9日、シリアで、化学兵器が使用されたとみられ、50人以上が死亡した。この件をめぐって米露の対立が危機的となっている。
この直後、シリア中央部パルミラ近郊のシリア軍基地で、イラン軍とロシア軍も駐留するT4基地がミサイル攻撃を受け、大きな打撃を受けた。この基地は、今年2月にもイスラエルの攻撃を受けており、今回もイスラエルである可能性が濃厚だ。
イランは、イスラエルに報復を宣言している。
1)東ゴータでの化学兵器使用疑でシリア人50人以上死亡
シリアでは、2月ごろより、ダマスカス近郊東ゴータをアサド政権軍が包囲し、激戦になっていることが伝えられていたが、先月、政府軍がほぼ占領したとのことであった。
そうした中、4月8日、東ゴータで反政府勢力の最後の拠点であるドーマで、化学兵器とみられる症状を呈する患者500人に対処していると、現地のシリア・アメリカ・医療組織が伝えた。死者は49人から60人以上に上っているという。
シリアで化学兵器が使われたのは200回以上に上るといわれる中、昨年4月に、大きな化学兵器使用疑惑が発生し、アメリカが巡航ミサイルを地中海からシリアへ撃ち込んで牽制して以来の規模である。
その後しばらく化学兵器の使用は止まっていたが、今年2月ごろから再び、シリア軍が化学兵器を使っているという報告が出始め、今回の大規模な使用にいたったというものである。
トランプ大統領は、今回の化学兵器使用は、シリア軍によるものと断定。その背後にいるイランとロシアも関係しているとの見解を表明し、「超大国アメリカとしては、無視できない。」として、ここ一両日中になんらかの対処をすると発表した。現在、シリア軍は、アメリカからの攻撃に備えているという。
www.bbc.com/news/world-middle-east-43707023
www.timesofisrael.com/trump-vows-forceful-response-after-syria-attack/
アメリカからの名指しの非難を受けたロシアは、関与を否定。アサド政権が関わっていることすら否定し、反政府勢力の自作自演であると主張した。また、現場に塩素ガス等の痕跡はないとし、ただちにOPCW(化学兵器禁止機構)を派遣するよう要請した。
化学兵器については、イギリスで、元ロシアの二重スパイが娘とともに化学兵器によって暗殺されかけたことから、欧米各国は、ロシアを追求している最中であったため、ロシアと欧米との対立がさらに深まったともいえる。
9日、国連安保理はこの件について緊急の会議が招集。米露を中心とする激しい論争が報じられたが、非難決議を採択しても、ロシアが拒否権を発動するのであまり意味はないとみられる。
www.bbc.com/news/world-middle-east-43707023
イスラエルは、シリアでの化学兵器使用に関する警告をアメリカに対して行っていたという。隣国シリアで化学兵器が使われているということは、シリアにイランが進出していることもあり、イスラエルが放置できる問題ではないからである。
2)シリア軍事基地攻撃で14人死亡:イスラエルが攻撃か
上記化学兵器問題が発生した直後の9日夜明け前、シリア中央のパルミラ郊外にあるシリア最大の軍基地T4が、複数のミサイルによる攻撃を受け、少なくとも14人の死者が出たとシリアのメディアが伝えた。
この基地は、イランがドローンの発信基地として使っている基地で、今年2月、イスラエル領内にドローンを飛来させたことから、イスラエルが、空爆を行った基地である。
これまでに伝えられたところによると、多数のミサイル攻撃を受け、シリア軍が、迎撃ミサイルで数発は撃墜したという。攻撃は、トランプ大統領が、シリアでの化学兵器使用疑惑を受けて、厳しい対処を示唆した直後であった。
当然、アメリカが疑われそうなところだが、シリアとロシアは、ただちに、「攻撃はアメリカではない。」と主張。イスラエルによるものと非難した。ロシアは、イスラエルのF15戦闘機がレバノンからミサイルを発射し、5発は迎撃したと訴えている。
9日になり、レバノンも、イスラエルの空軍機4機が領空侵犯していったと証言している。また、ここ3日、イスラエルのドローンがひんぱんにシリアの様子を探っていたとも言っている。
そういうわけで、イスラエルがやったとの見方が濃厚だが、イスラエルは、これについて、コメントしていない。しかし、ネタニヤフ首相は、10日、住宅関係でスデロットを訪問した際、防衛を強調し、相手を特定しない形で、「我々を攻撃しようとする者は攻撃する。」と語っている。*スデロットは、かつてガザからのロケット攻撃で大打撃を受けたイスラエル南部の都市。
<イランの反応>
10日、シリアを訪問したイランのハメネイ最高指導者のトップアドバイザー、アリ・アクバル・ベラヤティ氏は、「犯罪が見過ごされることはない。」と将来のイスラエルへの報復を示唆した。
www.timesofisrael.com/iran-threatens-israel-over-syria-strike/
<ロシアには通告なし>
2月にイスラエルがT4を攻撃した際、イスラエルは事前にロシアに通告していた。このため、ロシアは、軍関係者を非難させ、だれも被害にあわなかった。しかし、今回は、事前通告がなく、ロシア軍関係者も被害にあう可能性があったことから、ロシアはイスラエルに憤慨しているとみられる。
一方、公式ではないが、アメリカ政府関係者2人は、T4基地攻撃はイスラエルによるものと考えているという。さすがにアメリカには伝えていたようである。
<タイミングについて>
今回のT4基地への攻撃のタイミングだが、シリアの化学兵器問題との関連で、アメリカが、シリアへのお仕置きをするぞといった直後であった。
つまり、イスラエルがやったことは濃厚ではあるが、アメリカがやったとも考えられなくもない時期であり、化学兵器使用で、国際非難もかわせる時期でもあったということで、イスラエルにとっては都合の良い時期であったとも指摘されている。
また、アメリカがシリアから撤退することを示唆している中、イスラエルが、イランに釘をさしたのではないかとも考えられている。
前回お伝えしたように、トランプ大統領は、ロシア、イラン、トルコ3国がアメリカ抜きでシリア問題を解決しようとしている最中に、シリアからのアメリカ軍撤退を言い出したことから、ロシアに百歩譲ったではないかとも言われた。
つまるところ、トランプ大統領は、ロシアの協力で大統領になった可能性もあり、イスラエルを支援するとはいえ、どこか、ロシアには頭があがらないのではないかとの疑惑もささやかれているのである。
このように、アメリカが、(ロシアとも組んで?)シリアから撤退する可能性が出てきたことから、「たとえ同盟国アメリカがどう出ようが、イスラエルの自衛の原則に変わりはない。必要な状況になれば、イスラエルは、すみやかに、躊躇なく行動に出る。」という強力なメッセージを発したのではないかということである。
<石のひとりごと>
あらゆるメディアの報道をリサーチしながら、記事を書いているが、実際のところ、いったいどこまでが、本当のことなのかは、わからなくなってくる。敵がやったようにみせかける、などの作戦が横行しているからである。
イスラエルも、生き残りのためには、嘘もつくし、あらゆる工作活動もするだろう。こうした中、どこまで有益な情報をお届けできるのか。日々、聖霊の知恵と導きなしには記事を書けないと実感している。