ネタニヤフ首相:トランプ大統領との初会談 2017.3.3

* 諸事情により、配信が遅れましたこと、心よりお詫び申し上げます。最後の配信から今日に至るまで、2月中のイスラエルの様子をまとめました。幸い、大きなテロで負傷者が出たりすることもなく、イスラエルは、アーモンドの花が咲き乱れる平穏な春を迎えています。

ネタニヤフ首相は2月15日、ワシントンにてトランプ大統領との初会談を行い、その後、両首脳は、共同記者会見を行った。会談後、帰国したネタニヤフ首相は、トランプ大統領とは1980年代からの知り合いであり、両者の会談が非常に良好な始まりになったと述べている。

記者会見全文:http://www.haaretz.com/israel-news/1.771992

1)治安問題について

トランプ大統領は、ユダヤ人が通ってきた数々の苦難を覚え、イスラエルは「回復の象徴だ。」と述べた。また、イスラエルが直面する治安問題の深刻さを認識しており、アメリカは、友好国として、また命を尊重するという同じ価値観を持つ国同士として、イスラエルの治安維持に協力すると語った。

また、トランプ大統領は、国連において、イスラエルの扱いがアンバランスに不利に動いているという認識も語った。

ネタニヤフ首相が最も重要視しているイラン問題については、イランが、1月末に、弾道ミサイルの発射実験を行った事は、世界諸国との合意に違反するという認識していること、またイランの核兵器保有を阻止する必要があることの認識もネタニヤフ首相と同じであることを確認した。

これについて、ネタニヤフ首相は、イランが実験に使った弾道ミサイルには、ヘブライ語で「イスラエルは撃滅すべき」と書かれていたと述べ、イスラエルにとっては、イランが最大の脅威であることを、改めて強調した。

2)入植地問題について

イスラエルが、西岸地区のユダヤ人入植地の拡大を急激に進めていることについて、トランプ大統領は、「平和への助けになるとは思えない。」と述べ、今しばらく、拡大を抑えるようにとネタニヤフ首相に要請した。

一方で、トランプ大統領は、イスラエル、パレスチナ双方が合意する案なら、二国家共存案(国を2つに分ける案)でも、一国家案(どちらか一国が支配する案)でも、どちらでもよいと語った。

これは、もし(実際にはありえないことではあるが。。。)パレスチナ側が同意するなら、イスラエルが西岸地区もすべてを支配する形であっても、平和さえ保てるなら、アメリカはこれに反しないということをである。これは二国家共存案に固執していたオバマ前大統領とは違う姿勢である。

また、国際社会の圧力による解決をすすめたオバマ前大統領と違い、トランプ大統領は、解決のためには、両者が直接話し合う必要があるとし、今後、両者が、お互い納得出来る”Deal(取引)”を探すための交渉を再開させる意欲を語った。

これについて、ネタニヤフ首相は、平和への障害は、入植地ではなく、パレスチナ人たちが、どうしてもイスラエルがユダヤ人の国であると認めない、受け入れないことであると訴えた。

また、イスラエルが治安を維持するためには、ヨルダン渓谷とヨルダン川西岸地区における支配権を維持する必要性を訴えた。

ネタニヤフ首相は、入植地問題においては、「すべてにおいて両国が合意しているわけではない。」と語り、西岸地区の一部を合併するなど、他にも案があることを示唆し、今後話し合いを続けていくと語った。

*入植地の合法化法案について

イスラエルではトランプ大統領が、イスラエルに支持的であることを受けて、右派ユダヤの家党ベネット党首が、西岸地区のユダヤ人地区(C地区)の合法化、つまり合併を可能にする法案を提出し、国会を3回通過。あとは最高裁の司法長官の支持を待つばかりとなっている。

これまでのところ、司法長官は、この法案に合意していないとの意向を表明しており、この案が法律になることは阻止されている。その後、この件に関するニュースがないところを見ると、そのまま保留になっていると思われる。

