ICC(国際刑事裁判所)がネタニヤフ首相とガラント前防衛相に逮捕状発行:今後の影響は? 2024.11.22

Credit...Amir Cohen/Reuters

ICCがネタニヤフ首相とガラント前防衛相に逮捕状発行

Peter Dejong/
Associated Press

11月21日(木)、ICC(国際刑事裁判所/赤根智子所長)の第1予審部の裁判官3人全員の一致をもって、最高検察官カリム・カーン氏が、ネタニヤフ首相とガラント前防衛相に対し、ガザ地区における戦争犯罪と、ガザで意図的に食糧などの供給を滞らせた国際人道法違反で、逮捕状を発行した。

これにより、ICCに加盟する124カ国(日本含む)にネタニヤフ首相らが訪問した場合、逮捕され、ハーグで裁判にかけられる可能性が出てくる。

Pool photo by Peter Dejong

実際に逮捕するかどうかは、基本的にはそれぞれの国の判断とされているが、たとえば、日本にネタニヤフ首相が訪問すると申し入れが来た場合、日本政府は、おそらく逮捕を避けるため、訪問自体を控えていただくよう要請するだろう。

今後、イスラエルの外交政策に大きな影響を及ぼすとみられる。

また、国際的な刑事裁判所が正式に、イスラエルの首脳を戦犯とハンコを押したことから、ガザやレバノンで進められている停戦・人質解放にむけた交渉にも影響する可能性も懸念されている。

なお、ICCは、ネタニヤフ首相ら2人と並行して、ハマスの指導者モハンマド・デイフにも逮捕状が出している。罪状は、殺人、虐殺、拷問、レイプなどの性暴力である。

ICCは、この他にも、イシュマエル・ハニエ、ヤヒヤ・シンワルの逮捕状を要請していた。しかし、この2人については死亡が確認されている。デイフについては、死亡したとイスラエルは発表しているが、ICCは生存の可能性はまだあると判断しているとのこと。

これまでにICCから逮捕状が出ているのは、ロシアのプーチン大統領などで、民主主義国家である国の指導者に逮捕状が発行されるのは、今回が、初めてである。ICCは、この決定に至るに足る十分な根拠があると言っている。

ネタニヤフ首相は、「テロ組織に攻撃されている国民を守ろうとする民主国家が戦犯にされるのか。これは反ユダヤ主義に基づくものだ」と反発の声明を出した。また「現代におけるドレフィス裁判*に相当する」とも述べた。

ハマスは、デイフへの逮捕状には反発しているが、ネタニヤフ首相とガラント前防衛相の逮捕状については、重要な歴史的前例になったと、評価する声明を出した。

www.bbc.com/news/articles/cly2exvx944o

www.timesofisrael.com/in-bombshell-ruling-icc-issues-arrest-warrants-for-netanyahu-gallant-over-gaza-war/

www.timesofisrael.com/what-the-icc-arrest-warrants-against-netanyahu-gallant-and-deif-say/

*ドレフィス裁判

1894年(日本は日清戦争)、フランスがドイツと対立していた時代に、フランス軍のユダヤ人士官ドレフィス大尉が、ドイツに極秘情報を漏らしているスパイだとの疑いをかけられた。

本人は無罪を主張したが、証拠を捏造され、無期流刑を言い渡された。その背景にあったのが、フランス(共和党)の軍とカトリック教会に古くから根付いていた反ユダヤ感情であったと言われている。

この時、ドレフィス大尉は、無罪であったにもかかわらず、公衆の面前で、勲章を剥ぎ取られ、軍刀を切断される恥ずかしめを受けた。

その様子を見ていた、テオドール・ヘルツェルは、ヨーロッパにユダヤ人の居場所はないと確信し、ユダヤ人の祖国シオンに戻るというシオニズム運動を開始することとなった。

その後、フランスでは、この問題を機に、共和党に反対する社会党が出てきて、政府とカトリックの政教分離を成立させることになった。

その後、ドレフィス大尉は、いろいろな経過を経て、10年後の1899年にフランスへ戻り、1906年には無罪が言い渡された。

「世界史の窓」より https://www.y-history.net/appendix/wh1401-076.html

ヨーロッパ諸国はICC尊重:アメリカは大反発「イスラエルとハマスは同じではない」

ICCからの逮捕状について、フランス、オランダと含む複数の国、またEUのボレル外相は、EU加盟国すべてが、この決定を尊重すべきとの声明を出した。

オランダのワルデキャンプ外相は、来週月曜、イスラエルを訪問する予定だった。しかし、オランダが、ICCの決定を尊重すると表明したことを受けて、イスラエルのサル外相は、この訪問を延期することをワルデキャンプ外相に伝えたとのこと。

www.ynetnews.com/article/rk6fobafyl

(Photo: Brendan SMIALOWSKI / AFP)

一方、イスラエルと同様、ICCには非加盟のアメリカのバイデン大統領は、ICCの決定に対し、「ICCが何を言おうが、イスラエルとハマスが同じだという証拠はいっさいない」と激怒。

アメリカは、常にイスラエルと共に、その治安を脅かす者の前に立つと宣言した。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/biden-blasts-outrageous-icc-arrest-warrants-no-equivalence-between-israel-and-hamas/

アメリカでは、5月にこの件がICCから出された際、下院では、ICC職員のアメリカへの入国ビザを取り消すとともに、経済的な制裁を課す法案が可決されていた。しかし、上院では、非難はしたものの、議会として取り上げることはなかったため、何も起こらなかった。

来年1月に発足するトランプ政権は、下院だけでなく、上院でも過半数である。この件はが、前に進む可能性もあると言われている。

www.timesofisrael.com/us-fundamentally-rejects-icc-warrants-says-its-working-with-israel-on-next-steps/

石のひとりごと

国際刑事裁判所が正式にイスラエルの首脳を有罪としたわけである。これで、イスラエルを支持する人々の立場が、今後、難しくなると予想しなければならないだろう。まずは、各国の大使館職員たちはどう受け止めているだろうかとも思う。

しかし、これはまさにホロコーストの時代に起こったことを彷彿とさせられる。ナチスは正式な政府として、ユダヤ人を有罪とし、ユダヤ人を迫害することが正義と正式に定義づけた。したがって、善良な市民ほど、この決定に従ったのだった。

しかし、人間が決めた正義は、つねに正義であるとは限らない。その後、ナチスの悪が明らかとなり、それに従った人々は、心に非常に大きな闇を隠し持つことになった。

何が正しいのか。世の流れだけで判断してはならないことを覚えるべき時代になりつつある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。