コロナ最前線のイスラエルが直面している課題 2021.1.23

エルサレムで医療従事者によるデモ スクリーンショット

ワクチン接種は、首尾よく実施できているイスラエルだが、なにしろ、未知のウイルスである。変異種に今のワクチンがどのぐらい効果があるのかも含め、まだ予断は許さない状況にある。エデルステイン保健相は、半分ほほえみ、半分険しい顔だと言っている。

重症者増加で医療に負担

少し先が見えてきているとはいえ、日本と同様、イスラエルでも重症者の数は増加傾向にあり、現在入院中の患者は、1845人。このうち1128人が重症で、310人が人工呼吸器依存である。死者も1日30人近く出ており、これまでに4245人が死亡している。

こうした中、全国6病院が、この緊急時に「24日以降、死に直面している患者以外は受け入れない。」と救急隊に申し入れた。病院側は、財務省に経済的な支援を要求している。重労働の医療従事者への給与を上げるよう、訴えている。

以下は、ハイファのランバンホスピタルの地下駐車場病棟(戦時下用の病棟)の様子

しかし、ここ連日、ニュースに上がっているのは、超正統派たちが、感染予防対策を守らず、非常に大勢が超過密状態で結婚式を行ったり、子供たちを普通に学校へ行かせている点である。取り締まる警察と暴力的な衝突も発生している。

超正統派たちは、すすんでワクチンを受けいているのだが、ラビが結婚式をするとなると、皆が従う傾向にあるので、やはり、一般の人々より感染する率は高いままで推移している。

www.i24news.tv/en/news/israel/1611257457-israel-public-hospitals-request-to-halt-ambulance-services-due-to-lack-of-funds

ワクチンを受けていない子供の重症化が増加中

今イスラエルで蔓延しているのは、主にイギリスの変異型で、まもなく従来型が、この変異型に制覇されるとみられている。今、あらたに懸念されていることは、妊婦や子供たちへの感染である。

イスラエルでは、この数週間の間に、コロナに感染した子供たちは、2万3549人。4000人が未就学児で、1万1680人が小中学生。8000人近くが高校生である。この中で、重症化する子供たちが増加傾向にあるという。

エルサレムのハダッサ・ヘブライ大学病院では、イスラエルでは最初となるコロナに感染した小児専用の集中治療室を開設した。他のICUからは完全に切り離され、2重ドアで区切られている。

ベッド数は8床で、すでに4床が埋まっていいる。最年少は生後10日、最年長は2歳である。この子供達の両親もコロナ陽性であるため、家族と子供たちはオンラインで顔合わせはできるが、あまりにも悲しい状況だという。

www.timesofisrael.com/hadassah-hospital-opens-israels-first-pediatric-icu-for-covid-19-patients/

パレスチナ人へのワクチン接種

イスラエルが最速で国民にワクチン接種を進めている中、国際的な批判が高まっているのが、パレスチナ人へのワクチン接種である。ワクチン・アパルトヘイトだなどと非難が高まっている。

イスラエルは、西岸地区のユダヤ人入植地にいるイスラエル人にはワクチンの接種を行っている。しかし、そのすぐ隣にいるパレスチナ人への接種は行っていないからである。ただし、イスラエル国内のアラブ系住民は言うまでもなく、東エルサレムのパレスチナ人への接種は行っている。

www.hrw.org/news/2021/01/17/israel-provide-vaccines-occupied-palestinians

エデルステイン保健相は、これについて、「イスラエルは、コロナ発生の早期からパレスチナ人への医療物資などの支援は行ってきた。しかし、ワクチンについては、やはり、自国民が先にならざるをえない。

自国民への接種が終われば、パレスチナ人への接種もありうる。幸い、パレスチナ自治政府も独自で、ワクチンを獲得できそうだと聞いているので、そのための助けはするつもりだ。」と言っている。

しかし、日々、イスラエルへに入ってくるパレスチナ労働者は、10万人にのぼる。この人々にもワクチンをしないと、イスラエルにウイルスを持ってくるか、持って帰って感染拡大ということもありうる。

イスラエル自身が、コロナから本当に勝利するためには、パレスチナ人のワクチン接種も必須ではないかとの論議が、国内からも上がっている。

www.timesofisrael.com/israeli-immunity-hinges-on-palestinians-getting-covid-shots-too-doctors-say/

*パレスチナ人のコロナ情勢

21日のパレスチナのメディアによると、西岸地区、東エルサレム、ガザ地区で、1日の新規感染者は、574人。昨年12月に1日2000人台を記録していたことからは減っている。累計の感染者は17万3400人で、死者は1925人。
(パレスチナ人人口は、西岸地区、東エルサレム、ガザを入れて517万人)

しかし、実際には、どのぐらい検査が行われているのかも不明で、検査拒否、感染していても隠している人も少なからずいると考えられるので、実際の感染状況は不明と言っておいたほうがいいだろう。実際、一時期、パレスチナ人の間では、陽性率が30%を超えた時期もあった。

パレスチナ自治政府は、ロシア製のワクチン400万回分の約束を取っており、まずは10万回分を購入。その最初となる5000回分が先週、届くはずであった。しかし、なんらかの手続き的な問題で遅れるとのことであった。この他、アストラゼネカから200万回分、国連関連からも追加が届く予定になっている。

www.timesofisrael.com/palestinian-shipment-of-russian-sputnik-vaccine-delayed/

21日、オーストラリア政府が、コロナ対策のために、パレスチナ自治政府に、100万米ドル(約1億1000万円)の支援を表明した。

english.wafa.ps/Pages/Details/122944

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。