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8日、人質4人が解放され、イスラエル国内は興奮した。しかし、それは同時に、武力で人質を全部解放することの限界を、イスラエルとアメリカにも見せつけた可能性もある。
加えて、レバノンへの戦火の拡大も懸念される中、アメリカは、今、ブリンケン国務長官を中東に再度派遣し、人質解放と停戦に向けた努力を展開している。
しかし、楽観できる状況ではないためか、イスラエルとハマスの調停が破綻した場合に備えて、人質の中でアメリカ国籍も持っている5人について、ハマスと、アメリカとの単独対話で奪回する道を検討していると報じられている。
こうした中、イスラエルもアメリカ案に同意したとして、国連安保理ではこれを支持するかどうかの採択を行った。結果、ロシア以外、全員賛成という圧倒的多数で、これを支持するとした。ブリンケン国務長官は、あとは、ハマスが同意するだけだと言っていた。
しかし本日、ハマスは、これをそのまま受け入れることなく、別の案を出してきたという。つまり、拒否したということである。
その後いつものことながら、ハマスは、拒否しているのは、イスラエルであって我々ではないとの声明を出している。
最後の仲介努力?ブリンケン米国務長官の中東訪問
長引く戦争で、人質の健康が危ぶまれ、民間人の死者が増え続けていること、また、レバノンへの戦火の拡大も急速にすすんできたことから、アメリカは、戦闘の終結へ仲介を急いでいる。
先月5月27日、バイデン大統領が、新たな停戦と恒久的な平穏への合意の3段階、18項目のプロセスを提案。イスラエルとハマス、両者に提示していた。
今回の停戦条件は、イスラエルが提示していた内容をもとに構成したものとバイデン大統領は主張していた。
しかし、イスラエルの提案に基づくとはいえ、新しく出された条件では、人質が全員解放される前に停戦となっている上、ガザからハマスを排除することが明記されていなかった。
このため、ネタニヤフ首相は、これを表向きには拒否したが、実際にはどうだったのかはわからない含みも残っていた。
ネタニヤフ首相は、今、左派勢から交渉で人質を取り戻すよう、強い要求を受けていると同時に、政権内部にいる極右政治家たちの反乱を防ぐため、停戦には強気の姿勢も崩せないという、非常に難しい立場に立っているのである。
この複雑な立場のためか、ネタニヤフ首相自身が、いったいこれからどうしていきたいのかを明確にしていない(できない)ことから、しびれを切らした有力野党党首で、元IDF参謀総長のガンツ氏と、エイセンコット氏が戦時内閣からの離脱を表明したところである。
こうした中、ブリンケン米国務長官が、8回目となる中東訪問を行なっている。カイロでシシ大統領と会談したあと、10日、イスラエルでネタニヤフ首相、カッツ外相と会談。続いて、ヨルダン、カタールを訪問する予定で、停戦条件の修正と、関係者への説得を行なっている。
国連安保理がアメリカ案を支持:ロシア以外
国連安保理は、アメリカ主導のイスラエルとハマスの停戦案を審議を行い、10日、メンバー15カ国のうち、ロシアを除く14カ国全部がこれを支持することで合意した。
当初のアメリカ案では、イスラエルがガザとの間に、安全保障地帯を設置することを拒否するとしていたが、イスラエルがこれを拒否したため、今回は、これを撤去していたとのこと。
その後、イスラエルは安保理の合意には、何のコメントもしていない、つまりは賛成しているとの意思表示と理解されている。このため、ブリンケン国務長官は、ハマスもこれに同意するべきだとの声明を出した。
安保理決議に反対票を投じたロシアは、イスラエルは合意しているようにみえるかもしれないが、実際の戦闘は続けると言っており、決議は無意味だと言っている。
ネタニヤフ首相とカッツ外相:アメリカの条件に合意か
ブリンケン国務長官がイスラエルへ到着したのは、10日。ブリンケン国務長官は、5月末にイスラエルが提示した条件をもとにしたとする停戦の条件(4ページ)と提示した。
交渉条件は、18項目からなり、3段階で平穏を回復するとしている。国内、チャンネル12がこれを報じた。
第一段階(6週間):女性全員と50歳以上の男性、病人合計33人を解放する。イスラエルは人質1人につき30人のパレスチナ収監者を釈放する。女性兵士の解放については、1人につきパレスチナ人50人を、西岸地区出身者でも全員ガザへ釈放する。
釈放するパレスチナ人は、解放される人質と同世代の未成年か高齢者とされるが、女性兵士は5人いるため、それだけで、釈放されるパレスチナ人は250人にのぼる上、このうち50人は終身刑というテロリストである。
この間、イスラエルはまだ撤退していないので、ハマスが違反した場合、戦闘再開が可能である。第二段階への移行は、第一段階をクリアしてからとされ、期間は延長される可能性が認められている。
第二段階(42日間):双方が持続可能な平穏の回復を確認する。イスラエルはガザ地区から撤退する。第三段階はその先である。
これ以上に、まだいろいろ細かい条件がある。全部は公開されていないとのこと。しかし、公表された内容では、人質全員解放にならないうちに撤退することになる様相であり、国民に誤解を与えかねない内容であった。
ネタニヤフ首相は、あわてて、ハマス殲滅という目標達成の前に停戦することで合意という報道は大嘘だと反発した。
www.timesofisrael.com/israels-full-offer-said-to-include-permanent-truce-before-all-hostages-return/
ハマスの返答:訂正案を提出・結果的に拒否か
この動きに対し、ハマスは、11日、カタールとエジプトを通じて、アメリカに返答を提出した。
まだはっきりした発表はないが、ハマスは、アメリカの案に修正を加えてきたという。予想されていたことではあったが、イスラエルが、これに応じるとは考えられず、結果的に、ハマスは、国際社会の提案を拒否したと同様と考えられている。
今後、アメリカがどう出るのか、注目される。
石のひとりごと
終わりなき交渉とはまさにこのことである。ハマスの目的は、イスラエル殲滅、イスラエルの目標は、ハマス殲滅なので、結論が出ると期待する方が、最初から無理なのである。
とはいえ、このままでは、戦争が終らず、イスラエルでも国民から募った兵士の死亡が続き、南北の避難民も限界に来ている。イスラエルにとっても妥協をせまられているということだろう。ただネタニヤフ首相は、政権の事情、妥協できる立場にない。
今のうちに劇的な、勝利の様相になればまた話は変わるのかもしれないが、それを期待するのかどうか・・。
ネタニヤフ首相と、イスラエル政府に上からの知恵があるよう、またガザでの戦闘に、誰の目にも明らかな前進が与えられるように。