前回お知らせした右派イスラエル我が家党のリーバーマン氏と、ネタニヤフ首相との交渉が、水曜、ようやく成立した。これにより、ネタニヤフ政権の議席数が、ぎりぎり過半数120議席中61から66議席になった。
しかし、まだ新政権として正式に発足したわけではない。
ネタニヤフ首相が最終的に目指しているのは、やはり左派右派交えた統一政権であり、今は決裂と報じられている中道左派シオニスト陣営のヘルツォグ氏に対し、まだ連立加入を呼びかけている。
なぜ統一政府にこだわるかというと、大きな決断がしやすくなるからである。イスラエルでは、六日戦争の直前に左派右派含む統一政府になったことがある。
フランスや、エジプト、穏健アラブ諸国からの和平交渉再開への動きを受けている中で、ネタニヤフ首相は、「今、パレスチナ問題解決への大きなチャンスのときが来ている。」と語り、今度こそ、パレスチナとの合意を実現したいと熱く語っている。
・・・とはいえ、現時点では、史上最強右派政権で、右派閣僚が2人、うち1人は2国家2民族案に反対している。これをもってなぜネタニヤフ首相が、「パレスチナとの和平を前進させる政府になる。」と言えるのかは、不明である。
*2国家2民族案
土地をユダヤ人のイスラエルとパレスチナ人のパレスチナに分割する案。アメリカと国際社会はこれをめざして和平をすすめようとしているのだが、エルサレム問題をはじめ、実際の分割は、ほぼ不可能といってもよいほど複雑化している。
<大臣ポストは交渉の道具!?>
今回、リーバーマン氏との合意に至るまでに、一悶着あったことをお伝えしておこう。
リーバーマン氏は、連立加入の主な条件として、①年金法案改正、②国防相のポジション、③テロリストは死刑の法案の3つを上げていた。リーバーマン氏は、自身がロシア系移民なので、選挙公約としてロシア系移民の年金を増やすことをあげていた。
この3つの中で、リーバーマン氏の最優先事項は年金問題だった。そのためには、②③は譲歩するとまでいう勢いだった。交渉はかなり難航し、一時はこちらも決裂と伝えられた。しかし、ネタニヤフ首相は、交渉にカフロン財務相を加えて話し合いを続けた。
結果、年金については、ロシア移民に限らず受給者全員を対象に増額するということで、2017年開始4年間で14億シェケル(約430億円)が計上され、3者が合意した。
テロリストの死刑法案*(軍法会議に限られ、従ってパレスチナ人に限られる)については、現在の法律では、死刑を執行する場合、裁判官全員の完全一致が必要であるところ、裁判官2人の合意のみでよいという形での法案になった。(あくまでも法案であり、まだこれから国会で長々と審議される)
*イスラエルの死刑制度について
イスラエルの法律には死刑があるのはあるという。しかし、条件である裁判官全員一致をもって、死刑が執行されたケースは、1962年,
元ナチス将校で、イスラエルにて裁判を受けたアドルフ・アイヒマンだけである。
国防相のポストについては、予定通りリーバーマン氏に内定することで合意。しかし、ネタニヤフ首相が、まだ統一、または拡大政府を目指していることを受けて、もし別の党も交渉に応じた場合、再び大臣のポストの振り分けが天秤にかけられる、ということで合意した。
つまり、ひょっとすると再び国防相のポストが別の人物になる可能性も、まったく0ではない、ということである。
他にもいろいろな交渉があったが、なんとか3人で合意に至り、水曜、ネタニヤフ首相とリーバーマン氏は、「正式に交渉が成立し、イスラエル我が家党は、連立政権に加わる。」として合同記者会見を行った。
記者会見では、両者はどちらも、にこにこであった。リーバーマン氏は、「とにかく治安の維持が優先」と語っている。
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/212785#.V0c1baUWnA-
<国内からの反応>
リーバーマン氏の国防相内定で喜んだのが、西岸地区の入植者たちだ。リーバーマン氏自身も西岸地区の入植地に住み、ユダヤ人入植を促進する立場である。
一方で、リーバーマン氏が国防相になることをどうしても受け入れられない人もいる。中道クラヌ党(経済相のカフロン党首)の議員アリ・ガバイ氏は、強硬右派であるリーバーマン氏が国防相になることに抗議するとして、議員を辞職すると発表した。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4808650,00.html
内外から右派と目されるリーバーマン氏の国防相就任は、確かに不安材料になる。しかし、逆に「彼は極端な発言をするが、よく考えれば一理ある。」タイプの人物でもあり、今のところ、市民からの大きな反対デモなどは発生していない。
<国外からの反応>
リーバーマン氏が、国防相になるとのニュースに、いち早く反応したのはヒズボラのナスララ党首だった。ナスララ党首は、水曜、南レバノンからイスラエルが撤退したことを記念する行事において、防護シェルターの中から映像で、レバノン市民へのメッセージを語った。
その中で、イスラエルこそが本当の敵であることを強調。「リーバーマンはクレイジー」と評した。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4807999,00.html
余談になるが、アルーツ7によると、ヒズボラは、イスラエルに向けて地下トンネルを掘っているもよう。ヒズビラはすでに10万発のミサイルをイスラエルに向けていることも考えると相変わらず、イスラエルへの敵意は健在だ。
Yネットは、イスラエルが、ヒズボラとの衝突に備え、北部のユダヤ、アラブの村それぞれにおいて、市民自衛組織を訓練していると伝えた。訓練を受けた市民たちは、有事の際には、軍に協力して様々な対策をとる。これについては、アラブ人たちも協力的だという。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4808679,00.html
ところで、イスラエルが最強右派になって最も影響を受けるのは、パレスチナ自治政府だが、まだ公式のコメントは出していない。新右派政権やリーバーマン氏の国防相就任もまだ正式ではないからである。(リーバーマン氏の国防相・就任は来週の予定)
イスラエルという国は、最後の最後までわからない、急に変わることが多々あるということを、さすが”長いつきあい”の隣人パレスチナ人たちは、よくわかっているようである。
www.haaretz.com/israel-news/.premium-1.720541
アメリカ政府スポークスマンは、「リーバーマン氏が連立入りしたことで、史上最強の右派政権となった上、2国家2民族に合意しない閣僚が2人になった。これは、イスラエルの今後の意向を反映していると懸念しても当然だろう。
しかしともあれ、実際にどういう動きをするのかを見ながら、これまでと同様の付き合いをする。」といっている。
<ユダ・グリック氏・国会入り>
前ヤアロン国防相が政界から身を引いたことで、国会入りが決まったユダ・グリック氏だが、一時、国会議員になる条件を満たしていないとして、火曜、議員入りにまったがかけられた。
グリック氏は、今にいたるまでアメリカの市民権を保持していた。グリック氏自身は、これを正式に返上する手続きをすませていたのだが、国会入りが浮上するにあたり、アメリカ政府が一時、これを差し止めたのである。そのため、国会議員定員から1人減って199人になると言われていた。
グリック氏は、強力な第三神殿推進派の指導者である。このグループが神殿の丘へ入る事で、パレスチナ人との暴力的な衝突がエスカレートする。アメリカの措置は、グリック氏が国会入りすることに警戒してのことであったかもしれない。しかし、結局それもクリアし、水曜、グリック氏は正式に国会議員となった。