宿は全部空いているベツレヘム:2023年のクリスマス 2023.12.25

12月24日のベツレヘム (Mahmoud Illean/AP)

クリスマスに空っぽのベツレヘム

クリスマスは、ベツレヘムで生まれたイエス・キリストの誕生を覚える日である。

通常なら、ベツレヘムでは、美しい電飾に飾られたクリスマスツリーや、花火も上がる日である。夜中からはカトリックの教会で、ミサが行われる。しかし、今年のクリスマスは、コロナに代わって、今度は戦争で、観光客がまったく来ないというクリスマスとなった。

ベツレヘムの教会では、アラブ人クリスチャンたちがミサに来ているが、海外から来るクリスチャンは全くない。土産物店もほぼすべて閉店しており、その様相は、コロナの時よりもひどいという。

毎年、ベツレヘムのイベントの中心となる飼葉桶広場でも石の山をつみあげられている。史上初めてクリスマスツリーを置かないクリスマスとなった。

イスラエル軍とハマスを含むパレスチナ過激派との戦闘は、ガザだけでなく西岸地区でも続いている。イスラエルへの出入国は非常に厳しくなっており、イスラエルで働いていたパレスチナ人は、多くが職を失った。

西岸地区のパレスチナ人たちがいったいどのように生活しているのか、情報も少ないのだが、その悲惨さは想像するにかたくない。

ベツレヘムは、キリスト教に深い関わりがあるため、以前は、住民の多くはクリスチャンだった。しかし、今は、おおむねイスラム教徒である。少し前から、「今年のクリスマスはキャンセルだ」と言い、町には、「ガザのために祈れ」といった表示が出ている。

www.timesofisrael.com/faithful-pray-for-holy-land-peace-as-gaza-fighting-dampens-christmas-spirit/

パレスチナ自治政府の観光相は、「今年のクリスマスは違う方法で祝っている。ガザで起こっていることを世界に訴える形で祝っている。」と述べた。

クリスマスへのそれぞれの反応:ベツレヘム

1)クリスマスはキャンセル

ベツレヘムのルーテル派の教会は、ハマスとの戦争をしているイスラエルに停戦を求めるとして、生まれたばかりのイエス・キリストの人形を、飼葉桶ではなく、石の山に寝かせている。

そのイエスにかけられているのは、パレスチナ人アラブの象徴である黒い柄のカフィア(ヨルダンは赤)である。牧師は、これはガザの子供たちだとして、早い停戦を訴えた。

 

2)痛んだ同胞に愛を届ける土産物店

当然、土産物店は閉まっている。ベツレヘムで1927年からの土産物店(ということはおそらくクリスチャン一家)で、3代目店長のロニー・タバシュさんによると、ガザでの戦争が始まって以来2ヶ月、まったく客は来ていないとのこと。

しかし、タバシュさんは、ともかくも店に来て、オープンして、人々が立ち寄ってコーヒーを飲んでいけるようにしている。それが私たちの歴史であり、心だからと語っている。

3)クリスマスはキャンセルしていない:フランシスコ・パトン神父

ベツレヘムでイエス・キリストが生まれた場所を記念する降誕教会は、カトリック、東方教会、アルメニア教会と多くが共同管理している。カトリックを代表するフランシスコ・バトン神父は、「ベツレヘムはクリスマスを祝わないといっているが、そうではない。クリスマスの祝いは終わらない。」と世界にメッセージを発した。

バトン神父は、「マリアとヨセフがベツレヘムに来たとき、宿は満員で部屋は一つもなかったが、今は、部屋は全部空いている」と話を開始。クリスマスは、すでに神によっておこったことであり、だれにもキャンセルはできないと語っている。

クリスマスのメッセージは、神が我々の歴史の中に、私たちの一員として来てくださり、救ってくださった。今、戦争と憎しみという、最も困難な暗闇にあり、その暗闇が光を拒否していても、光は、輝き輝きつづけており、消えることはない。

むしろ、この日、その光を思う時、さらにその光を必要としていることがわかってくる。この世界に希望と光、イエスによる救いをこの場所から広げていかないといけない。イエス。エマニュエル。神が共におられる。

www.vaticannews.va/en/church/news/2023-12/christmas-season-2023-francesco-patton-ofm.html

バチカンのフランシス教皇のクリスマスメッセージ

Pope Francis presides over the Christmas Eve mass at St. Peter’s Basilica in the Vatican on December 24, 2023. (Tiziana FABI / AFP)

世界で最も人数が多いキリスト教徒の総本山的なバチカンの教皇の言葉は、世界情勢に大きな影響を及ぼしてきた。今年24日イブの夜、サン・ピエトロ広場の6500人を前に教皇フランシス(87)は、困難な状況にあるベツレヘムを思うと語った。

また、イスラエルやガザ、ロシアやウクライナといった名前は出さなかったが、「戦争という無益な論理」によって平和が妨げられていると語った。

その上で、「礼拝」の重要性を語った。「礼拝」は主を慕うときであり、主を私たちの時間に迎えることだとして、それは決して無駄なことではない。それは神と働きを共にすることであり、世界を帰ることになる。礼拝は、とりなしであり、神ご自身が私たちの歴史に働く道備えをすることだと語った。

www.catholicnewsagency.com/news/256368/pope-francis-christmas-mass-jesus-was-born-to-save-the-world

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。