IPC(総合食糧安全保障段階分類)がガザの飢饉を宣言:現代版「血の中傷」とネタニヤフ首相 2025.8.25

A Palestinian woman carries a child as she flees with others the Abu Iskandar neighborhood of northern Gaza City on August 22, 2025. (Bashar TALEB / AFP)

IPCがガザ北部の飢饉を正式表明

8月22日(金)、国際飢餓監視団体であるIPC(総合食糧安全保障段階分類)が、人口密度の高い、ガザ北部がフェーズ5、壊滅的な飢餓に直面しているとの正式な発表を行った。

それによると、ガザ地区では総人口の約4分の1にあたる推定51万4000人が、飢餓に陥っており、9月末までには、64万1000人になる可能性があるとしている。

また最も深刻なエリアは、ガザ市を含む北部で28万人、それ以外では、中部のデイル・アル・バラ、南部では、カン・ユニスで飢餓が広がっていると報告している。

この原因について、監視団体は、イスラエルが3月初旬から5月中旬までの2ヶ月半の間、支援物資の搬入を停止したことを挙げている。その後、物資搬入は再開されたが、以前のレベルには戻っていないとしている。

中東で、IPCの基準による飢餓の認定が出るのは初めてとのこと。

www.timesofisrael.com/global-hunger-monitor-declares-famine-in-gaza-for-1st-time-israel-rejects-biased-report/

なお、ハマスは、これまでにガザで6万2000人以上が死亡したが、このうち2000人以上は、食糧配布や、搬送中での衝突で死亡したと主張している。また、これまでに少なくとも289人が栄養失調で死亡したと主張している。

*IPC(Integrated Food Security Phase Classification)とは

IPCは、2004年に国連食糧農業機関(FAO)の食糧安全保障ユニットが、ソマリアでの飢餓に対処するために設立したもので、食料が十分ある状態から飢餓にいたるまでを5段階に分けて警告するシステムである。

ja.wfp.org/stories/5-steps-food-security-famine

IPCのHPによると、現時点でのガザ地区では、危機的状況とされるフェーズ5は人口の16%で、フェーズ3以上が、91%となっている。

www.ipcinfo.org/ipc-country-analysis/details-map/en/c/1157985/

ガザ以外で、IPCが警告を出したのは、エチオピア、コンゴ、ソマリア、イエメン、スーダンで、1〜5のいずれかの飢餓状態にあるとの警告が継続して出されている。

特にスーダンでは、2024年12月に人口の約半数にあたる2110万人が飢餓に陥っていると認定していた。

国連からイスラエルの戦争犯罪指摘

この発表の後、国連人権高騰弁務官のフォルカー・トゥルク氏が、「飢餓を戦争の手段として使うことは戦争犯罪だ」と述べ、それによって死者が出た場合は、殺人罪に当たる可能性があると表明した。

グテーレス事務総長は、「看過できないことだ。即時停戦。即時人質全員解放とし、完全かつ制限のない人道支援アクセスを求める」と表明した。

国連緊急対応調整官のトム・フレッチャー氏は、「これは阻止できた飢饉だ。この報告を悲しみと怒りを持って読むべきだ」と非常に厳しく批判した。

イスラエルはガザの飢餓を否定:COGAT(イスラエル軍政府活動調整部)がガザへの人道支援状況を発表

これを受けて、イスラエル外務省は、IPCの文書は、ハマスのデータにのみ基づいていると指摘。加えて、IPCは、飢餓と判断する場合は、通常総人口の20%以上とするのに、今回は15%以上に下げて、飢餓と認定していること。

また、子供の3人に1人が急性栄養失調や、1万人に2人が毎日、栄養不足で死亡していることも条件となるのに、ガザではその条件は満たされていないのに、フェーズ5を宣言していると訴えている。

首相府からは、IPCの判断基準は通常、WHZと呼ばれる体重対身長から出されるデータに基づくが、今回ガザについては、MUACと呼ばれる中上腕周囲測定を使用しているとの指摘も出ている。

こうしたことから、今回のガザが飢餓に陥っているとの発表は、政治的に捏造されたものであるとし、ガザに飢餓は存在しないと反論した。

また、ガザ現地で国際社会の人道支援の手続などを担当するCOGAT(イスラエル軍政府活動調整部)のガッザン・アリアン氏は、次のように表明した。

「IPCの報告は、部分的で、信憑性の低い情報に基づいている。その多くはハマスの関連する組織からの情報である。イスラエルとその協力者である国際団体の人道支援に対する真摯な努力が、まったく無視されている。

国際社会は、根拠のないプロパガンダに惑わされることなく、完全なデータと現地の真実に目をむけることを期待する。」

COGATは、8月22日付で、8ページのにわたるガザへの物資搬入に関する報告書を公開した。以下はそのまとめ。

gaza-aid-data.gov.il/main/#AidData

以下はガザに入る物資の統計サイト(COGAT)

govextra.gov.il/cogat/humanitarian-efforts/main/

1)人道支援物資搬入について

戦争が始まって以来、支援物資のトラック10万台がガザに入っている。その80%は食糧である。

イスラエルは、今年3月初頭に、ハマスとの交渉決裂になった際、支援物資の搬入を停止したが、その前の1月の人質交換の際には、2万5200台のトラックがガザに入っていた。

