目次
パレスチナ人(78)死亡の経過
イスラエル軍(IDF)は、災害現場にいち早く駆けつける他、世界の中でもモラルの高い軍と自負している。しかし、当然ながら、戦場では異常な怒り、憎しみ、失敗や間違い、また恐れから過剰な攻撃でパレスチナ人を死なせてしまうこともある。
1月12日、IDFのネツァ・ヤフダ部隊(30数人)は、単独行動で、西岸地区、中央部に位置するパレスチナ人の町、ジジーヤに入って、予告なしの即席検問所を設営し、通過する車を停めて、パレスチナ人のIDをチェックした。ハマス戦闘員など危険分子や、違法な武器などを、事前に発見してテロを予防するためである。
パレスチナ人のオマール・アサドさん(78)は、検問で止められた時、IDの提示を拒否し、兵士たちに罵声をあびせた。
このため、IDF兵士らは、アサドさんを車から引き摺り出して、工事中の建物に連れ込み、手をジッパーで縛り、口も縛って、床にころがったままにした。
1月の厳しい寒さの中、助けも呼べない状況である。その後3人のパレスチナ人を同様に捉えて、同じ場所へ押し込んだ。
その約30分後、部隊は検問を終えることを決め、捉えていたパレスチナ人4人を解放した。しかし、この時、アサドさんはすでに意識がない状態で倒れていたようである。
IDF兵士たちは、そんなアサドさんを寝ているのだろうぐらいに考えて、あえて起こすこともせず、そのまま放置して立ち去った。
その数時間後、アサドさんは、片手にまだイスラエル軍兵士に着けられたジッパーが残っている状態で、死亡しているのが発見された。パレスチナ自治政府による検死の結果、死因は、急なストレスによる新発作と報告された。アサドさんは、最近開心術を受けていた。
*右派関係?問題あったネツァ・ヤフダ部隊
Times of Israelによると、今回、問題となったネツァ・ヤフダ部隊は、元は超正統派の隊員で構成された部隊であった。隊員が、さまざまな規定を守らなければならないという必要から、他の部隊とは行動を共にしないで、単独行動で任務を受けることが多い部隊だという。今は、超正統派だけでなく、さまざまな宗派の兵士が混じっている形での宗教派の部隊になっていた。
このため、右派的な思想もあったのか、この部隊が単独で行動する間に、パレスチナ人に対し冷酷なことをしており、まるでヒルトップ・ユース(入植地の過激な極右ユースグループで、パレスチナ人の家屋に放火したり投石したり、暴力行為を続けているグループ)だとの告発が、軍内部からも出ていた部隊であった。
イスラエル軍:不道徳行為を認め関係司令官を処分
事件から3週間の検証を経て、1日、イスラエル軍のイェフダ・ファチス中央司令司令官は、「部隊は任務の遂行に熱心すぎた。」と付け加えながらも、兵士らの行動は著しくモラルに反するものであったと認めた。
アビ・コハビ参謀総長も、この件において、IDF兵士らの行動は、間違っていたとの見解を述べた。
これを受けて、中間部隊長2人は降格となり、今後2年間は司令官の立場には立てないこととなった。ネツァ・ヤフダの部隊長は、今後厳しく責任を追求されることになる。
しかし、ファウチ司令官は、責任は司令官にあるとして、部隊兵士たちへの責任追及はしないこととした。
ネツァ・ヤフダ部隊が過激な問題行動が指摘されていた点について、ファウチ司令官は、指摘されていた課題は、多くの場合、パレスチナ人に対するものではなく、部隊内部での暴力行為だったと返答している。
この部隊そのものは、いましばらくは、このまま任務を続けるが、近く別の地域へ移動させることになっているという。しかし、あまりに退屈な部署だと、内部でのいじめに発展する可能性もあるとのこと。これも問題である。
ファウチ司令官は、この問題について、「悪気があって、こういうことをする者はいないとは思うが、これは深刻で、倫理に関わる問題だ。我々は、この事件から学ばなければならない。」と語った。
ガンツ防衛相は、西岸地区のイスラエル軍部隊を訪問し、参謀総長から正式な報告を受けたとして、オマル・アサドさんの死に追悼を表明。極右系ユダヤ人グループについても対策を話し合った。
アメリカからも精査要請
イスラエル軍がアサドさんの死亡の責任を認める声明を出すと、その翌日、アメリカ政府から、さらに精査するようにとの要請が出された。アサドさんは、パレスチナ人だがアメリカ人でもあったからである。
アムネスティ国際人権保護団体がイスラエルをアパルトヘイトと非難
1日、この件とは直接関係してではなかったが、アムネスティ(世界最大の国際人権保護団体)は、イスラエルが、パレスチナ人、イスラエル国内のアラブ人に対し、アパルトヘイト的な、差別的な政策をとり続けているとの調査報告を発表した。
この報告で、アムネスティは、イスラエルの建国にまでさかのぼって、イスラエルを非難していた。
このようにイスラエルを非難する動きは今にはじまったことではなく、イスラエルは、イスラエル国内ではアラブ人は、ユダヤ人と同等の権利を持つこと、ガザ、西岸地区には過激派がおり、イスラエルに被害を及ぼしているので、対処が必要であるなどと説明している。
反ユダヤ主義を監視する団体、ADLは、このリポートがアムネスティから出される前に、今、世界で、反ユダヤ主義が高まっている中で、このような強い言葉でイスラエルを非難する声明をだすことについて、イスラエルを悪魔化し、ユダヤ人国家の存在を否定することを意味すると非難していた。
アサドさんの死亡について、精査を求めているアメリカだが、このアムネスティの訴えについては、アメリカも拒否し、「世界で唯一のユダヤ人国家として、その自己決定権を否定してはならない。」と、イスラエルの立場を擁護すると表明している。
石のひとりごと
イスラエルも罪がないわけではない。多くの過ちがある。特に今、西岸地区では、極右ユダヤ人グループの過激な行動、パレスチナ人への暴力に、イスラエルも手を焼いている。
こうした極右の行動が、国全体への悪いイメージ、特にイスラエルの場合は、国際社会の中での存在否定にまでつながってしまう。それがわかっていても、臭いものに蓋をせず、罪は正面から認め、外へ向かってもきっちり発表するところが、イスラエルではないかと思う。
選民というのは、優秀な民ということではない。しかし、神に選ばれたがゆえに、悪いところは特にそのままには置かれることはない。摘発され辛い思いをするが、それを悔い改めて、改善していく姿こそが、選民ということの意味、責任なのかもしれない。
あかりをつけてから、それを器で隠したり、寝台の下に置いたりする者はありません。燭台の上に置きます。入って来る人々に、その光が見えるためです。隠れているもので、あらわにならぬものはなく、秘密にされているもので、知られず、また現れないものはありません。
(ルカの福音書8:16-17