ハマスが武装解除なしで人質全員解放提案:ネタニヤフ首相は拒否・国内では論争 2025.9.4

L-R: Defense Minister Israel Katz, Prime Minister Benjamin Netanyahu, IDF Chief of Staff Lt. Gen. Eyal Zamir, and IAF chief of staff Brig. Gen. Omer Tischler at the IAF's command center, August 24, 2025. (Elad Malka/ Defense Ministry)

ハマスが人質全員解放提案:ネタニヤフ首相は拒否

ガザでの戦闘は続いているが、ハマスとイスラエルの交渉もまた続けられている。交渉は基本的にアメリカのウィトコフ特使が出した60日間の停戦と人質の一部解放を土台にして行われている。

イスラエルは、当初これを受け入れたと表明したが、ハマスは強気姿勢を崩さず、最終的につぎのような条件を出してきた。

①60日間の停戦を開始し、その間に人質生存者10人と遺体18人の段階的解放する、②イスラエルは、パレスチナ治安囚人(テロで収監中)数百人と、ガザで拘束した約1000人を釈放する、③その間に残りの人質や恒久的な停戦の話し合いをする。この他、停戦中に、イスラエル軍が、ガザのどの範囲まで駐留を続けるのかでも取引が続いていた。

この間、ハマスは、狡猾に、人質の悲惨な様子を発信し、イスラエル国内から、政府にハマスの案を受け入れるようにと訴えるデモが大規模になっていった。

An Israeli tank rolls along the security fence on the border with the Gaza Strip in southern Israel, on September 3, 2025. (Jack Guez/AFP)

しかし、ネタニヤフ首相は、これでは何も変わらないとして、もはやガザを占領して、力で人質全員を取り戻すとともに、自ら治安維持を図るしかない、として、先月からガザ全域の占領に方針を切り替えた。

「ギデオンの戦車2作戦」として、明確にその準備をすすめている。

このように、ハマスに攻撃の圧力をかけながら、交渉は続けて、ハマスが折れて、戦争が回避できる道も残しているというのが、今の状況である。

こうした中、9月3日(水)、トランプ大統領が、ハマスに対して、「人質を全員解放せよ。そうすれば直ちに戦争は終る」と呼びかけた。するとハマスが、人質を全員解放すると表明。ただし、これまでに出していたその他の条件は変えず、人質全員解放の条件として以下のような条件を出した。

①現在交渉に上がっている条件であるパレスチナ治安囚人(テロで収監中)数百人と、ガザで拘束した約1000人を釈放、②イスラエル軍のガザからの完全撤退、③国境を全て解放してガザの復興を再開する。④戦後のガザはハマスが準備している独立した行政機関が担う。

これを受けて、ネタニヤフ首相は、これでは同じことの繰り返しになるとして、イスラエルが、戦争を終結するのは、10月7日が2度と繰り返されることがないと確証できる状況が整った時だと返答。

その条件として、これまでから掲げていたことだが、以下の5点を強調した。

①人質全員解放、②ハマス武装解除、③かざの非武装化、④イスラエルによる治安管理、⑤テロと無関係で、イスラエルに脅威にならない文民行政の確立

イスラエル軍は、ギデオンの戦車2を決行する方向で準備をすすめている。カッツ国防相は、「すべての人質を解放し、武装解除し、イスラエルの条件をすべて受け入れない場合は、ラファやベイトハヌーンのようになる(激しい攻撃で結局イスラエルが制圧する)」と語った。

www.timesofisrael.com/israel-tells-hamas-to-surrender-or-see-gaza-city-leveled-as-group-says-its-open-to-deal/

イスラエル国内から噴出する反論:ザミール参謀総長も警告

別項で述べるが、人質交渉に強気を崩さない政府に対し、人質家族とその支援者が、政府に交渉に応じるようにと訴えるデモがエスカレートを辿っている。

ハマスが人質全員を解放すると言っている以上、この動きはさらにエスカレートすると予想される。

野党代表のラピード氏は、ハマスの条件を全て飲む必要はないが、せめて交渉のテーブルに戻るべきだと主張。

IDF Chief of Staff Lt. Gen. Eyal Zamir surveys Gaza September 3, 2025. (Israel Defense Forces)

IDFのザミール参謀総長は、以前より、ガザ市への侵攻には、イスラエル軍側にも無理が出てくるとして政府に反対を表明していた。

しかし、基本的には政府の方針に従うとして、ギデオンの戦車作戦の準備に着手している。

しかし、今週行われた戦時内閣では、ネタニヤフ首相とザミール参謀総長の間で相当な火花が散ったと伝えられていた。

ザミール参謀総長は、ガザ市を制圧した後、イスラエルが長期間、軍事支配することに追い込まれるとの懸念を表明していた。

今、ハマスが人質全員解放を表明していることで、ザミール参謀総長が再び、ネタニヤフ首相に意見するだろうとも言われている。

www.timesofisrael.com/where-were-you-on-oct-7-zamir-said-to-upbraid-pm-and-ministers-at-heated-meeting/

最新のニュースによると、国会で行われた防衛外交会議において、イスラエル軍が、「ガザ市には今80万人の住民がいる。ガザ市を制圧しても、ハマスを制圧することにはならない」との意見書が届いたとのこと。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/idf-representative-to-key-defense-panel-not-certain-the-conquest-of-gaza-city-will-cause-hamas-to-budge/

石のひとりごと

日に日に、各方面からガザ市への攻撃にブレーキがかかっている。イスラエル軍までが、その効果に疑問を呈する中、ネタニヤフ首相はどう、決断するのだろうか。

今イスラエルは、戦況に優位に立っている。またテロ組織であるハマスと合意にいたる可能性はほとんど期待できない。今譲歩する時かどうかはわからない。

とはいえ、国内からも反対が出ている中、このまま突入した場合、人質、イスラエル兵、全ての死者の責任は、ネタニヤフ首相の上にかかってくるだろう。非常に重い決断である。

ネタニヤフ首相が、とにかく主のみこころ以外のことはしないように。首相が聞いてなくても、主が、進むべき道へのみ押し出してくださるように祈る。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。