搬入停止から、2ヶ月半後の5月中旬に物資搬入を再開し、それ以降、現在までに、1万台以上が入っている。加えて、空から物資の箱2300箱が投下された。

しかし、7月初旬、ちょうどハマスとの交渉が難しくなっていたころ、国連は、急にガザ各地への配送を激減させ、物資の多くが国境で、立ち往生になった。8月から搬送が再開されて、今は1日に300―400台のトラック(80%食糧)がガザ各地に搬送されている。

ガザに運び込まれた支援物資の70%は、国連と関連する支援団体に届けられている。現時点で、ガザ全域に、90のスープキッチンが展開しており、毎日60万食が提供されている。またベビーフードや幼児食は5000トン配布された。

運び込まれる支援物資の30%は、アメリカのGHFの食糧配布センター(4ヶ所)に届けられている。

国連などは、この周囲での混乱で死者が1000人以上出ていることや、そこまでのアクセスの悪さなどから、批判を出し続けている。しかし、これまでに220万箱(1億3200万食分の食糧含む)の支援物資が配布された。

こうした中、問題になっていたガザでの食糧価格高騰も落ち着いてきている。(小麦粉1kg10―12シェケル(約500円)、砂糖1kg15-25シェケル(約900円)、ひよこ豆1缶8シェケル(約360円)

2)支援物資搬送・配給に関するイスラエル軍の努力

イスラエル軍は、人道支援物資の搬送や配給を効果的に行うため、関係する地域への攻撃を朝6時から10時まで停止している。

また、配給やスープキッチンが行われている、特に避難民が集中している地域、アル・マワシ、デイル・アル・バラでは、朝10時から20時まで、人道休戦を実施している。

3)水の配給について

現在、ガザへはイスラエルからの水道管を経由した水の供給が行われている。戦闘で破壊された水道管の修理とボトルによる水の供給を行なっている。

海水淡水化施設を稼働させるための燃料も供給している。カンユニスの海水淡水化水道施設には、イスラエルからの電力も供給している。

現在UAEが、エジプトからアル・マワシに向けた淡水化施設の計画が進んでおり、完成すれば、60万人以上が水道にアクセスできるようになる。

4)医療支援について

現在、ガザには、18の医療施設と12の野戦病院が稼働している。これまでに搬入した医療物資は4万8000トン。

特に医療が必要な患者とその家族は、ガザを出て、第三国に出られるようにしている。2024年6月からこれまでに、4000人近くがガザを出た。2025年3月から、イスラエルは、ガザから第三国へ出ようとする際の手続きをかなり簡素化した。出ていく人の率は上昇傾向にある。

ガザの飢餓宣言は現代版「血の中傷」とネタニヤフ首相

飢餓監視団体の報告を受け、ネタニヤフ首相は、「イスラエルは飢餓政策をとっていない。飢餓を防ぐ対策を行なっている」との声明を発した。

首相府は、ガザに一時的な援助不足があったことを認めたが、その後。海上輸送や安全なルートの設置、空中投下などを行なっている。

それでも不足していることについては、国連が、7月中に1012台のトラックがガザに入ったが、途中で強奪されて、食糧庫に到達したのは、わずか10台だったと報告していたこと。

またカレン・ショムロン検問所にとどいた物資の配送を、国連が拒否したこともあったとして、それらが、いまだに続く食糧不足の原因だと訴えた。

しかし、今は近代版「血の中傷」になっており、反論は嘘のでっち上げよりも難しくなっていると表明した。

www.timesofisrael.com/netanyahus-office-calls-gaza-famine-declaration-a-modern-blood-libel/

石のひとりごと

ガザは飢餓かそうでないのか?WCKの代表、ホセ・アンドレス氏は、それは数字で言うことではないと言っていた。何が原因であれ、ガザでは、今食料が不足していると言っていた。

まずそれを是正しなければならない。そのためには、戦争を止めなければならない。そのためには、ハマスが人質を全員解放するとともに、武装解除すること。それが実現すれば、イスラエルは攻撃をしなくてもすむ。単純明快である。

しかし、世界はもはや、イスラエルが、ガザの人々を意図的に飢餓に陥れようとしているとの概念に固まりつつあり、いくら論理的に反論してももはや聞く耳がない。

これは日本でも同様で、今、正義感が強く、人道的な人ほど、イスラエルを責める。昨日NHKはこの件を、ガザが飢餓に陥っている認定されたことを、やせこけた子供の映像とともに報じていた。

この飢餓を象徴するかのような写真に写っている、やせこけた子供たちは、遺伝性などの疾患に苦しむ子供たちであり、飢餓が原因でそうなったのではないということが、すでに世界で報じられた後に、である。ハマスが食糧を強奪していることも報じていなかった。

また、イスラエルがガザを苦しめているとの一点に集中し、イスラエル市民50人(生存者20人)が、ハマスにより、本当に飢餓のがりがりになっていることは、全く報じていなかった。言うまでもなく、イスラエルが行っている人道支援への努力も全く報じられていなかった。

今、ガザの現状を見ているのは、ハマス含むガザ市民と国連関係者や国際団体、そこで戦っているイスラエル軍である。何が真実なのか、第三者にはわからない中で、現場にいるイスラエルの主張は無視することが、国際社会の常識になっている。

ガザで食糧配給が混乱していることは否定できないだろう。しかし、それをすべてイスラエルのせいにするのは、どう考えても不条理である。

イスラエルを支援する、しないとは関係なく、私たちは、真実は何かをよく確かめないうちに、社会とともに誰かを責めることに陥らないよう、注意しなければならない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。