3月24日、25日、春日和の穏やかな気候の元、エルサレムでもテルアビブでも大勢が参加するプリムのイベントが行われた。
しかし、その背後の24日、西岸地区ヘブロンで、パレスチナ人2人がイスラエル兵を刺し(軽傷)、2人は、直後に別の兵士らに撃たれて重傷となり、地面に倒れた。
問題はその後だった。1人の兵士がもはや動けなくなっているテロリストの1人の頭を撃って死亡させた。その様子をパレスチナ人が撮影し、ベツァレル(イスラエル人による西岸・ガザ地区の人権保護団体)がネットに流したのである。
それによると、兵士が、もう重傷で動けなくなっているにも関わらず、不要なとどめをさしたように見える。人権に関わるとたちまちイスラエル内外で問題になった。
ネタニヤフ首相、ヤアロン国防相、エイセンコット・イスラエル軍参謀総長他、ほとんどのイスラエルの政治家は、ビデオが流れたわずか数時間以内に、「これはイスラエル軍のスタンダードではない。」と撃った兵士を非難する声明を出した。
メディアは、兵士は「殺人容疑」という言葉まで用いて、軍法会議にかけられると報じた。
実際に適応される刑は、死亡したパレスチナ人が最終的に死亡した死因が、最初の傷によるものか、問題の兵士の銃弾によるものかで、刑の種類や重さが変わって来るという。しかし、もしこの兵士の銃弾によるものと判断された場合、最悪は終身刑である。
こうした事態を受けて、兵士の家族と、世論が反発しはじめた。ソーシャルネットワークでの世論調査を行う会社によると、世論の82%が、「戦場でのことだ。兵士は釈放されるべきだ。」と答えているとチャンネル2が伝えた。
この会社の調査によると、事件の後からこの兵士をサポートするソーシャルネットワークのグループが少なくとも20は立ち上がっているという。
国会ではネタニヤフ首相と、右派ユダヤの家党ベネット党首が、「まだ調査も終わっていない時期に、政府が兵士に対する厳しいコメントを出した。「殺人」とはあまりにもひどい。」と激しい言い合いになるなど、おおもめ状態となった。
www.timesofisrael.com/netanyahu-bennett-trade-barbs-over-hebron-shooting/
<事件の詳細>
調べによると、重傷のテロリストを撃った兵士は、指示なく単独の判断で撃っていたことがわかった。兵士は、「倒れていたテロリストが、まだ動いており、自爆する可能性があったから撃った。自分は正しい事をした。」と訴えている。
実際、救急隊が撃たれたパレスチナ人を救急車に乗せる時、「爆発物を装着しているかもしれない。爆弾処理班が来るまで待て。」と行った会話を交わしているビデオも後から流されている。
しかし、この兵士は、パレスチナ人2人がナイフを出して撃たれるという現場に居合わせたのではなく、事件が終わってから6分後に現れ、さらに実際に撃ったのはさらにその5分後だったという。つまり、「戦場での火急の銃撃」にはあたらないのである。
現職国会議員(未来がある党・中道)で、イスラエル軍のスタッフ教育部門主任でもあるエルアザル・スターン氏は、今回の事件は、イスラエル軍全体の高いモラルを代表する者ではないと強調し、以下のように語った。
「イスラエル兵を守ること(逮捕後でも、自爆テロを決行する動きがあれば、射殺もやむをえない場合がある)は、最優先されるべきである。
しかし、同時にイスラエル軍は、高いモラルを掲げる軍として、その兵士は、冷静に状況に対処しなければならない。そのために必要なことは、恐怖を克服できるかどうかである。
今回の場合、まずは、撃たれたパレスチナ人が、兵士たちを殺害するために襲って来たテロリストであったことは間違いない事実である。しかし、状況をみれば、周辺の兵士たちの身に危険がせまっていてのやむを得ない発砲だったとは言いがたい。
兵士の親を思えば苦しいが、エイセンコット参謀長が、自らの軍の兵士に対し、毅然とした処置をしようとしていることを誇りに思う。この出来事はイスラエル軍のスタンダードを代表するものではないからである。
スターン氏によると、この兵士が、倒れているパレスチナ人を射殺した後、現場にいた極右の人物と握手しているところも映っていたという。
イスラエル軍は、国際上、非難を受けやすいので、どの国の兵士よりも、要求される倫理のレベルは高い。しかし、全体の中に、わずかな極右の兵士らがいることは避けられず、頭痛の種だとスターン氏は語った。
*問題の兵士が右派であったかどうかの確実な報告はない。
<撃った兵士を支持する声>
事件後の26日夜、この兵士の家族は、顔や名前を伏せた形での記者会見を行い、「私たちの息子は、裁判を受ける前にすでに政治家やメディアに処罰された。息子の言い分も聞いてほしい。」と訴えた。
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/209923#.VvbuiaUWnA8
ベエルシェバのIDF基地周辺では約200人、軍監禁基地付近のツリフィンでは、「兵士を戦場で突き放すな」というなど、問題の兵士を支持するデモを行った。
テルアビブの防衛省付近では、IDFのエイセンコット参謀総長を、プリムのハマンに仕立た写真に辞職を求めるポスターもみられた。 http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4783338,00.html
<過激左派団体ベツァレル>
問題の兵士の弁護士は、ベツァレルが、なぜ、いつも非常によいタイミングでこうしたビデオを撮影するかも調査するべきだと主張している。
ベツァレルはイスラエル人による組織だが、右派の反対の、いわゆる過激左派で、政府やイスラエル軍の不足を摘発する団体である。
数週間前、こうしたイスラエル人左派団体の一つで、Breking the Scilence(沈黙を破る)が、ガザでの作戦に参加した兵士たちの証言を集めた映像が、テレビで流された。その中で、証言だけでなく、軍事機密に関わる情報まで聞き出そうとしていたことが明らかとなった。
ヤアロン防衛相は、「もしこの情報が外部で使われたのだとしたら、深刻な問題。国への裏切りだ。」と非難した。
イスラエル人だからといって一枚岩ではないということである。
www.haaretz.com/israel-news/.premium-1.710073
<パレスチナ人の反応>
パレスチナ自治政府は、この兵士の行為は「処刑」だとして、国際法廷で裁かれるべきだと主張している。
パレスチナ人の知人は、さめた感じだった。
「どうせ捕まっても1年ぐらいで出て来る。こんなことは初めてではない。今回はビデオに撮られたから大騒ぎになっているだけ。でもまあ、少なくとも(行為が悪いということ)認めただけでましかな。」と言っていた。
<石のひとりごと>
テレビのニュースでは、撃った兵士が頭を抱え込み、弁護士に抱えられて報道陣に囲まれている様子が報じられていた。まだ若いうちに兵役につき、しかもプリム返上で働いていたにも関わらず、国から「殺人」扱いである。
この若い兵士の人生は大きく変えられてしまった。テロリストは、ある意味、目的を達してしまったと言えるかもしれない。政府の指示なのかどうかはわからないが、兵士の顔も名前も伏せられていることは、不幸中の幸いだった。
テロリスとであったとしても、確かに人が一人、亡くなったことは否定できない。また撃った兵士が実際のところ、何を考えて、今回パレスチナ人を撃ったのかは不明である。
しかし、もともと、このテロリスト2人がナイフで襲いかからなければ、発生しなかった事件であり、この2人さえ現れなければ、この兵士も、どこにでもいる普通の若者でいられたはずだった。今はこの兵士に主が臨んでくださるようにと思うばかりである。