ネタニヤフ首相は停戦終了後の戦闘再開の権利を強調:国内では賛否両論のデモ 2025.1.19

January 18, 2025. (Yair Palti/Pro-Democracy Protest Movement)

結局のところ、停戦と人質解放が遠のいた様相だが、それに至るまでの経過は、以下の通りである。停戦が延期になる前に、ネタニヤフ首相は、第一段階の後、戦闘を再開することを示唆していた。

一方、国民からは、合意を遵守して、戦闘再開に反対する声と、今の合意そのものに反対する意見と、賛否両論が、ネタニヤフ首相に突きつけられた。

結局、ハマスの違反のせいではあるが、停戦は延期となり、すでに攻撃も行われたので、前者の意見は遠のいた形である。このことから、今後もし、人質がハマスに殺されるようなことになれば、政府への怒りと国内の混乱も拡大する可能性もある。

ネタニヤフ首相は停戦終了後の戦闘再開の権利を強調

ネタニヤフ首相は、1月18日(土)夜、ハマスが約束の時間をすぎても、解放する3人の女性人質の名前を明らかにしなかったことから、ネタニヤフ首相は、これは合意違反だとして、ハマスがそれを提出するまで、停戦は発効しないとの声明を出した。

また、バイデン大統領と、特にトランプ次期大統領が、第一段階での停戦は、一時的なものとの認識であったと強調し、ハマスが合意に違反するようなことがあれば、イスラエルには戦闘を再開する権利があると強調した。

結局のところ、ネタニヤフ首相としては、人質は何よりも取り返したいのではあるが、同時にハマスをガザに残留させることも受け入れられないということである。

www.timesofisrael.com/gaza-ceasefire-to-begin-830-a-m-sunday-israel-awaits-names-of-first-3-women-to-be-freed/

結局1月19日の朝8:30になっても、ハマスが初日に解放する人質3人の名前をまだ提出しなかったことから、停戦は、延期となり、イスラエルはさっそくに攻撃を再開した形である。

しかし、国内では、18日夜、合意を遂行すべきか、すべきでないか、賛否両論の大規模なデモが行われていたのであった。

戦闘は再開するな:人質全員を取り戻すまで合意を遂行するべきだと訴えるデモ

しかし、どの時点であれ、戦闘が再開になれば、いよいよチャンスは遠のき、人質を見捨てることになる。イスラエル国内では、半数以上が、難しい決定だが、人質解放を優先する方を支持すると表明している。

テルアビブでは、18日土曜夜、安息日明けに、人質家族や世俗派左派勢が、政府に、戦闘を再開して、人質解放を途中で止めることなく、全員を取り戻すまで進めるようにと訴えるデモを行った。

テルアビブの軍本部前に集まった群衆は、人質が戻らないことについて政府を非難。特に合意に反対票を投じた閣僚8人の名前をあげて非難した。

人質広場では、数千人が、合意を最後まで遂行して、人質全員の解放を求めるデモが行われた。

前人質で性的暴力を受けたアミット・スーサナさんや、ビバスさん一家の父親ヤルデンさんの妹オルリ・ビバスさんなどが、登壇し、ネタニヤフ首相に、取引を完全に遂行するよう、訴えた。

合意には反対:ハマスに降参するべきではないと訴えるデモ

エルサレムでは、数千人が、市内中央のシオン広場から、首相官邸まで行進し、ハマスに譲歩するような今の合意に反対するデモを行った。

人質33人の解放だけで、譲歩するのではなく、98人の人質全員を取り戻すよう訴えていた。

www.timesofisrael.com/rallies-for-against-hostage-deal-held-across-israel-hours-before-it-takes-effect/

Miriam Fuld, with her children Yakir and Natan in Kfar Etzion cemetery, the West Bank, 2018.
(photo credit: RONEN ZVULUN/REUTERS)

この中には、これから解放される予定のパレスチナ人テロリストたちに、家族を殺された人々もいる。

たとえば、ヒレル・フルドさんは、2018年に、西岸地区のグッシュ・エチオンの交差点で、弟のアリ・フルドさんを、パレスチナ人テロリストのカリル・ユセフ・アリ・ジャバリン(当時17)にナイフで刺されて殺された。

アリさんの妻と、幼い子供たちが父親を奪われたのであった。このジャバリンは、人質と交換に釈放されるテロリストの中に入っているという。

アリさんの兄のヒレルさんは、政府から提示された、釈放されるテロリストの名簿にジャバリンの名前を見つけて、胸が塞がれたと表明している。ヒレルさんは、これらはテロリストではない、「怪物だ」と言っている。

www.jpost.com/breaking-news/article-838127

石のひとりごと

イスラエル人にとって、この命の取引は、本当に胸をえぐられるような取引である。世論は2分している。それを代表して決断していくネタニヤフ首相の責任と重圧は、まさに想像を超える。

結局のところ、停戦は延期、ガザへの攻撃も行われたわけだが、これが正しい方向だったのかどうか。常に主に聞く思いがネタニヤフ首相のうちにあることを願うばかりである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。