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トルコが2年ぶりにイスラエルへ大使を派遣へ
トルコは、かつて中東で唯一、イスラエルを国として認め、イスラエルとの関係を維持してきた国であった。ところがエルドアン大統領になってから、徐々にイスラム化がすすみ、ハマスを支援するまでに、イスラエルに敵対するようになっていた。
新しいところでは、10月末、トルコで大地震が発生し、多数の犠牲者が出た際、近くにいる隣国イスラエルは、支援を申し出たが、トルコは、これを断っている。約2年前、エルドアン大統領は、在イスラエルのトルコ大使を召還して以来、両国の政治的な国交は途切れた状態にあったからである。
しかし、実際面においては、トルコ航空は相変わらずイスラエルに出入りし、ビジネスの分野における両国の関係に大きな変化はないという微妙な状況が続いていたのであった。
ところが、エルドアン大統領が急に、イスラエルへの大使を任命し、3月に着任する見通しとなった。派遣予定のウスク・ウルタル大使(40)は、エルサレムのヘブライ大学卒業である。エルドアン大統領は、与党議員たちに対し、「イスラエルとは、パレスチナ問題、領土問題で合意できない点はあるものの、互いの関係は改善できるはずだ。」と述べたのであった。
エルドアン大統領の狙いは?
トルコ系イスラエル人で、トルコ政治、外交、イスラエルとの関係におけるエキスパートであるハイ・エイタン・コーヘン・ヤナロカク博士は、エルドアン大統領の方向転換について、次のように分析している。
①アメリカ新政権予定のバイデン氏への取り入り
アメリカの次期大統領と目されるバイデン氏がトルコのエルドアン大統領が、以前、中東のテロを支援しているので、野党を支持するべきだとの発言をしたことをニューヨークタイムスがリークしたことがあった。バイデン氏は謝罪したが、これにより、バイデン氏が本音を言った可能性もあることが明らかとなった。
またトランプ大統領は、トルコがロシアから最新式迎撃ミサイルS400を購入したことを受けて、今月、トルコに対する経済制裁を開始した。
このほか、トルコは、シリア内戦に関して、またトルコの歴史的アルメニア人虐殺問題などでもアメリカと対立しており、アメリカが、さらなる経済制裁を発動する可能性にも直面している。トルコとアメリカの関係は悪化の一途をたどっているだけでなく、トルコ経済にも大きな影を落としている。
アメリカとの関係回復が必須であり、政権が交代する前に、その中東窓口であるイスラエルとの関係を改善しなければならないと察したと考えられる。
大使派遣が3月という点について、ヤナロカク博士は、バイデン新大統領(予定)へのアピールとともに、イスラエルの総選挙(3月23日)の結果も見据えているのではないかと分析する。エルドアン大統領は、ネタニヤフ首相が退陣することを待ち望んでいるとみられる。
②イスラエルが中東で孤立した存在ではなくなっており、むしろトルコが孤立する傾向にある
イスラエルは、今、アブラハム合意で、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコと国交正常化をすすめている。サウジアラビアさえ、これに続く可能性がある。もはや、中東で、イスラエルは孤立しているわけではないので、かつてのようにトルコが唯一、イスラエルを認める国ではなくなっている。イスラエルと湾岸スンニ諸国がチームアップする中、トルコも対イスラエル関係を考え直す必要が出てきたのではないか。
また、アブラハム合意により、サウジアラビア上空を飛行できるようになった。これまでは、アジアからイスラエルへ到着するのは、ヨーロッパを経由するか、トルコ航空を使ってイスタンブールを経由するルートしかなかったといえる。しかし、まもなく、ドバイを経由して、サウジ上空からイスラエルへ到着するルートが可能になる。これはトルコ経済にとってが大きな脅威になる。
③ヨーロッパとの関係回復のため
トルコはアメリカだけでなく、ヨーロッパとの関係もギクシャクしている。今、地中海東部では、イスラエルのハイファ沖で発見された天然ガスをキプロス島、ギリシャを経由してヨーロッパに運ぶパイプラインの計画が進んでいるが、トルコがこれを妨害しているのである。
トルコのこうした行為をEUは、海上境界線妨害として深刻に受け止めており、対立が深まっている。これを解消するためにもイスラエルとの関係改善が必要と考えたのではないか。
今トルコは、イスラエルに対し、かなり譲歩した海上境界線の考えを発信するとともに、国民に対しても、イスラエルとの関係改善の流れをアピールしているとのこと。
④仲介者としてのアゼルバイジャンという使える存在がある
これまでの態度を一変する言い訳として考えられるのが、仲介者として名乗りをあげているアゼルバイジャンの存在がある。
アゼルバイジャンは、今年9月から11月に発生したナゴルノ・カラバフ紛争において、アルメニアとの戦いで国際的な批判を受けているため、イスラエルとトルコの仲介をして、その批判をかわす狙いがあるとみられる。
なぜアゼルバイジャンかというと、ナゴルノ・カラバフ紛争において、イスラエルとトルコは、別々ではあったが、どちらもアゼルバイジャンを支援したからである。
しかし、実際には、トルコとイスラエルは国交が一時中断しているだけで、関係回復に仲介者を必要としているわけではない。しかしトルコはこれを態度急変の言い訳に使ったいるとも考えられる。
イスラエルはどうする?
トルコがイスラエルへ大使を派遣するのに合わせて、イスラエルもトルコへ大使を派遣するかどうかは不明である。
またトルコはこれまでから何度も方向転換をしてきたので、これが真の方向転換かどうかを見極める必要がある。トルコ関係のエキスパートとしてヤナロカク博士はそのサインとして、ハマスとの関係をどうするのか、トルコがイスラエルを小さい悪魔と呼ぶのをやめるのかどうか、また、トルコが、子供達への教科書に、極端な親パレスチナの説明をしているのを改善するかどうかを確認しなければならないと語る。
アブラハム合意に続き、中東の勢力図は大きく変化している。今後も目を離さずに、お伝えしていきたい。