ネタニヤフ首相は、「アメリカがイスラエルに好意的であるとはいえ、何をしてもよいということではない。」と述べている。

こうした中、西岸地区では、最高裁からの指令で、パレスチナ個人の土地に建てられている違法な入植地とされるアモナからのユダヤ人居住者の強制撤退が、2月初頭に行われた。これに続いて、先週、予定通り、同じく違法とされていた入植地オフラの一部から42家族の強制撤退が行われた。

これらは、合法化法案を国会で審議することと引き換えに、法案発案者のベネット党首が合意した、言い換えれば見捨てた地域である。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/224443

3)アメリカ大使館エルサレム移動問題

大統領選で大きく公約に掲げていたアメリカ大使館のエルサレムへの移動について。トランプ大統領は、すぐにでも実行したいが、慎重になる必要があると述べた。

この件を進める目的とみられたデービッド・フリードマン氏の在イスラエル米大使就任は、同氏が、明白な入植地拡大支持派であることから、延期になったままになっている。

*トランプ大統領の中東政策:イスラエル国家治安研究所ウディ・デケル氏の分析

INSS(イスラエル国家治安件研究所)のウディ・デケル氏は、今回のネタニヤフ首相とオバマ大統領の会談を以下のように分析している。

トランプ大統領の中東政策において明らかになりつつある優先順位は、①ISIS撃滅、②イランへの厳しい態度、③中東諸国の中で、アメリカの益となる国々との関係強化、④イスラエルとの関係改善、である。つまり、イスラエルに関することの優先順位は4番目ということ。

デケル氏によると、1990年代までは、中東における米露対立の最前線は、中東で唯一の民主国家イスラエルだった。このため、アメリカの中東政策において、イスラエル支援は常に最優先事項であった。

しかし、今は、シリア問題はじめ、中東問題のいかなる対策にもイスラエルが関与しないことが求められる時代になっている。イスラエルが介入することで、問題がよりややこしくなるからである。

デケル氏は、イスラエルがすすめる西岸地区の入植地合法化政策や、イスラエルとアメリカのイランに対する攻撃的な姿勢などから、今後、パレスチナ人との対立激化、および、ヒズボラ(イランの傀儡)からの攻撃など北部情勢の悪化も懸念されると指摘する。

デケル氏は、アメリカの国益を最優先するトランプ大統領が、今後、どこまでイスラエルを支持し続けるか、保証はないと指摘する。

こうした状況を踏まえ、ネタニヤフ首相は、トランプ政権への入植地政策容認要請への右派勢力からの圧力をうまくかわしながら、イラン問題など治安維持の緊迫性を強調したのが今回のネタニヤフ首相の作戦であったようだと分析する。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4925479,00.html

<石のひとりごと:ジャイアン効果なるか!?>

トランプ大統領は、2月28日、初の議会での演説を行なった。これまでの過激発言は控え、大統領らしい演説だったと評価され、予想外にも国民に好意的に受け入れられたとのニュースが入っている。

演説の骨子、トランプ政権の目標は、軍事力強化、経済力強化(1兆ドル:約113兆円規模のインフラ投資を含む雇用の拡大)で、力によるアメリカの影響力の回復を目指すというものだった。

もしこれが本当に実現し、”強い”アメリカの一睨みで、世界が振り回されるようになれば、イスラエルは、ジャイアンを味方にしているということになり、たとえイランといえども容易にイスラエルには手出しできないことになる。

ただ、今回の大統領演説には、やはりまだ具体性が欠けていると分析されており、やはり今後、これらの公約をどこまで実行できるかで、アメリカが、本当に世界最強の国になるのか、その逆になるのかが決まってくる。

今後、ますますネタニヤフ首相に状況を正確に判断し、先を予測する知恵が必要になってくるだろう。

しかし、安倍首相と同様、ネタニヤフ首相も、首相個人付きの弁護士が、イスラエル軍の潜水艦をドイツの会社から購入するにあたり便宜を図った疑いで、刑事訴訟の可能性もとりざたされるほどになっている。

民主国家のリーダーはなかなか大変である。

www.timesofisrael.com/prosecutors-open-criminal-investigation-over-submarines-affair/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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