バイデン大統領とネタニヤフ首相会談:サウジとの国交とそのためのハードルについて 2023.9.22

Avi Ohayon (GPO)

ネタニヤフ首相が就任9ヶ月目にバイデン大統領と会談実現

9月20日(水)、ニューヨーク・マンハッタンのバークレーホテルで、ネタニヤフ首相は就任後初めてとなる、バイデン大統領との会談に臨んだ。歓迎の雰囲気は、極めてフレンドリーで、バイデン大統領は、ネタニヤフ首相を年内にもワシントンへ招待すると申し出たという。

両首脳は、まずは二人で、それから側近たちが加わる形で、約1時間、対話した。

バイデン大統領が、ネタニヤフ首相との会談を控えてきたのは、イスラエル国内で、強硬右派の政権が、半分近い市民の反対を押し切って、司法制度改革を推し進めており、民主主義の崩壊、独裁政府への一歩を踏み出したことが否定しきれないからであった。

今回も会談において、バイデン大統領は、「国民の大半の支持」がない限り、司法制度改革を推し進めるべきではないとの考えをネタニヤフ首相に伝えている。しかし、これについては、予想以上の押し付けにはならなかったと伝えられている。

ネタニヤフ首相は、バイデン大統領に、イスラエルの民主主義の価値は変わらないということを強調した。とはいえ、口ではなんでも言えるわけなので、いわゆる外交儀礼というほどに受け取るべきであろう。

それよりも、バイデン大統領が今、焦点においていることは、イスラエルとサウジアラビアとの国交開始という、大きな世界史の転換である。アメリカは、中露・イランといった先制主義勢力の拡大に対抗する勢力の拡大を進めている。最大シーア派イスラム国のイランとの対立も抱える。

そうした中、中東最大でイスラムの聖地メッカを含む、スンニ派イスラム国のサウジラビアを、軍事的、経済的にも欧米側にどうしても取り込みたいのである。その鍵となるのが、サウジアラビアとイスラエルとの国交締結である。

アメリカのこの目標を利用して、サウジアラビアは、イスラエルとの国交締結を頭から否定せずに条件をアメリカに突きつけている。

その最大の壁が、①イスラエルが、パレスチナ国家の設立に大きな譲歩を行うこと、②アメリカはサウジアラビアの平和的核濃縮を認めること、③アメリカの最新兵器輸入への道を許可すること、である。いわば、言いたい放題といえるだろうか。

www.timesofisrael.com/biden-highlights-need-to-uphold-democratic-values-in-meeting-with-netanyahu/

パレスチナ問題の譲歩について:アッバス議長の反応は?

サウジアラビアが出している条件は、すべてイスラエルが認めることが超難しい懸案である。しかし、最終的には、サウジアラビアとの国交締結がイスラエルにもたらす国益と比べた場合に、どうなのかということが、ネタニヤフ首相の考えていることである。

ネタニヤフ首相は、ずいぶん前から、サウジアラビアとの国交成立を目指しているので、あらゆるタブーを押し通してでも、これを成立させる可能性は否定できない。

国連総会でのアッバス議長
スクリーンショット

またどこまで信じられるかは別として、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、現時点で、イスラエルにパレスチナ国家設立を要求することはないが、二国家案(国を2つに分ける)に向けた実際的な動きを見せることと、一応の言葉上の“譲歩”ともみえる動きを見せている。(実際、イスラエルにとっては全く譲歩ではないが・事項参照のこと)

www.jpost.com/middle-east/article-760068

イスラエルとサウジアラビア、アメリカの防衛協定:イランの反応は?

(Michael A. McCoy / GETTY IMAGES NORTH AMERICA / Getty Images via AFP)

また、バイデン大統領が、イスラエルとサウジアラビアの国交締結に、アメリカとの防衛協定をあげていることが注目されている。

これは何かというと、もしイスラエルとサウジアラビアが攻撃を受けて、アメリカに援軍を求めた場合、アメリカはこれに応じると約束するということである。

ただし、これについては、アメリカの議会を通過するかが課題であることと、イスラエルも、防衛において他国に依存するような立場には置かないという建国以来の方針に反することになるので、そうとうな論議になることが予想される点である。

www.timesofisrael.com/us-said-weighing-defense-pacts-with-israel-saudis-as-part-of-normalization-talks/

しかし、こうしたジェットコースターのような外交の動きとともに、サウジアラビアのビン・サルマン皇太子(次期王)が、「サウジアラビアとイスラエルは国交締結に日々近づいている。」と発表し、日本を含め、世界のメディアが取り上げている。

www.nikkei.com/article/DGXZQOGR217O60R20C23A9000000/

国連総会スクリーンショット

こうした動きについて、国連総会でニューヨーク入りしている、イランのライシ大統領が、記者会見を行った。

ライシ大統領は、「サウジアラビアは、イスラエルとの関係と引き換えにパレスチナ人を裏切った。」との見解を明らかにした。

中東でイスラエルとの関係強化が治安につながると考えているのだとしたら、それは間違っていると語った。

www.timesofisrael.com/iranian-president-says-israel-saudi-ties-would-be-stab-in-the-back-to-palestinians/

両首脳会談中のイスラエル人たちのネタニヤフ首相への抗議デモ

バイデン大統領とネタニヤフ首相が、会談していたバークレーホテルの外では、イスラエル人たちによる反司法制度、民主主義維持へのデモが行われた。デモ隊は、「独裁反対」とのプレートを掲げ、イスラエルが民主主義を維持できるよう、アメリカは助けてほしいと訴えた。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。