イスラエル批判から反ユダヤ主義暴力急増:欧米諸国で警鐘 2021.5.20

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欧米各地で親パレスチナデモ

イスラエルとハマスの戦闘は、背後で、停戦への努力が続けられ、もしかしたら今週中にも静けさが戻る可能性も出始めている。発射されるロケット弾の数や、その時間、その間の静かな時間の様子から、ハマスの攻撃が変わってき始めた様子もある。しかし、まだ予断は許さない。

一方で、INSS(国家治安研究所)でヨーロッパ、アメリカの反ユダヤ主義のリサーチで研究員を務めるアディ・カンターさんによると、5月中旬に、イスラエルとガザとの戦闘が始まって以来、世界的に反ユダヤ主義が急激に悪化しており、非常に厳しい状況にあると警鐘を鳴らした。

以下は、イスラエルとハマスの戦闘が始まってから、パレスチナを支持する人々が行なったデモ。シドニー、ニューヨーク、ロンドン、パリ、マドリード、アンカラ(トルコ)クファル・キラ(レバノン)、バグダッド(イラク)善良そうな一般市民が、「なんとかしなければと思った」と語っている。

イギリスの親パレスチナデモと反ユダヤ主義

ロンドンでは、イスラエル大使館の前で、数千人が集まり、ガザを攻撃するイスラエルを非難するデモが発生した。この時、デモ隊は、イスラエルの国旗を引きちぎる行為に及んでいる。

また、ロンドン北部のユダヤ人が多く住むベッドフォードでは15日、パレスチナの旗を掲げた車の一団が、「ユダヤ人をレイプせよ。その娘たちをレイプせよ。パレスチナを解放しろ」と、拡声器で叫びながら、道路を占領して町中を進んだ。最悪なことに、この行為はユダヤ教のシャブオットの直前であった。その後、この件で4人が逮捕されたとのこと。

www.ynetnews.com/article/HkBOw0Au00

また、ユダヤ教ラビが、シナゴーグの近くで2人の男に暴行を受け、頭と目を負傷し、病院に搬送されていた。

イギリスにいるユダヤ人は約28万人。イギリスのジョンソン首相によると、この人々に対する反ユダヤ主義暴力は、ガザとの紛争が始まる前の10日間の間には19件だったが、5月8日からの10日間では106件に急増したとのこと。「こんなことはイギリスで赦されることではない」とジョンソン首相は語っている。

ドイツでシナゴーグも被害・ナチス時代の黄色のバッジも登場

ドイツでは、ベルリン、フランクフルトなど各地で、数千人規模の親パレスチナデモが行われ、警察との衝突も発生した。またボンとムンスターでは、シナゴーグに掲げてあったイスラエルの旗が焼き捨てられたりした。これについてドイツ当局は16人を逮捕している。ハヌーバーでも550人が集まって、イスラエルの旗を燃やそうとしていたのを警察が取り押さえたりしている。

www.timesofisrael.com/germany-vows-no-tolerance-after-israel-flag-burning-outside-synagogues/

ドイツでは2019年にハーレーのシナゴーグでヨム・キプールの礼拝が行われている最中に、銃撃事件が発生。2人が死亡する事件が発生しており、すでに反ユダヤ主義は悪化の傾向にある。メルケル首相が今の任期を終えるということで、ドイツでは、極右勢力が台頭する傾向にある。

新型コロナも反ユダヤ主義の悪化に輪をかけた。ワクチンをしていない人への嫌がらせから、ナチス時代の黄色のダビデの星に「ワクチン接種していない」と書いて腕章にしたことで大きな問題となった。ドイツでは、コロナに苦しんだ昨年だけで、2300件もの反ユダヤ主義暴力が発生していたという。

こうした中での今回の親パレスチナデモでは、イスラエルに反対することが正義であるかのような風潮であるため、ドイツ国内での反ユダヤ主義は、かなりの懸念事故であると言える。メルケル首相は、(ホロコーストの歴史がある)ドイツでは、このようなことがあってはならないと厳しく訴えたが、ドイツでの反ユダヤ主義に流れは、もっと根深いようである。

ヨーロッパで拡大する極左と極右

カンターさんの分析によると、ヨーロッパでは、自分は正義だと思い込んで、イスラエルへの暴力を容認する極左が、今は大きな脅威になっている。今回も、弱者であるパレスチナ人を支持することは正義だと思っている人が、親パレスチナデモに参加している。

しかし、やがては、イスラエルは弱者を殺しているのだからそれをこらしめるのも正義であると考え始めるのが、極左である。ヨーロッパでは今、極左の動きが懸念されている。こうした左派だけでなく、中道と考えられる人の間にも、幅広く反ユダヤ主義がみられるというのが、近代的反ユダヤ主義の恐ろしさであるとのことであった。ただし、ドイツでは、今はまだ、最も深刻な暴力行為に出ているのは極右だとカンターさんは言っていた。

ドイツは特にホロコーストの歴史があることから、極右の存在は受け入れられないものである。メルケル首相は、声を大にして警鐘をならし、「ドイツはイスラエルの自衛権を認める。」との立場を明確にした。しかし、ドイツでは、メルケル首相はもうすぐ交代であり、その後には極右政党が台頭しているという現実もみえているところである。

アメリカの親パレスチナデモ

こうした親パレスチナのデモはアメリカ各地でもおこなわれている。以下はボストン。

ロサンゼルスでは、火曜、パレスチナの旗を掲げた親パレスチナデモに参加したとみられる男たちが、寿司レストラン外の席で食事していた人々に暴力をふるった。食事をしていた人の中に、ユダヤ人が含まれていた。

