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ロシア軍拠点に近いシリアの港攻撃
14日(日)夜、地中海に面するシリアの港タルシシ付近が攻撃され、シリア兵3人が死亡、3人が負傷した。同時に首都ダマスカス付近のヒズビラ拠点への攻撃も行われた。シリアは、どちらの攻撃もイスラエルによるものと報じたが、イスラエルは、いつものようにノーコメントである。
タルシシは、ロシア軍が地中海への唯一のアクセスとして海軍を置いている港である。さらに、ここからわずか70キロのラタキアには、ロシア空軍基地もある。
ロイターによると、イスラエルは、シリアのイラン拠点への攻撃をすでに数百回以上実施しているが、シリアの制空権を持つロシアに、イラン拠点への攻撃を黙認してもらっている関係で、これまでは、ロシア軍が拠点を置く湾岸地域への攻撃は避ける傾向にあった。
ラピード首相になってから、ロシア国内のユダヤ機関を閉鎖する動きに出るなど、ロシアとイスラエルの関係がぎくしゃくしている中で、いわばタブー地域への攻撃であったということである。今の所、ロシアからの反応は報じられていない。
しかし、この攻撃の数時間後の15日、シリア東部、ヨルダンとイラクの境界近く、アル・タンフで、反政府勢力を支援する米軍基地にイランからとみられるドローンによる攻撃があった。幸い、米軍はこれに対処でき、負傷者も出なかった。この攻撃は、上記ロシア周辺への攻撃への反撃とみられている。
ロシアに近づくイラン:欧米と対立を深めるイラン
イランがロシアに代わって反撃したかにみえるドローンによる攻撃だが、ここしばらく、イランがロシアに接近する動きがみられる。7月には、プーチン大統領がイランを訪問し、イランからドローンの提供を受けることとなり、ロシア軍関係者がイランで訓練を受ける様子が報じられている。
こうした動きから、イスラエルが、ロシアとの関係を優先する方針に変化がではじめていると報じるメディアもある。特にラピード首相はロシアへの非難を、公に口に出す人であることはお伝えしている通りである。
ロシアは今後、シリアでイランを攻撃するイスラエルに、どういう態度をむけてくるだろうか。なんとも予測不能なのがプーチン大統領である。
加えて、イランと、欧米との対立もますます深まり、イデオロギーの対立という構図も明らかになりはじめている。
1) 核合意延長問題:合意ならずまた決裂するか
イスラエルが防衛上、最大の課題としているイランだが、先進5カ国とEUとの間で2015年の核合意再建に向けた交渉が、いよいよ決裂になる可能性も出始めている。これはもう延々と言われ続けていることだが、イランがいよいよ核兵器製造を達成するとも言われている。
www.timesofisrael.com/iran-responds-to-final-nuclear-talks-proposal-after-urging-us-flexibility/
2)「悪魔の詩」ラシュディ氏襲撃をめぐる問題
12日、イスラムを冒涜していると言われた小説「悪魔の詩」のイギリス人著者サルマン・ラシュディ氏がニューヨークで講演中に演台で刺され重症を負った。犯人は、逮捕されたが、この事件とイランとの関係が注目されている。
「悪魔の詩」が出版された1988年、当時のイランの最高指導者ホメイニ師は、ラシュディ氏の死刑を宣言し、ラシュディ氏を殺害したものに300万ドルの懸賞金を出すとして、これをファトワ(イスラム教からの正式な判断)に指定した。
ラシュディ氏は、以後30年以上、無事だったわけが、この本を日本語に翻訳した五十嵐一教授や、トルコなどでも多数の翻訳者は殺されているので、脅迫は架空ではないということである。
今回ラシュディ氏を襲撃した犯人がイラン革命軍に同感していたことは、本人SNSの記録からもあきらかなようだが、イラン外務省は、関与を完全に否定している。しかし、イランメディアは、神の罰が下ったのだといった報道をしているので、アメリカのブリンケン国務長官は、「卑怯な言論の自由への攻撃だ」として、これと戦っていくと表明した。
ロシア、イラン、中国に対し、アメリカやヨーロッパ。この構図でいえば、イスラエルは明らかに欧米側である。今後、イスラエルは、どこまでロシアにとりいるのか、アメリカとはどうつきあっていくのか。非常に難しい問題である。