地上軍足止めの中、ハマスが捕虜2人解放 2023.10.24

(photo credit: Al-Qassam Brigades via REUTERS)

イスラエル地上部隊が、今にもガザへ進軍しようとする中、13日、アメリカとの二重国籍のラナンさん母娘が、エジプトとカタールの仲介で釈放されたが、昨夜23日、ユリット・クーパーさん(79)と、ヨカベド・リフシッツさん(85)が釈放された。ハマスは釈放の理由を「人道」だと言っている。

今回、仲介したのは、エジプトであった。2人は、まず、赤十字経由を通してエジプトへ釈放され、そこからヘリコプターで、イスラエルへ、テルアビブのイチロフ病院へ搬送された。2人とも基礎疾患はあるものの、健康状態は良好とのこと。

再会したヨケベデさんとその家族

家族とも面会できた。二人は、どちらもガザ国境に近い、キブツ・ニール・オズの住民で、夫も共に拉致されていた。夫はまだガザの中で囚われたままとみられている。

www.timesofisrael.com/two-israeli-hostages-nurit-cooper-79-and-yocheved-lifshitz-85-released-from-gaza/

ハマスは、続いて外国人を釈放するとも匂わせており、国際社会だけでなく、アメリカも、人質釈放と民間パレスチナ人への支援物資搬入を行うとして、イスラエルに地上軍侵攻を遅らせるように圧力をかけている。

しかし、侵攻が遅くなればなるほど、ハマスに時間を与えることになり、ガザ内部にあらゆる罠や仕掛け、爆弾を準備させることになってしまう。軍は、逆に政府にそのゴーサインを出すよう、迫っているという。

ただ、実際のところ、イスラエル軍が、本当に準備できているのかどうかはわからない。ハマスはこの日のために、想像をはるかに超える準備をしているだろう。アメリカは、イスラエルにはそこまでの準備はないとみているとの情報もある。

www.jpost.com/arab-israeli-conflict/2023-10-24/live-updates-76986

イスラエルの見ているもの・直面する課題とは:元国家治安顧問ギオラ・エイランド大佐(予備役)

ハマスとの戦闘について、国家治安顧問でイスラエル軍大佐(予備役)のギオラ・エイランド大佐が、イスラエル軍が今直面する課題について、メディア関係者らに解説を行った。

1 イスラエル軍の目標と方策

エイランド大佐は、まず、今、イスラエルが直面しているのは、存在にかかわる危機だと強調した。現在ガザ周辺に住んでいた人は今、避難しており、自国の土地ながら、そこに存在できないという事態になっているのである。彼らが安心して自宅にもどれるようにする、つまりは国の存在をあらためて確立する、この戦争のまず第一の目標である。

そのためには、ガザの脅威を完全に排除しなければならない。そのために、必要なことは2点。

1)大規模にガザに入り、完全に危険因子を排除する。ハマスの指導者を完全に一掃する。

突入する地上軍が直面しうる課題は以下の通りである。

①目標到達地点に達することができるか。(危険な地点・人物に効果的に到達できるか)
②ガザ内部には恐ろしいほどの罠や仕掛けられた爆弾やトリックもある。そこで長期戦に耐えられるのか。
③地下にはりめぐらされたトンネルを効果的に破壊できるかどうか。
④捕虜やパレスチナ民間人が逃げるための回廊を築けるのかどうか。

*以下のサイトにガザ内部の地下トンネルをイスラエル軍が把握したという情報

mtolive.net/明らかになったハマスの地下トンネル-2021-5-21/

パレスチナ民間人についてはできることはしていかなければならない。病院については、たとえば、エジプトが国境を開いてエジプト側に病院をつくること。イスラエルはこれを支持する。

2)ガザを完全に閉鎖して、いわゆるひょうろう攻め状態において、ハマスが自ら手を挙げるしかない状態に置く。

地上軍侵攻にあたり、最大の懸念は、ガザにいる人質である。イスラエルが食糧、水、医薬品などの搬入を停止していたのは、もし人質を全員無条件に返還したら、それらの搬入すると言っていた。そこには、いかなる交渉もないと言っていた。

しかし、この点は、国際社会の圧力で、人道支援物資が搬入されはじめてしまった。このため、今は、いつ、だれを返還するのかなどを決める主導権がハマスの側になってしまっている。