ロスアンゼルスでは、この前日にも防犯カメラに、超正統派とみられる男性が、親イスラエルの旗をつけた車2台に、追いかけられる様子が映っていた。

近代的な反ユダヤ主義の危険性

カンターさんは、近代の反ユダヤ主義をより危険にしている点として以下のことをあげた。

1)SNSの乱用

これまでと今の反ユダヤ主義の大きな違いはSNSである。SNSでは基本的に、だれもが、何を書いてもよいということになっている。そこに校正者もいなければ、効果的な監視システムもない。言論の自由が乱用されて、人を傷つけることができるようになっている。

2)イスラエル批判と反ユダヤ主義の境界があいまい

カンターさんが特に危険と指摘するのは、イスラエルへの政治的な批判と反ユダヤ主義の境界があいまいだという点。言論の自由という観点から、通常のイスラエルへの政治的な“批判”は、受け入れられなければならない。しかし、そこから発展して反ユダヤ主義に至ると、これは犯罪である。

デモの中では、政治的なデモなのか、とりしまるべき反ユダヤ主義なのか、警察も戸惑うことが出ているとのことである。

では、明確な反ユダヤ主義は何かというと、ユダヤ人をユダヤ人としてひとくくりにし、非人間的な見方や扱いをしているかどうかである。ロンドンで親パレスチナデモのはずが、ユダヤ人女性をレイプしろと叫ぶとなると、これは反ユダヤ主義暴力である。

今の親パレスチナデモには、政治的に見えて、その背後に、異様な反ユダヤ主義が潜んでいるというのが、恐ろしい点だということである。

石のひとりごと:世界がイスラエルを憎むのはなぜか

親パレスチナのデモに参加している人は、イスラエルが無差別にパレスチナの子供たちを殺害していると思っている。しかし、今回の先頭では、イスラエルは相当な対策をとって、市民への被害を最小限にしようと、ハマスなどの幹部や武力組織への攻撃を行なっているということである。市民が犠牲になるのは、ハマスが、市民を盾においているためである。

そういうイスラエルの声は、こういう人々には届いていないのか。聞く耳がないだけなのか。

ユダヤ人は、世界約1470万人で、全人類の0.2%だという。にもかかわらず、中東イスラム世界は、その存在を憎んでいる。欧米でも、イスラエルへの不気味なまでの嫌悪が、理解を超えた深さで今も人々の心を支配しているようにみえる。いったいなぜなのか。

エジプト人で自らも過激派であったという医師で改革派イスラム教徒のタウフィク・ハミード氏(アメリカ在住で大学などで教鞭を取っている)は、今回のイスラエルとハマス、またパレスチナ人からイスラエルのアラブ人にまで拡大している問題は、土地問題でもなく、政治的問題でもなく、宗教問題だと言い切っている。

イスラムの預言書(コーランではないが、モハンマドの教えで、イスラム教徒に親しまれている)の教えによると、ユダヤ人の存在は世界中からすべて消さなくてはならないと書いてあるという。最後のひとりまでである。要するにユダヤ人を亡き者にするということが目標なので、政治的な土地問題や、アルアクサにイスラエルが入ったとかいうことの限局したレベルの問題ではないと語っている。

しかし、イスラエルを亡き者にしようとする、その大きな存在否定の憎しみの雲は世界中に広がり、どういうわけか、世界中がイスラエルに反発し、憎むという傾向にあるということである。イスラエルはそこまで憎まれなければならない理由があるのか?無論ないとはいわないが、つい最近まで、ワクチンを効果的にすすめたといって、そのイメージが変わったような一面もあったのである。

それが一夜にして変わってしまった様相である。聖書がいうように、この地球は、今は、サタンの支配の時代、エルサレムが異邦人に荒らされる時代なので、やはり、いかなる形であっても、神に属するものには、反発してしまうものなのである。聖書には次のように書いてある。

神よ。沈黙を続けないでください。黙っていないでください。神よ。じっとしていないでください。今、あなたの敵どもが立ち騒ぎ、あなたを憎む者どもが、頭をもたげています。彼らはあなたの民に対して悪賢いはかりごとを巡らし、あなたのかくまわれる者たちに悪だくみをしています。

彼らは言っています。「さあ、彼らの国を消し去って、イスラエルの名がもはや覚えられないようにしよう。」詩篇33:4

Attached photo credit: Amos Ben-Gershom (GPO)

ネタニヤフ首相は、70カ国の大使をテルアビブに集め、イスラエルの立場を理解してもらうべく、さまざまな方向から今の状況の説明を行なった。

実際に、ギリシャや何カ国かの外相や代表団は、イスラエルとともに立つことを表明するべく、イスラエルを訪問することになっている。しかし、こういう政治的な試みは、この壮大で深すぎるイスラエルへの反発の前には、限界があるかもしれない。

最終的には、イスラエルの側に立つのか、そうでないのか。それは、最終的には、聖書に明らかにされているように、イスラエルの神として表された神の前に、罪赦されて、平和を持つ側に立つのか、どちらに立つのかという選択になる。

それはまずは個人レベルであり、国でレベルのことでもある。しかし、それは、イスラエルも例外ではないと聖書は言っている。結局のところ、聖書の神の前に私たちは皆おなじ罪人であるということである。

どういうわけか、イスラエルを嫌ってしまう中東、世界情勢をみていると、聖書が、宗教にとどまるものではなく、非常に現実的であり、やはり神からの掲示であると言わざるを得ない・・・。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。