ベネット首相・バイデン大統領会談:イランの核保有阻止で合意 2021.8.28

ホワイトハウスのダイニングルームでの会談 ホワイトハウス・ツイッターより

アフガニスタンでの自爆テロ事件を受けて、24時間延期となったベネット首相とバイデン大統領の会談が予定通り、27日午前中に実施された。2人の首脳は、ホワイトハウスのダイニングルームにおいて、プライベートで、コーヒーを飲みながら50分の対話の時を持った。その後の記者会見で公表された内容は以下の通り。

バイデン大統領の発言・ベネット首相の発言

1)バイデン大統領:外交で、それがだめなら“その他の方法で”、イランが核保有国にならないようにする

今回の会談は、バイデン大統領からの招待で、実現したものである。バイデン大統領は、ベネット首相の両親はアメリカ人であったことをあげ、ベネット首相とは昔からの友人にような気がすると述べた。

バイデン大統領は、基本的に、イスラエルの治安維持にコミットしている述べ、イスラエルへのアイアンドーム迎撃ミサイルの増強支援を、確実に行わせるすると約束。

また、イランが核保有国にならないようにする。今は「イランとの核合意に復帰して新たな核兵器開発抑止への合意をめざす」という外交手段に全力を尽くすが、もしそれが功を奏しないとなれば、“別の方策”をとることも視野にいれていると述べた。これは、イスラエルと目標を共有するということである。

この他、(ブリンケン国務長官との話し合いでも出されたように)イスラエル人がビザなしでアメリカへ行き来できるようにすることで合意したとして、実務的な準備を始めていくと表明した。アメリカとの信頼関係の土台を確認するというベネット首相の目標は概ね達成したともいえる、バイデン大統領のコメントであった。

2)ベネット首相:軍の派遣は不要・アメリカのバックアップに感謝・今後もよろしく

ベネット首相は、まず、アフガニスタンでの犠牲に追悼を表明。イスラエルはいつもアメリカの側に立つと強調した。また、アメリカが常に、歴史的にもイスラエルの側に立ってくれたと感謝を表明し、イスラエルにとって、アメリカほど信頼できる友好国は他にないと述べた。

その上で、「イスラエルは、アメリカに軍を派遣してほしいとは言わない。自分を守るのは我々自身である。自分の防衛を他国に依存することはない。しかし、そのためのツール(武器や情報など)や、背後での合意といった支援に、心から感謝すると述べ、今後の協力活動のあり方を示唆した。

また、ベネット首相は、最重要事項として、イランの核問題を第一にあげ、バイデン大統領がイランが核保有国にならないようにすると表明したことに感謝を述べた。

その上で、万が一にも核兵器が過激イスラム組織の手にわたったら、全世界にどれほどの惨状をもたらすことになるかは、今世界で起こっていることをみれば明らかだ。特にイランは、世界で最もテロと人権侵害を撒き散らしている国だと述べ、その国がこの瞬間にもウランの濃縮を行っていると警鐘を鳴らした。

ベネット首相が、バイデン大統領に提示した目標は、①イランの中東での過激な動きを封じ込めること、②イランが将来的にも核兵器を保有しないようにする、とイラン問題を強調した形となった。

最後にベネット首相は、バイデン大統領が(聖書への)信仰の人(カトリック)で自分もそう(正統派ユダヤ教徒)だとして、イザヤ書49章には、ユダヤ人の息子・娘たちが帰ってきて、その国を立て直すと書いてある。それが今現実になっていると述べた。「これはあなたも長年信じてきたことの奇跡である」と語った。

アメリカとイスラエル(ユダヤ人の国で民主国家)が、(聖書という)同じ価値観に立っている特別な友好関係にあることを表明したと思われる。両国は、ともに世界によいことをしようとしている国であり、世界の灯台になる国だと、ベネット首相はしめくくった。

www.timesofisrael.com/full-text-biden-and-bennetts-statements-at-the-white-house/

しかし、バイデン大統領は、ピンと来なかったようである。この後、イスラエルとアメリカの関係は前の指導者、オバマ大統領によると敬意を表する発言をした。

イスラエルでは、オバマ大統領は不評の傾向があったが、ベネット首相もとりあず、これに同意を表明していた。

初会談の評価は:バイデン大統領はイスラエルを愛しているか?

バイデン大統領との初会談を終えたベネット首相は、バイデン大統領が、アフガニスタンでの問題がある中、予定通りに会談の時を持ってくれたことに感謝を表明。一対一の対談を通して、バイデン大統領がイスラエルを愛していると思うと語った。ベネット首相は、コロナを制覇できた時には、イスラエルにきて欲しいとバイデン大統領を招待したと明らかにした。

バイデン大統領がイランの非核化に合意したことは喜ばしいことだとしながらも、時間が少なすぎて、多くの問題を保留にしなければならないあったとも語った。

特に注目されていたことは、イランとの外交努力がうまくいかなかった場合の“その他の方法”が具体的に何かについてである。イスラエルがアメリカに求めているのは、「イランにこちらの要求に対し、合意せざるをえないような軍事的な脅威」をもって、核兵器をあきらめさせるというプランBだといわれている。ホワイトハウス報道官は、この点については、明らかにしなかった。

www.timesofisrael.com/bennett-biden-loves-israel-invited-to-visit-after-delta-variant-defeated/

おそらく、具体的な話にまですすまなかったということであろう。しかし、アメリカとイスラエルの友好関係の新たなページをはじめるという点では、おおむね目標達成ではないかと、イスラエルのメディアはおおむね評価している。しかし、中には、アメリカが今後、中東から手を引いていくということを思いとどまらせたのであれば、最終的にこの会談の目標が達成されたといえるのではないかと解説するものもあった。

www.jpost.com/american-politics/bennett-checked-off-all-his-boxes-in-washington-analysis-677930

石のひとりごと

49歳とまだ若いベネット首相を78歳の超ベテラン政治家のバイデン大統領はどのように見ただろうか。

これは、なんどか書いているように、全くのカンなのだが、ベネット首相は、少なくとも今は、波に乗っているような気がする。コロナもイスラエルでは、ワクチン3回目がすすんでくるにつれて、重傷者が30%も減ってきていると言う。常にぎりぎりをすりぬけているのである。

超多様な連立政権という、いまだかつてない政権運営を49歳という若さで担っているベネット首相。さらに国会での支持基盤はわずか6議席である。若いだけでなく、とにかくできることは全部やるという必死の姿に、ともかくも応援しようと思ってしまう。オバサン根性ならぬオジサン根性が、バイデン大統領の中に生まれていてくれればと思う。

しかし、ベネット首相の、「イスラエルは、防衛のためにアメリカ軍を派遣して欲しいとは絶対に言わない。それは我々の仕事だ。」という発言に、日本を思わされた。今回もだが、日本はアフガニスタンにいる日本人やその協力者の救出にも他国の助けがないと動けなかった。法があるからである。

これからの時代、慎重にしなければならないものの、時代に即した危機対応への法整備、自衛隊だけでなく、健全な形での国民意識の教育、準備を急ぎしていく必要があるのではないかと思った。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。