イスラエルに来る前、トランプ大統領は、メッカがあり、イスラム世界の代表としてのサウジアラビアを訪問。史上最大額ともいわれる武器売買取引を行ったほか、リヤドにアッバス議長を含むイスラム教国の指導者50人を招いて、演説を行った。
アメリカ大統領として、ここまでイスラム諸国との対話に臨んだのは初めてである。
このトランプ大統領に対し、サウジアラビアは、オバマ大統領の訪問では、迎えに来なかったサレマン国王(81)が、直々に空港で出迎えたほか、上空では、戦闘機の噴射で青空に星条旗を描くなど、破格の歓迎でトランプ大統領を歓迎した。
1)イスラム諸国に”過激派追放”で一致よびかけ
サウジアラビアは、イスラムの聖地メッカを有する国である。そのサウジアラビアで、トランプ大統領は、イスラム諸国の指導者50人との会議に臨み、演説を行った。
この会議には、ヨルダンのアブダラ国王や、パレスチナ自治政府のアッバス議長も出席している。
オバマ大統領が就任後、カイロで行った演説と比べられるところであるが、トランプ大統領は、今回、民主主義といった欧米独特の価値観はいっさい語らず、お互い違うもの同士、敬意をもって、テロ撃滅を目指して協力しようという切り込みだった。
トランプ大統領は、過激派が残虐な行為に及んでいることをやめさせるためには、アメリカが立ち上がるのを待たず、それぞれが、それぞれの国から過激派を一掃し、互いに協力することで可能になると訴えた。
集められたイスラム諸国の指導者たちは、トランプ大統領が、ほんの最近まで「アメリカはイスラムに憎まれている」と叫び、特定の国々の人の入国制限をしたりして、イスラムに明確に敵対する発言をしていただけに、どうもけげんそうな顔で、トランプ大統領の話を聞いていた。
しかし、ここでさすがビジネスマンである。トランプ大統領は、サウジアラビアに、1100億ドル(約12兆円)もの武器輸出の取引を行った。今後10年で計3500億ドル(約36兆円)に上ると、イスラム諸国指導者たちに語った。
これにより、トランプ大統領は本気であり、本気でテロと戦う者のためには、実質の支援を行うということを指導者たちに示すことになった。
また、アメリカとの取引を成立させたサウジアラビアが、両手を上げてのトランプ大統領支援を見て、他のイスラム諸国も、将来、テロ一掃で、協力一致する可能性もなきにしもあらずという雰囲気のようである。
トランプ大統領は、サウジアラビア訪問について、イスラム諸国との間になんらかの会話の糸口ができたとして、「大きな成果だ」と、自ら高く評価し、イスラエルでも何度もこの話をアピールした。
2)米史上最大計36兆円の武器取引成立の意味
トランプ大統領は、到着したその日のうちに、サウジアラビアとの武器取引に署名している。これはアメリカの武器輸出では市場最大だという。ここまで話が早いのは、上級顧問のクシュナー氏が手回しをしておいたからだという。
www.vox.com/2017/5/20/15626638/trump-saudi-arabia-arms-deal
トランプ大統領は、この取引がアメリカ産業の活性化と雇用の促進につながるとも語った。
この一件は、サウジアラビアと敵対するイランをけん制することになるため、イランと敵対するイスラエルも歓迎する流れになっている。しかし、この動きに警戒する声もある。
イスラエルのエネルギー相ユバル・ステイニッツ氏は、イスラエルが今後も中東では最強というポジションを保持できるのかどうか、よく監視しなければならないと警告した。
サウジアラビアは、基本的にイスラエルと国交のないイスラムの国である。過去には、スンニ派過激派組織アルカイダを生み出し、その支援を行っていた。将来、イスラエルに牙をむくようになる可能性は否定できない。
そのサウジアラビアが、今回の取引で、アメリカから購入することになったのは、最新式の戦車や戦艦4隻、サイバー関係の武器や、THAAD(弾道ミサイル迎撃システム)を含むかなり最先端の武器が含まれている。将来、万が一にもイスラエルに敵対するようになれば、危険なことにもなりうる。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4965141,00.html
また、サウジアラビアは、今実際に戦争をしている国である。イエメンで、イランが支援する過激派フーシ派が暴れ始めたため、イエメン政府軍を支援しているのがサウジアラビアである。つまり、イエメンを舞台にイランとサウジが戦争をしているのである。
そういう中で、サウジアラビアに相当な武器支援をするということは、今後、イエメンでそれらが使われ、結局、市民の犠牲が増えることになる可能性が高い。イエメンではすでに市民1万人以上が死亡し、300万人が難民になったとみられる。
さらに、WHOによると、イエメンでは、極悪な生活状況から、現在、コレラが爆発的に急激に広がっており、19日までに242人の死亡が確認され、2万3000人以上が感染した疑いがあるとして、問題になりはじめているところである。
www.asahi.com/articles/ASK5J560FK5JUHBI01P.html
ステイニッツ氏は、「トランプ大統領は、この取引でアメリカの雇用につながると言っているが、武器の取引は、もっと慎重であるべきであり、雇用促進を目的にするものではない。」と警告している。
<石のひとりごと:実質優先>
アラブ諸国との関係の糸口は、トランプ大統領が、サウジアラビアに口だけでなく、実質の武器輸出の取引を実現したことによる。結局のところ、中東では、実質だけがものを言う。
また、トランプ大統領は、まさにビジネスマンである。到着のその日に、さっさと超大口の取引にサインしてから、その後に、友好関係を深める行事には入っている。実質がない友好関係はないからである。
以前、イスラエル人ビジネスマンが言っていたが、日本ではその逆で、先に友好を深める行事があって、関係ができてからはじめて取引に入るという。帰国当日になってようやく取引の話になることに当初はとまどったと言っていたのを思い出した。
ビジネスマンは、実質をみきわめ、結果と収益を最優先し、柔軟に考えを変える。相手にどうみられるかなどはほとんど意味がない。「よい人」ジェントルマンであったオバマ大統領とは正反対である。
今のトランプ大統領の中東政策がどのようになっていくかは、まだまだ不明だが、中東における「アメリカの存在感」は、確かに以前のそれに戻りつつあるようである。
<石のひとりごと2:世俗ビジネスマンの強み?>
今回、メラニア夫人は、サウジアラビアという敬虔なイスラム国訪問に際し、髪のおおいをつけなかった。
トランプ大統領は、以前、オバマ前大統領夫人が、サウジアラビアを訪問した際、髪におおいをつけていなかったことについて、「相手国に対する侮辱だ。」と非難していたので、これいかに、とメディアは鬼の首をとったように指摘した。
トランプ大統領は当然、「相手国から求められなかったから」と全く気にしていない。しかし、逆に被らなかったことで、サウジアラビアとアメリカが、お互い違った文化であることを認めあうという対等関係のアピールになったかもしれない。
トランプ大統領は、日曜に教会に行かずにイスラム教国で公務にあたり、娘一家のクシュナー家は、ユダヤ教徒であるといいながら、安息日に、公務を優先して飛行機に乗っている(ラビの許可はあったとのこと)。
宗教にそこまでこだわらない世俗ビジネスマンであるからこその、今回の3宗教聖地訪問の動きであろうが、アメリカは一応、キリスト教の国であったはずだがな・・・とちょっと頭を掻いているところである。(敬虔なクリスチャンのペンス副大統領は留守番か、同行していない)
代表的なメディアの情報では知りえない臨場感のある情報ありがとう(^O^)/