんな関係を築き上げていくかが、注目されている。

水面下の動き:ブリンケン国務長官とイスラエルのアシュケナジ外相が会談

首脳同士の対話はまだ始まっていないが、水面下では動きがあった。バイデン大統領が電話会談を行っていた先月27日、ブリンケン国務長官と、イスラエルのアシュケナジ外相が、新政権では最高レベルの電話会談を行った。

両者は、国交正常化の輪を広げること、イランの脅威などについて話し合い、今後も連絡を取り合うとともに、」パンデミックが終われば直接会談することでも合意したとのこと。

www.jpost.com/middle-east/will-israel-us-iran-collide-over-nuclear-deal-ambitions-657905

この日、アメリカは、核兵器の可能性も持つ長距離対応戦闘機B29をアメリカから発進させ、中東上空を飛行して帰還させた。また、この日、その他の戦闘機、燃料補給用タンカーや、サウジアラビア王室空軍F15も稼働させた。

こうした動きは、トランプ前政権時代にも2回行われている。これは、アメリカが長距離においても、防衛力を維持していることと、近場からも軍備を稼働できることを世界に示したものとみられている。イランに対する警告にもなったとみられる。

アメリカとイスラエルの関係が懸念されてはいるが、この両国の関係は非常に深く、バイデン大統領とはいえ、そう容易にイスラエルを見捨てることはないと期待したい。

www.timesofisrael.com/us-b-52-once-again-overflies-mideast-in-show-of-force-to-iran/

石のひとりごと

バイデン政権がどんな政権になるかはまだわからない。しかし、まったくの個人的な勘であり、間違っているかもしれないが、アンソニー・ブリンケン国務長官に不思議な好感を覚える。

ユダヤ人であり、継父はホロコーストサバイバーだというブリンケン国務長官。就任最初の仕事が、エルサレムでの国際ホロコースト記念日でのビデオメッセージであった。主がこの人を用い、イスラエルとアメリカの祝福をもたらしてくれることを祈る。

石堂ゆみ

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。