これからガザへ突入しようとする時に、イスラエルにとっては大きなジレンマとなっている。しかし、いずれにしてもイスラエルが地上戦をやめるということはない。

2)ハマス滅亡のあとのガザについて

最善のシナリオは、地上軍侵攻が速やかに終わり、イスラエル人の死傷者は最小限のうちに、ハマスを亡き者にすることである。その後は、パレスチナ自治政府A地区のように、自治政府が主導するパレスチナ人地域にする。

A地区はイスラエルが、治安に関わる際にもみ、踏み込む権利も維持する。しかし、その後に深く関わることはない。自治政府カタールやエジプトなどが支配することが一番よいと考えている。

しかし、ガザにいるパレスチナ人は230万人である。この人々をどのように、だれが導いていくのか、正直なところ、現時点でよそうできるものではない。(明確な計画があるわけではないということ)

戦争開始から2週間経過:政府への支持率は過去最低の20%

10月6日に戦争がはじまってから、もう2週間以上になる。あれほど分裂していた人々が、一致して助け合い、戦おうとする様子はあるが、戦闘が長引き、日々サイレンがなる日々である。店は閉まり、学校も毎日行ける状態にない。

戦死者も出ている。ガザ周辺でハマスが行った凄まじい虐殺の実態や、そこで殺された武装ハマスが持っていた資料から、ハマスが、どのようにイスラエル人を殺そうとしていたか(ガスによる殺戮も含む)が明らかになってきている。

それらが、心に深い傷となり、怒りで心を病む寸ん前の人もいる。なぜこんなことになったのか、なぜ政府は早く攻撃を察知できなかったのかという思いも出てきているようである。

イスラエルの民主主義研究所が行った調査によると、戦争勃発後に発足した右派左派協力する戦時下臨時政権を支持すると答えた人は、過去最低の20%を記録した。右派支持者にたっては、支持率はわずか12%であった。

今も地上侵攻が遅れ、人質が222人中、2人(今は4人)返還されただけで、人道支援物資の搬入が始まっている。これについて、49.5%とほぼ半数の人は、イスラエルがハマスと交渉すべきだと答えていた。交渉しないと決めている政府に怒りを覚えるん人が少なくないということである。

また、ガザのパレスチナ市民のことを考慮すべきだと答えたイスラエル人は47.5%で半分以上の人は考慮しなくてもよいと考えていることになる。これについて、イスラエル在住のアラブ人は、83%が、考慮すべきと答えていた。

www.jpost.com/israel-news/politics-and-diplomacy/article-769768

石のひとりごと

イスラエル人たちは、まさにホロコーストと並ぶほどに惨殺を戦後70年以上経って再び経験することとなった。ユダヤ人は、ユダヤ人であるというだけで、家族のように痛みを共有する人々である。

国民一人一人のショックは相当大きい。加えて今、これから再び同じことが起きないようにするための反撃をしようとする中、世界はその足をひっぱろうとする傾向にある。ホロコーストの時代のように、世界に見捨てられるとの感覚にもなっているかもしれない。メディアにインタビューされるイスラエル人専門家の声には、怒りが爆発している人もいる。

Kobi Gideon (GPO)

ネタニヤフ首相は、さらにその上に、市民たちの不信感も感じながらも、ガザへ侵攻するのか。それはいつなのかという決断をしなければならない。軍から催促される一方で、諸国の首脳たちからは、思いとどまるように言われる毎日である。

ガザへの侵攻は、敵味方に多数の人の命が失われることは避けられない。しかもそのタイミングをあやまれば、軍や市民に限りなく大勢の死者が出る。ゴーサインを出す時の責任の重さは、はんぱない。決断が良かったのか悪かったのか。後の時代の歴史にも刻まれていくだろう。

主の名がつけられているイスラエルを今、背負っているネタニヤフ首相。主が今、日々、特別に深く関わっていて下り、最善の決断をするように祈る。

まことに、主はヤコブを選び、ご自分のものとされ、イスラエルを選んで、ご自分の宝とされた。まことに、私は知る。主は大いなる方、私たちの主はすべての神々にまさっておられる。(詩篇135:4-5)

 

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。