目次
就任式と初日の動き
20日、ジョー・バイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領が正式に就任した。就任式の前には、新しく就任するバイデン大統領、ハリス副大統領と、共和党議員も一部含むメンバーとともに、聖マタイ使徒教会で、非公開の礼拝を行い、その後、就任式に向かった。
ワシントンDC市内は2万5000人の州兵が警備にあたり、本来なら支持者で埋め尽くされるはずの議会前広場は、アメリカの旗がいっぱいに埋め尽くされていた。式典への出席者は、ばらばらと離れた状態で着席し、通常の就任式とは違った就任式であった。
式典でアメリカ国家を歌ったのは、レディ・ガガさん。またホワイトハウスでの舞踏会の代わりに、作られた特別番組「セブレーティング・アメリカ」を俳優のトム・ハンクスさんが司会で行われた。
本来、就任式でバトンタッチするはずのトランプ前大統領は出席しなかったが、ペンス前副大統領は出席した。
(以下はニューヨークタイムスによる就任式ハイライト:約5分)
1)就任挨拶で結束を呼びかけ
バイデン大統領は、就任挨拶の最初に「民主主義が勝利した。」と宣言。自分に賛同しない人々に対し、「自分の行動、その心を検証してほしい。その上でなお賛同できないなら、それでよい。それが民主主義だ。それがアメリカだ。合意できないからといって、分裂するべきではない。私は、すべてのアメリカ人の大統領だ。」と述べた。
バイデン大統領はまずは、世界最悪状態にあるアメリカの新型コロナ情勢にスピーディに取り組むと言っていた。それを象徴するかのように、就任式挨拶中に、これまでにコロナで死亡した40万人への短い黙祷も行われた。
2)トランプ路線を転換:初日大統領令署名15項目
バイデン大統領は異例にも、就任早々、異例にも15項目にものぼる大統領令に署名した。トランプ前政権からのきちんとした引き継ぎがない中、かなり前から、政策についての検討がなされていたとみられる。
署名した項目は、まずは、コロナ対策関連で、マスク着用の義務化。コロナ対策より経済を重視していた前トランプ政権の方針からの転換を表明した形である。また、パリ協定(国際温暖化対策)への復帰、WHOへの復帰、イスラム教徒の入国制限撤廃など、国際社会との融和政策に戻ることへも署名した。
トランプ大統領からの置き土産で最大級のものは、中国との対立路線である。中国は、バイデン大統領の就任に合わせて、ポンペオ国務長官らの中国入国を禁止するなど、前政権への嫌悪を明らかにした。新政権へのメッセージであるとみられている。
メディアとの衝突が目立ったトランプ前大統領とは違い、毎日の記者会見を再開するなど、文字どおり、まったく違う路線をアピールした形となった。
3)コロナ対策:翌日大統領令10項目
バイデン大統領は、アメリカのコロナ情勢について、状況はまだ深刻であり、来月むけて死者は50万人に上るとの見通しから、今はフルスケールの戦時下にあるとの危機感を、国民に伝えた。バイデン政権の目下の最優先課題はコロナ対策である。
就任の翌日、バイデン大統領は、マスク着用、州をまたぐ航空、鉄道、バスなどの交通、検査体制、海外から到着する人の空港での検査義務、学校再開のガイドラインなど、10項目にわたるコロナ関連対策に関する大統領令10項目に署名した。
またワクチンについては、100日以内に1億回ワクチン接種を宣言しており、このために各州が州兵を使うための費用の保証などもあげられている。しかし、ワクチン接種については、100日以内に1億回では足りず、2億回にするべきだとの声もある。そのぐらいの勢いが必要ということである。(アメリカの総人口は、3億2700万人)
アメリカでは、すでに2450万人が感染、1650万人が接種を終えているので、全国民の70−80%が、夏が終わるまでに接種を終え、秋ぐらいには通常に戻るというのが希望的楽観的目標である。コロナ担当のファウチ博士は、ワクチンをしたがらない人が少なくないという点が課題になるだろうと語っている。
www.bbc.com/news/world-us-canada-55750884
ネタニヤフ首相が祝辞:バイデン政権との関係はどうなる?
