トランプ大統領ガザ和平案を国連安保理が審議へ:イスラエル懸念・ハマスは拒否表明 2025.11.17

UN headquarters in New York on September 23, 2025. (Charly Triballeau/Pool/AFP)

トランプ大統領ガザ和平案を国連安保理で審議へ

本日11月17日(月)夜(日本時間18日朝)、トランプ大統領が9月に出して、今の停戦と人質解放につながった、ガザ停戦20項目についての審議と採択が行われる。

現在、ガザでは、停戦合意の第一段階として、イスラエル軍が合意したイエローラインまで撤退し、ハマスが拉致した人質と、イスラエルが拘束したパレスチナ人収監者の交換が行われている。

しかし、開始から1ヶ月。ハマスは生存する人質20人と、遺体25人を解放。一方イスラエルは、これまでに、ハマスなと約2000人を釈放。遺体も約300体を返還した。

しかし、まだ人質3人の遺体が、イスラエルに返還されておらず、第一段階は完了したとはいえない。

US President Donald Trump White House, October 23, 2025, in Washington. (AP/Evan Vucci)

こうした中、トランプ大統領は、強硬的にもガザの治安維持と復興という、次の段階へ進もうとするかの動きである。

安保理で審議される、主な採択項目は、①ガザの治安維持を担う暫定的な国際安定化部隊(ISF)のガザ内設置、2027年までを予定と、

②ガザの暫定統治を主導する「平和評議会」の創設、③ガザ復興のための世界銀行などによる基金の創設、となっている。

ISFとして、アメリカに協力する予定として上がっている国は次の通りである。カタール、エジプト、UAE、サウジアラビア、インドネシア、パキスタン、ヨルダン、トルコ、そして訓練されたパレスチナ人による警察隊(エジプトによる訓練)。ただし、多くは参加に消極的とのこと。

ロシアと中国は、トランプ大統領が中心となるこの案に反対しているが、拒否権は発動せず、棄権すると予想されている。

ジェトロによると、日本は、この国連安保理会議を前に、茂木外相が、大久保武元在レバノン大使を、ガザ支援復興担当大臣に任命した。

www.jetro.go.jp/biznews/2025/11/40448b99570fe76f.html

国連総会とは違って、国連安保理で決まることは、法的な実行義務が生じるため、イスラエルでは緊張となっている。今上がっている課題は以下の通りである。

イスラエルの懸念

同盟国であるアメリカが中心となるガザ戦後案で、イスラエルには有利な点もあるが、深刻な懸念となる課題や不明瞭な点も含まれている。

1)ハマスの武装解除が未定

トランプ大統領の20項目には、ガザのトンネルや攻撃インフラの破壊とともに、ハマスの武装解除が含まれている。しかし、ハマスは、武装解除については、明確に拒否している、この点についての交渉は頓挫状態にある。

イスラエルは、ガザに駐留するISF(国際安定化部隊)と協力してハマスの武装解除を進めることを主張しているが、ISFには、明らかにハマス支援者のトルコが含まれている。

トルコが、ハマスの非武装化に協力するとは考えにくいだけでなく、危険な敵対者をガザに迎え入れることになる。

イスラエルは、トランプ大統領に、このままで安保理にかけることへの反対を表明してきたが、トランプ大統領は、計画を前に進めようとしており、現時点でのハマスの武装解除は、棚上げになりつつある。

このままで進めば、ガザが、イスラエル軍が駐留する地域(ガザ全体の53%)と、ハマスが駐留する海岸側地域に2分割される可能性も指摘されている。

これについて、IDFのザミール参謀総長は、必要に応じてイエローラインを超えてハマスを攻撃する準備を整えておくようにと指示したと伝えられている。

www.timesofisrael.com/amid-talk-of-its-disarmament-hamas-said-stockpiling-advanced-weapons-abroad/

2)最終的にパレスチナ国家設立の可能性が排除されていない

トランプ大統領の20項目によると、今のパレスチナ自治政府には、汚職でまみれて崩壊寸前の政治状況を改革するとなっている。それが完了できた場合は、パレスチナ国家の主導力になる可能性を残す形である。

イスラエルは、ハマスもパレスチナ自治政府も関係しない形でのガザの運営組織を主張している。

しかし、ISFに協力するサウジアラビアやヨルダンなどアラブ諸国は、パレスチナ国家を立ち上げることは原則だとしているので、結局、パレスチナ人による管理体制になっていく可能性が高いといえる。

ハマス:国際安定化軍(ISF)のガザ駐留に反対表明

in Deir al-Balah, in the central Gaza Strip, on January 19, 2025. (BASHAR TALEB / AFP)

ハマスは、非武装化には応じないとの主張をすでに表明している。また、仮に非武装化されても、海外で高度な武器を蓄積するだけだとの声明まで出している。

www.timesofisrael.com/amid-talk-of-its-disarmament-hamas-said-stockpiling-advanced-weapons-abroad/

加えて、ハマスは、本日、国連安保理の直前になり、アメリカが、国連安保理に提示した案は、“危険”であり、ガザを国際支配しようとする試みだとして、これを拒否するとの声明を出した。

ハマスは、パレスチナ組織は、ガザの非武装化を含め、パレスチナ人の存続の権利を脅かそうとする試みはすべて拒否すると主張した。

また、いかなる国際部隊も、”占領とは一切関係しない”国連と直結しているもののみとし、パレスチナ組織との協調の中で動くものに限ると主張している。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/hamas-rejects-dangerous-us-proposal-at-un-for-gaza-stabilization-force/

石のひとりごと

何がどうなっていくのか、動いてみないとわからない点が多い。しかし、ハマスがこれを拒否したことは、もしかしたら、イスラエルには、有利に動くかもしれないとも思う。ガザにハマスが残留する限り、物事は何も前にすすまないことを示しているからである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。