14日に始まったエジプトでのムスリム同胞団とエジプト軍の衝突。16日金曜日の「怒りの日」デモでは173人の死者が出て、これまでの5日間で死者は830人(うち警察官は70人)となった。
エジプト軍は、カイロでムスリム同胞団の拠点となっていたモスクを解放し、広場にいたデモ隊を一掃。しばらくあちこちで銃撃戦の音が聞こえていたが、今日19日の日中は銀行が開くなど、日常のカイロに若干戻っているもようである。ただし、国家非常事態宣言が出ているので、夜間は人影はなくなっている。
ただし、今朝19日、カイロ市内の刑務所から600人近い囚人を移動させる途中で脱走が始まり、これを阻止しようとしたエジプト軍により36人が死亡した。(銃撃ではなく催涙ガス吸引による死亡だったと報じられている)
またシナイ半島では19日、ガザとの国境ラファ付近で、エジプトの警察官が乗っていたバスが、イスラム主義勢力に襲撃され、26人が死亡した。
<分裂する中東>
エジプトおこっている戦闘は世俗主義暫定政権とイスラム主義勢力の争いである。
暫定政権につくエジプト軍は、ムスリム同胞団の霊的指導者ムハンマド・バディの息子を殺害(父親はエジプト軍に逮捕されたまま所在は不明)。またアルカイダのトップ・アイマン・ザワヒリの息子ムハンマド・ザワヒリも逮捕した。
*アルカイダは、ムスリム同胞団のイスラム主義が生ぬるいと言って出てきた勢力である。今年春頃、ムルシ前大統領がアルカイダのアイマン・ザワヒリをエジプトに呼び込もうとする動きがあった。
こうしたイスラム主義勢力の弾圧は他のイスラム主義国には受け入れられない動きである。
17日の「怒りの日」デモでは、エジプトだけでなく、エルサレムを含む中東各国でもムルシ前大統領とムスリム同胞団を支持するイスラム主義者のデモが行われた。エジプトの政変において、中東は、チュニジアなどがムスリム同胞団を支持。エジプト軍を非難する側に立っている。
一方、サウジアラビアとヨルダンなどは、ムスリム同胞団、聖戦主義勢力の台頭を恐れて、エジプト暫定政権を支持すると表明している。
<混乱する欧米>
欧米では、おおむねエジプト軍非難の記事が目立つ。確かに830人もの死者が出ていることを、世界が容認することはできない。EUはエジプトへの支援を検討すると発表している。
アメリカはどりあえず、エジプト軍への軍事支援を差し止める方針をうちだしているが、それ以上の動きはまだみられていない。エジプト軍が戦っているのが、イスラム主義過激派組織であるため、一概にエジプト軍側を非難することができないのである。アメリカは今後どう動いたらよいのか、検討している。
<キリスト教徒(コプト教)の訴え>
今回のエジプトの政変で、大きく被害を受けているのがエジプトのキリスト教徒(コプト教)である。エジプトの人口の10%はコプト・クリスチャンだが、今回、暫定政権を支持する立場を明確にしたため、ムスリム同胞団に狙われることになった。
カイロでは100年以上の歴史のある教会建築に火がつけられ、司祭も2人が殺害された。カトリックのシスターたちも市内を犯罪者のように引き回されるなどの被害を受けている。
コプト教司祭は、世界の報道をみると、軍が平和的なデモを軍事的に鎮圧しているというイメージだけが伝わっていると非難する声明をだした。
<今後どうなっていくのか>
暫定政権は、ムスリム同胞団も、一つの派として参加する形での連立政権をめざしている。世界諸国もそれを願っているところだが、ムスリム同胞団は、あくまでもムルシ前大統領が復職すること、つまり、ムスリム同胞団が支配する形しか受け入れないという気配である。
暫定政権は、ムスリム同胞団があくまでも抵抗を続ける場合は、ムスリム同胞団を違法にすることを検討すると言っている。エジプト軍も、平和を乱すような動きがあれば、徹底的に鎮圧すると言っており、まだまだ戦闘再燃への懸念は終わっていない。
<石のひとりごと>
今後、エジプトがシリアのように泥沼の内戦に陥らないうちに、世俗の連立政権が立ち上がればベストだが、ムスリム同胞団とそこにつながるイスラム主義者たちは、話し合いで権力を譲るような相手ではない。力の強い者だけが支配するというのが中東の常識である。
今後、中東の常識を理解しない欧米は話し合いでと言い続けるかもしれないが、それはおそらく通用しないだろう。
その間に、エジプト以外の国々にいるムスリム同胞団や、アルカイダ勢力などのイスラム主義勢力が立ち上がらないようにと祈る。
また世界のリーダーとして大きな力を持つアメリカのオバマ大統領が、的確に判断、行動するように、祈りが必要である。