カタールでの人質交渉合意寸前?:イスラエル国内では賛否両方のデモ 2025.1.15

A portrait of baby hostage Kfir Bibas created by graffiti artist Benzi Brofman (Courtesy)

またもやハマスとの人質交渉合意寸前か?

カタールで行われている人質解放だが、かなり合意に接近という報道になっている。イスラエルが合意を表明し、今ハマスの答えを待っている状況ということである。イスラエル政府は、1月14日(火)、人質家族に、首相官邸や政府の間で進められている内容が伝えられた。

January 11, 2025. (Prime Minister’s Office Spokesperson)

この直前の1月11日(土)、アメリカから、トランプ次期大統領の中東特使に任命されているスティーブ・ウィトコフ氏が、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談していた。

このことから、ランプ氏の大統領就任の1月20日までに、なんとか合意に至るよう、圧力がかけられたのではないかとみられている。

トランプ次期大統領は、「大勢の人が死んだ。人質は残酷な状況に置かれがままだ。これは終わらせなければならない。もし終わらなければ、さらに悲惨なことになる。今週末までに終る可能性がある。」と語っている。

今合意に至る寸前と明らかにされた内容は以下の通りである。

www.timesofisrael.com/israeli-officials-deal-will-see-33-hostages-freed-in-1st-stage-most-of-them-alive/

カタールでの交渉の最新の内容

1)ハマスが解放する人質に関して

人質解放と、イスラエルのパレスチナ人囚人の交換は、3段階で行われる。しかし、第一段階が16日過ぎたところで、第二段階に関する協議を行い、合意に至れば、2段階で終る可能性もあるとのこと。

第一段階とされるのは42日間で、ハマスは、家族ごと拉致されているビバスさん一家の幼児たち2人を含む33人を解放する。33人については、まず、ビバスさんの子供2人と女性たちが解放される。その後、50歳以上の高齢者と、負傷者、病人となっている。

なお、返還される人質の数は、当初34人であったのが33人になっている。これは、先週、そのうちの一人に名が上がっていた、ユセフ・ジャドネさんが、遺体で発見されたからである。

ということは、今、ハマスが解放すると言っている33人のうち、何人が生きている人々なのかは、わからないということになる。イスラエルはこの状態での交渉に譲歩したとのことである。

第一段階が16日過ぎたところで、第二段階に関する協議を始める。第二段階で、残りの人質と死亡している人の遺体が返還される予定とのこと。

第二段階で対象となるのは、残りの人質65人(イスラエル人22人、外国人7人、死亡している36人)だが、第一段階で生きている人質が何人になるかが明確ではないので、それによって第二段階も変動するということである。

なお、イスラエル人22人は、イスラエル兵と兵役可能年齢の男性となっている。

2)イスラエルが交換に解放するパレスチナ人囚人とガザからの撤退について

第一段階の42日間で、イスラエルは最大1300人を解放することになる。しかし、返還される人質の何人が生きているのかがまだわからないため、この数は変動する可能性があるとのこと。

この際に釈放されるパレスチナ人囚人は、殺人テロ犯人150人〜200人で、終身刑の者も含まれているという。しかし、10月7日の襲撃に関係する者は含まれていない。

釈放先は、西岸地区ではなく、エジプト、トルコ、カタールになる可能性がある。ハマスは、シンワルの遺体返還を求めたが、イスラエルは拒否した。

またガザからイスラエル軍が撤退する規模については、第一段階では、イスラエル軍はフィラデルフィ回廊に残留し、ガザとの国境には緩衝地帯を設立して、段階的にそこまで撤退する。

ガザ南北を隔てるネツァリム回廊については、イスラエル軍は、当初残留を主張していたが、撤退する方向である。ガザ避難民は、検査の上、ガザ北部へ戻ることが可能になる。

イスラエル人質家族からの不安・合意に関する落とし穴

この交渉については、多くの問題が残る。第一段階で解放されなかった65人の人質が解放される可能性が低くなるという懸念である。この人々の解放については、まだ決まっておらず、16日目に協議が始まるということである。

