ウクライナとの関係:現地ユダヤ人の取り扱いにも課題 2022.2.22

オデッサのJDCの支援を受けている高齢者 JDC

こうしたイスラエルの様子に落胆を表明したのが、ウクライナである。ウクライナは、立場的にも直接G7ではなく、諜報軍事に長けているイスラエルにもっと介入し、支援してほしいと考えていた。しかし、イスラエルはロシアとの関係維持のため、ウクライナへの迎撃ミサイル配備を見送るなどの動きに出ている。

12日、ウクライナのエミニ・ズハパロブ副首相がイスラエルを訪問し、ラピード外相と会談し、ロシアとの戦争になれば、イスラエルも影響は免れないとして、お互いのためにも、イスラエルはこのウクライナ問題にもっと介入するべきだと訴えた。

副首相は、ウクライナのゼレンスキー大統領がユダヤ人であるだけでなく、ウクライナには、大きなユダヤ人コミュニティがあることも、イスラエルが介入するべきだと訴えた。

www.jpost.com/international/article-696342

*現地ユダヤ人を支援するユダヤ人組織JOINTジョイントより

ロシアのウクライナ侵略が懸念される中、イスラエル政府は、イスラエル人の帰国を改めて呼びかけている。しかし、まだ帰国する人は少ないもようである。一方、ウクライナには、イスラエルに避難できない多くの貧しいユダヤ人高齢者がいる。

これを主に助けているのが、JOINTと呼ばれるユダヤ人支援団体である。ジョイントとは、アメリカで、1914年に設立された非常に歴史あるユダヤ人支援団体である。ジョイントはホロコーストの時代には、ゲットーにいるユダヤ人に食糧などを届けた。また、杉原千畝のビザで日本に逃れてきたユダヤ人の神戸での生活を支えたのも、ジョイントであった。

シャブオットの食料を渡すJDC

ジョイントは、ウクライナに、7つのユダヤ人コミュニティと、18ヶ所に支援センターを運営している。ジョイントがケアをしている高齢のユダヤ人は3万7000人。このうち9900人がホロコーストを生き延びた高齢者だという。

ホロコーストの時代、ウクライナでは、ウクライナ人も加わっての激しい虐殺行為が行われた。特に、バビヤールという、キエフ郊外にあった虐殺の穴では、2日間に3万7000人以上が銃殺されたことで知られる。戦後も生き残ったユダヤ人の多くは、ユダヤ人であることを隠して生きるなど厳しい生活を続けた人が多い。

ウクライナにいるジョイントによると、ウクライナでは物価の上昇が深刻で、病気を抱える高齢者には、非常に厳しい状況になっている。ジョイントには、ユダヤ人だけでなく、ドイツからの支援が大きいという。

しかし、コロナ禍で、集まることができなくなったことから、ジョイントは簡単スマホを配って、高齢者が使えるようにした。このため、今のロシア侵攻の危機に際し、どこに高齢者がいるかなどしっかり把握できるようになっているとのこと。ここで働く人の中には、イスラエル人もいるが、帰国はしないとのことである。

前にお知らせしたように、キエフにいるラビも、帰国する予定はない。高齢者だけでなく、オデッサには、ユダヤ人の孤児院(300人収容)もあり、そこで働くイスラエル人も帰国できない状況にある。この子供たちはイスラエル国籍がないので、急ぎ移住させなければならない。

しかし、イスラエル政府にその動きはないため、キエフのチーフラビ・ヤアコブ・ブライヒもまたイスラエルに落胆を表明している。

www.jpost.com/diaspora/article-696352

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。