UAEでハバッド派ラビ殺害から考察:アブラハム合意は強化される? 2024.11.26

Mourners attend the funeral of Israeli-Moldovan rabbi Tzvi Kogan in Kfar Chabad, a community in central Israel, on November 25, 2024. (GIL COHEN-MAGEN / AFP)

UAEで殺害されたハバッド派ラビ帰国・イスラエルで葬儀

UAE(アラブ首長国連邦)、ユダヤ教正統派ハバッド派のラビ・ツヴィ・コーガン(28)が、拉致され、その後、遺体で見つかった件。

UAEには、イスラエル人が約1000人、それ以外のユダヤ人も含めると2000人いるとみられている。ラビ・コーガンはこのコミュニティにとって非常に大きな喪失となった。

11月25日(月)に遺体がイスラエルに到着すると、クファル・ハバッドで、葬儀が行われた。大雨だったが、数千人が集まり、悲しみを共有していた。その後、遺体は、オリーブ山に埋葬された。

ハバッド派は、その本部があるニューヨークで、今週末、ラビ・コーヘンを記念するカンファレンスを開催するとのこと。大変なセキュリティが予想されている。

www.timesofisrael.com/the-whole-world-is-shaken-chabad-rabbi-murdered-in-uae-laid-to-rest-in-israel/

UAEも、この件を非常に深刻に受け止め、これがUAEの意志ではないと表明している。UAEは、すでに犯人3人を逮捕しており、イスラエルはUAEの対応に感謝を伝えている。

Pictures released by the UAE on November 25, 2024, of the three suspects in the murder of Rabbi Zvi Kogan (left to right):

犯人3人は、ウズベキスタン人のオリンボイ・トヒロヴィッチ(28)、マフムジョン・アブドラヒム(28)、アジゼベク・カミロヴィッチ(33)。動機や犯行の詳細についてはまだ調査中とのこと。

ラビ・コーガンの遺体は、アブダビから150キロ離れた、オマーンとの国境近くの町に放置されていた車の中で発見されていた。このため、イランの関与も疑われたが、イランは、この件については断固関与を否定している。

ユダヤ人迫害になるか・逆に良い結果を生み出すのか

この件について、さまざまな分析がされている。先にICCがネタニヤフ首相とガラント前防衛相に逮捕状を発行し、イスラエルが、国家として戦争犯罪を犯している国というレッテルが貼られたが、それに加えて、ユダヤ教そのものが罪悪とみなす流れにあるのではないかと懸念する分析がある。

www.jpost.com/opinion/article-830706

これは、ナチス時代にもあったことで、まず、正式な政府が、ユダヤ人を犯罪者と指定したことから始まった。そこから最初は、ユダヤ人を追放し、やがては大量虐殺へと進んでいったのである。当時のドイツ国民のほとんどは、それを悪とは思わず、国家のためになることだと信じて、政府に従ったのであった。

社会全体がその中で、ナチスの兵士たちの動きをみると、ユダヤ人を殺害するだけでなく、ユダヤ教の信仰を価値のないものにする、ユダヤ教そのものを亡き者にする動きもあった。

たとえば、人々を導くラビを徹底的に辱め、シナゴーグにあったトーラーの巻物を破って焼き捨てるなどである。シナゴーグそのものにも火が放たれ、それを見ても消防隊は消火しようとはしなかったとのこと。

ICCでイスラエルが戦犯とされ、続いて、明らかにユダヤ教の様相であるハバッド派のラビ・コーガンが殺害されたことで、今後、世界的なユダヤ人とユダヤ教への暴力が拡大するのではないかとの不安が広がっている。

一方で、イスラエル政策フォーラム最高責任者のマイケル・コプロウ氏は、UAEのこの件への反応や、トランプ氏が次期大統領であることを考えると、UAEとイスラエル、ユダヤ人の関係は、逆に深まるとの考えを表明している。この分析は何人かの専門家が述べている。

www.timesofisrael.com/killing-of-rabbi-in-uae-could-bolster-israels-ties-with-arab-neighbors-experts-say/

ユダヤ人の元米大統領補佐官クシュナー氏と兄弟がUAEハバッド派へ200万ドル(約3億2000万円)寄付

November 6, 2024.
(photo credit: REUTERS/CARLOS BARRIA)

Times of Israelによると、トランプ氏の娘のイバンカさんとその夫で、元大統領顧問でアブラハム合意の立役者であったジャレッド・クシュナー氏(ユダヤ人)が、UAEのハバッド派へ100万ドルの寄付を申し出た。

これに伴い、クシュナー氏の弟も100万ドルを寄付すると表明。兄弟で200万ドル(約3億2000万円)の寄付となった。

クシュナー氏は、Xに、「イスラエルとユダヤ人をスケープゴートにする行為は誰の益にもならない。世界はそのエネルギーを、共通の利益のために使うべきだ。

この歴史的な一致(アブラハム合意)に分断をもたらそうとする人には、それが逆にユダヤ人社会と、それを受け入れる社会との関係の強化にしかならないことを知ってもらいたい。

歴史が明らかにしているように、ユダヤ人を受け入れる人は収益を得ることとなり、ユダヤ人を迫害する人は、最終的には、悲惨な敗北に直面することになる。」と書き込んでいた。

www.timesofisrael.com/the-whole-world-is-shaken-chabad-rabbi-murdered-in-uae-laid-to-rest-in-israel/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。