おそらく、ハマスは、この時に釈放するパレスチナ人を、マルワン・バルグーティや、終身刑46回の超極悪テロリストのハッサン・サラメなどを出してくる可能性があり、そうなると、イスラエルは合意できなくなる。またこの時までに、イスラエル軍は、ネツァリム回廊から撤退しており、ハマスに対する圧力が弱まっていることになる。

実際のところ、ハマスにとって人質を全部失えば、自身の崩壊にもつながるため、この最終合意においては、イスラエルは、そうはならないという保証をハマスに与えなければならないだろう。

一方で、イスラエルも、ハマスが、ガザ復興に関与しないという約束、また、もう2度とイスラエルに戦争を仕掛けないという保証を得る必要がある。

結局のところ、最終合意では、双方が勝利したと感じるポイントが必要なので、結局、平行線になる可能性が高く、今回解放される予定の33人以外の人質の解放は、今より遠のくと予想されるのである。

正味な話、この合意では、とりあえず、33人だけでも、人質を取り戻すことが目的といってもいいかもしれない。

www.ynetnews.com/article/r1vo5lev1l

国内からで人質交渉に賛成と反対のデモ:極右閣僚は阻止を試み

この交渉内容が明らかになった1月14日(火)、イスラエル国内では、この交渉に応じることに賛成する人々によるデモと、反対する人々によるデモ、両方が発生した。

テルアビブでは、数千人が、この交渉で33人が解放されることを願って集まった。元人質の人々や、子供が解放される予定のビバスさんの家族、有名な左派系アーティストが参加して、祈りと歌が捧げられた。シェマ・イスラエルも歌われた。

一方、エルサレムでは、右派のデモ隊数百人が、今の人質解放の条件に危機感を表明し、首相官邸までのデモ行進を行い、官邸前道路を封鎖した。

こちらは、今、政府が釈放しようとするテロリストは、手に血がついている危険な者たちだと主張。首相に対して、ハマスに降参してはならないとして、この交渉に合意しないよう訴えた。

グループは、これまでの戦闘で死亡した兵士や地の遺族とその支援者からなる右翼団体「ゲウラ」であった。この戦いは闇と光の戦いだと主張し、首相は闇と交渉するのかと訴えていた。

www.timesofisrael.com/israelis-head-to-streets-to-rally-for-and-against-brewing-hostage-deal/

これに先立ち、連立政権内の極右閣僚たちは、この合意を「大惨事」だと酷評していた。また、1月13日(日)、極右閣僚のベン・グビル氏は、これまでの1年、政府のハマスとの合意を阻止してきたことを自ら公表した。

その方法は、ぎりぎり過半数のネタニヤフ政権の中で、ベン・グヴィル氏とその党が、連立から離脱すると脅迫することで、ネタニヤフ首相の交渉合意の意思を阻止してきたということである。

しかし、数ヶ月前、ネタニヤフ首相は、これまでリクードに反対して党を離脱し、自らの党をたちあげていたギドン・サル氏と和解に到達し、サル氏を連立政権に迎え入れることに成功。もはや、ベン・グヴィル氏がいなくても、連立が過半数を割りこんで、崩壊する心配がなくなっている。

このため、ベン・グヴィル氏は、同じく強硬右派で宗教シオニスト党の、スモトリッチ財務相に、この交渉を阻止しようと協力を呼びかけたとのこと。

www.timesofisrael.com/ben-gvir-says-he-repeatedly-foiled-hostage-deals-urges-smotrich-to-help-him-stop-this-one/

石のひとりごと

今回、また急速に人質解放の交渉が進展を見せているのは、ハマスの反対だけでなく、イスラエルの政治的事情が、変わったこともあったようである。

今、全員ではないが、とにかく、できるときに、一人でも人質が解放される方がいいという考え方にも頷けるが、残される人質を見捨てる結果になりかねないという点も、どうにも飲み込めない点である。

しかし、ガザの避難民の状況は悲惨を通り越している。そこに入っていくイスラエル兵も次々に戦死しており、トランプ氏が言うように、早く戦争を終わらせないとさらに悲惨なことになるというのも頷ける。

答えが出ない、そういう最高に難しい危機に、ユダヤ人もイスラエルも、歴史的に絶えず直面させられているように思う。この状況の中に、主が介入して、イスラエルに最善の答えにしてくださるようにと祈るほかない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。