イスラエルがダマスカスのシリア国防省・大統領官邸空爆:アル・シャラア暫定大統領が非難声明 2025.7.17

The Syrian Defense Ministry building sits heavily damaged after alleged Israeli airstrikes in Damascus, Syria, Wednesday, July 16, 2025. (AP/Ghaith Alsayed)

イスラエルのドルーズ1000人がシリア側へ雪崩込み抗議デモ

シリア南部スウェイダ県では、7月13日(日)から、ドルーズ族とベドウィン族の衝突が続いて、約100人の死者が出たため、シリア暫定政権は、ドルーズをこの地域の管理者にすることを条件に停戦の約束を取り付け、沈静化維持のためにスウェイダ県に入ることとなったと言っている。

しかし、現在のシリア暫定政権は、以前の内戦状態に戻ることを避けるため、特に前アサド政権と近かった少数民族を排斥する可能性が懸念されている。ドルーズはその立場に置かれている。

実際に、スウェイダに入った暫定政権の治安部隊は、ドルーズを攻撃していたもようである。ドルーズの中には、治安部隊に処刑されるものも出ていた。

イスラエルにいるドルーズたちは、危機感から、イスラエル政府に対して、シリアの親族たちを助けてほしいと要請した。イスラエルは、ドルーズの兄弟たちにコミットしているとして、スワイダ県にシリアの治安部隊が入らないように、空爆を行い、シリアのドルーズたちを支援した。

イスラエルのドルーズたちは、イスラエル北部の国道6号線で、タイヤを燃やすなど、シリア政権に対する抗議デモを開始。

16日(水)、ドルーズたちが、国境のフェンス沿いで抗議デモを行なっていたが、約1000人が、シリア側へ傾れ込む事態となった。

逆にシリアからイスラエルへ入ってくるドルーズもいたので、イスラエル軍は、催涙ガスで対処したとのこと。

ネタニヤフ首相は、あわてて、ドルーズたちに、「あなた方はイスラエルの国民である。スウェイダについてはイスラエル軍が対処している。シリアに入れば帰れなくなる危険性がある。イスラエルから出ないように」との警告メッセージを発した。

www.timesofisrael.com/border-chaos-as-1000-druze-breach-frontier-into-syria-heavy-idf-strikes-hit-damascus/

なお、シリアの人権監視団体(イギリス母体)によると、スウェイダ県における、13日に紛争が始まってから、17日(木)朝までの死者数は300人以上となっている。

このうち79人はドルーズ戦闘員、55人がドルーズ市民でこのうち27人は、政府軍に処刑されたとみられている。一方、シリア政府軍の死者は189人、紛争でドルーズと敵対したベドウィンは、18人である。

イスラエル軍によると、1000人以上の暫定政府軍がスウェイダを包囲し、約200人の戦闘員が、ドルーズに対する残虐行為をしていたとのこと。
www.jpost.com/israel-news/defense-news/article-861252

イスラエルがダマスカスの暫定政府国防省・大統領府など空爆

国境での混乱の中、シリア暫定政権への警告だとして、ダマスカスの国防省や大統領府周辺など160か所への大規模な空爆を行った。この攻撃による死者は15人と伝えられている。

これに先立ち、イスラエルは、アメリカとも連絡をとりながら、シリアと水面下での交渉を行なっていたという。ダマスカス攻撃に踏み切った後、カッツ国防相は、これは始まりにすぎないと述べ、シリア暫定政権に対し、ドルーズに手を出さないよう警告するとの声明を出した。

これに対し、同日、シリア暫定政権のアル・シャラア大統領は、テレビを通して、ドルーズと彼らの権利を守るのは我々のすることだと述べ、イスラエルは混乱に火をつけているとイスラエルの介入を非難する声明を出した。

ドルーズ族に対しては、「我々は、あなたがたを外部勢力の手に陥ることを拒否する」と述べ、我々は戦争を恐れていないとし、主権が脅かされる場合は、戦う用意があると述べた。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/after-idf-strikes-syrias-sharaa-accuses-israel-of-seeking-chaos-and-destruction/

スワイダから暫定政権部隊撤退か

現在、ドルーズは、スウェイダ県の70%を管理する状態にある。暫定政権とは、新たな停戦で合意し、シリア暫定政府軍は撤退する動きに出ているとのこと。

www.timesofisrael.com/syrian-govt-forces-begin-withdrawing-from-sweida-as-israel-vows-to-protect-druze/

最新のニュースでは、シリアになだれ込んだ、イスラエルのドルーズ数十人が戻ってきている様子が報じられているが、まだシリアに残っている者もいるとのこと。

今後、シリアがどうなっていくのかは、まだ不明である。イスラエルはどう動いていくのかも注目されている。

石のひとりごと

テレビのニュースでは、イスラエルがダマスカスを攻撃、という時点から報じられているので、またイスラエルが無茶苦茶をしているという印象になっている。

しかし、なぜそうなったかの経過は非常に複雑であることを知る必要がある。元アルカイダのアル・シャラア大統領がどういう人物なのか、シリアの本当の姿は何なのかはまだ明らかにはなっていない。

イスラエルは相当目を光らせている。そうした中、先週、イスラエル軍は、前アサド政権の危険な武器3トンを、シリア国内で押収していた。

イスラエルという国は、危機を察知する能力は非常に高いが、同時に無駄は避ける国でもある。ダマスカスの国防省、大統領官邸への攻撃という大胆な攻撃は、ドルーズのためだけでなく、イスラエル自身のためであったのではないかと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。