1)イスラエルからの祝辞
ネタニヤフ首相は、20日、就任式を迎えたバイデン大統領と、ハリス副大統領に、ビデオメッセージで祝辞を送った。その中で、ネタニヤフ首相は、(オバマ政権時代を含め)長い個人的な関係をあげ、ともに働くことを楽しみにしていると述べた。
また、トランプ政権で始まったイスラエルとアラブ諸国の和平を継続することと、共通の脅威、イラン対策について、イスラエルとともに立つよう、改めてよびかけた。
バイデン大統領が、イランとの核合意への復帰を目指していることについて、ネタニヤフ首相は、すでに懸念と釘をさすメッセージを発している。このメッセージは、正式な多少表面的なものでもあるといえる。
なお、アラブ諸国との国交再開について、バイデン大統領は肯定的な味方を表明している。しかし、新しく就任したアントニー・ブリンキン国務長官は、トランプ大統領が、その見返りとして、UAEに約束した、最新鋭戦闘機F35の販売については、厳しく検討すると表明している。しかし、F35の売買契約は、20日に署名されたとTimes of Israelは伝えている。
ネタニヤフ首相は、この祝辞を出したのち、ツイッターで、トランプ大統領へ、「あなたが、イスラエルのためにしてくれた多くの偉大な政策に感謝する。特に、エルサレムをイスラエルの首都と認めてくれたこと、アラブ諸国とイスラエルに合意をもたらしてくれたことに感謝する。」と個人的な感謝のメッセージを出していた。
このほか、リブリン大統領、リブリン大統領も、同様に、中東は急速に変化しているが、それはポジティブなものであると述べ、パレスチナ人との関係も含めて、平和の構築に期待していると述べた。
ガンツ防衛相、ネタニヤフ首相最大ライバルのギドン・サル氏もバイデン大統領に祝辞を送っている。
2)親しい関係から公式の関係へ
イスラエルのメデイアは、この4年間、ネタニヤフ首相とトランプ大統領が、直接長電話で打ち合わせするという、およそ一国の首脳同士としてはありえないような関係が続いていたことをあげ、これからは、認識の変化が求められると分析する。
言い換えれば、極めて予想外に政策をころころ変えたトランプ大統領と違って、決まるまでの時間がかかり、一旦決まればなかなか変更はないという”普通の”国同士の外交関係になるといことである。
さらに、バイデン大統領は、コロナ問題に始まり、国の分裂や中国との険しい対立など、あまりにも多くの課題に直面しており、中東問題、とりわけ、パレスチナ問題についての優先課題はかなり下になると予想している。トランプ大統領のように、イスラエルに関わってくれることはないということである。
3)善悪の外交から関係重視の外交へ
トランプ大統領の外交の基礎は、”Good or Evil(善か悪か)”であった。これに対し、通常の外交であり、バイデン大統領が目指すといっているのは、”disagreement or broken alliances(合意できないなら関係も壊れる)が基礎になると、Times of Israelは分析する。
つまり、これまでの4年間は、お互い、合意できなくても、善にむかって交渉し、おとしどころをともに探ってきた時代であった。これは、ネタニヤフ首相とトランプ大統領が、直接執務室から長電話で話ができたという条件があったから可能であったわけである・
しかし、これからは、オバマ時代のように、関係はあくまでも公式であるため、アメリカの方針と一致しない意見を持つネタニヤフ首相とアメリカの関係はただ冷え込むだけという流れになる。
予想される不一致は、西岸地区入植地問題。そして、最大の不一致は、イラン問題である。バイデン大統領は、イランが核合意に復帰できる対策を考えようとするだろう。イスラエルは、この方向での動きはいかなるものでも拒絶する。この点が、アメリカとイスラエルの関係における最大の崖っぷちになる。
これを避けるために、暗躍が期待されているのが、諜報機関モサドのヨシ・コーヘン長官。日本の戦国時代に、武将間を暗躍して水面下の交渉をした武将たちがいたが、コーヘン長官が、その役割を担い、イスラエルとアメリカの関係を、維持していくとみられている。
また、アメリカの新しい国務長官ブリンキン国務長官はホロコーストサバイバーを義理の父にもつユダヤ人である。今後、イスラエルとアメリカの関係がどう進んでいくのか、注目される。
www.timesofisrael.com/at-odds-on-iran-and-settlements-netanyahu-and-biden-can-still-avoid-a-brawl/