テロとエルサレム市民 2014.11.19

<その後の主な動き>

昨夜、重傷となっていた警察官のジダン・シフさん(30)が死亡。犠牲者は5人となった。シフさんには妻と4ヶ月になる男の子があった。葬儀は本日。シフさんは、現場に最初に駆けつけた警察官2人のうちの一人だった。

今回のテロの犯人2人の実家があるジャバル・ムカバでは、夜間、治安部隊との衝突が散発。昨夜も花火のような音が時々聞こえていた。また、治安部隊は昨夜のうちに、シロワンで、先のテロで3ヶ月の乳児を死亡させた犯人の実家を破壊した。*こうした犯人の実家の報復破壊については、イスラエル国内からも逆効果だという非難が出ている。

警察は、市内の治安確保に全力をあげている。アラブ人地区周辺に検問所を設けて、怪しい人物の早期摘発を行っている。また19日朝からは、子供たちのいる学校が襲撃されかねないとして、エルサレム市内の学校の警備を特に強化している。

一方、昨夜、ユダヤ人右派300人ほどが、エルサレムへの入り口付近で、一時道路をふさぐなどして「ユダヤ人は立ち上がれ!」と叫び、政府に強硬なテロ対処を要求するデモを行った。神殿の丘に関連する内容、イスラムに対する扇動的な叫びもあり、鎮圧に来た警察と衝突している。23人が逮捕された。 
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/187631#.VGxT8aW9BCs

エルサレム市内では昨日から、日曜にバス内で死亡したアラブ人運転手(警察は自殺と言っているがアラブ人側は認めず)を悼むとして、アラブ人運転手が出勤していない。そのため、バスの本数が極端に減り、来たと思ったら、超満員で乗れないなど、いつもは1時間以内で行けるところ、2時間かかった。

運転手は少なくともあと2日は出勤しないと聞く。さらには、未確認情報ではあるが、スーパーマーケットで働く多くのアラブ人が出勤していないという情報もある。

<被害シナゴグの様子>

テロ事件翌朝、地元テレビは、被害にあったケヒラット・ヤコブの様子を報じていた。周囲に警察官が立っている以外、いつもとほぼ同じ。早朝から、30人以上の男性たちがタリート(祈りのショール)をつけた姿で、シナゴグに出入りしていた。今朝は、右派のベネット経財相もここで祈りを捧げた。

昨日、現場にいてテロリストに殺されかかったバルザニさん(オリーブ山便り18日参照)も、いつも通り、シナゴグにやってきて、昨日とまったく同じ場所に立って祈りを捧げた。

出口でのインタビューでは、「今日は、入り口に来た時、思わず泣いてしまった。しかし、私たちは神を信じる者だ。ここではいつもと同じようにしている。でも皆、内面は複雑だと思う。

今日は、私が生き延びているという神の奇跡に感謝する祈りを捧げた。テロリストがどこに立つのか、私がどこに立つのかすべては神の手の中にあったのだから。」と弱々しい笑顔で答えていた。
www.mako.co.il/news-military/security-q4_2014/Article-ef3cbc15736c941004.htm?sCh=31750a2610f26110&pId=2082585621

ここ数週間の間のテロで親を失った子供たちは24人となった。また、これからやっと、共に人生を楽しめる年頃になった息子、娘を失った親たちもいる。これら遺族の喪失を思うと耐え難い混乱と、痛みを覚える。ユダヤ教徒の間では、遺族を献金で支えようとする動きがはじまっている。

一方、テロリストの家族たちも若い息子たちを失っている。彼らは、息子がヒーローになったと、テロの”成功”を祝って通りでスイーツを配ったのだが、昨日のテロの犯人の一人には妻と、乳児の子供があった。その家族は悲しんでいないのか、本当に”殉教”だったと喜んでいるのか、理解に苦しむところである。

<復讐は神のもの!?>

ところで、地元紙をみていると、今回の被害者の名前のあとに、「hy”d」とつけられている。これは、こうした事件で殺された人にのみつけられるヘブライ文字の英訳で、「神が復讐してくださいますように。」という意味。これは、「犯人に被害があるように」という意味ではなく、「復讐は神にまかせる。」という告白なのだという。

しかし、現実的には、そうはいかないようである。ネタニヤフ首相は、厳しく対処すると述べて復讐を示唆、右派のベネット経財相にいたっては、「イスラエルは防衛から攻撃に転じるべきだ。第二インティファーダを西岸地区での軍事作戦で鎮圧したように、今回も東エルサレムで軍事作戦を行い、テロを根こそぎにするべきだ。」と言っている。

国内世論、強硬右派議員たち、さらには国際社会の間で早急に治安回復をせまられるネタニヤフ首相。昨夜、左派陣営に対し、連立に加わって、一丸となってこの治安問題に対処しようとよびかけたが、あっさり断られている。

<一般市民の様子>

エルサレム市内では今、テロがいつ何時どこで発生するかわからない状態である。しかし、どこかで自分があたるとは思っていないのか、治安部隊を信頼しているのか、恐れてもしかたないのか。恐れている様子はほとんどなく、バスにも乗るし、レストランにも行く。

一般市民は、何があろうが、ここで生活しているのだから、日々の日常生活を続けている。・・が、なんとなく、いらつく。無口になる・・・そんな感じだろうか。

ある友人宅では、今、家の改修をしているが、働いているのはアラブ人大工さん。友人によると、このアラブ人たちは、シナゴグでのテロを非難しているという。一般アラブ市民も、複雑な思いだとは思うが、多くは生活のために、今日もいつものように、ユダヤ人の元で働いている。

しかし、こうした状況が続くにつれて、双方の間の溝と偏見、不信感は確実に広がっている。普段は穏やかなユダヤ人の友人が、アラブ人、イスラム教への怒りを口にし始めている。同じ土地の上にいるのに、両者の関係はますます悪化しているようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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