ベイルート大爆発後:レバノン市民の反政府デモ 2020.8.7

NYT スクリーンショット https://vp.nyt.com/video/2020/08/05/87837_1_vi-beirut-h_wg_720p.mp4

4日午後に発生したレバノンの首都、ベイルートの港での大爆発。これまでに明らかになった死者は、149人。負傷者は5000人。捜索救出は続いているので、数字はまだ増える可能性がある。ベイルート市内の病院は、救急車だけでなく、徒歩でやってくる負傷者であふれかえっている。ベイルートの外の病院にも搬送されているという。

爆発で家を吹き飛ばされてホームレス担った人は、30万人(ベイルート人口の10%)に及ぶと伝えられている。いわば、東京都墨田区在住者全員、ローカルな話だが、加古川市民全員がホームレスになったということである。

レバインは、国としては経済危機にあったとはいえ、ベイルート住民たちは、我々と変わらない、それなりに文化的な生活をしていた人々である。結婚写真を撮影している最中に大爆発を経験した人もいる。そうした人々が今、突然家を失い、厳しい酷暑の中、ライフラインもトイレも食料もない事態になっているのである。考えただけで、手が口にいくしかない。

この爆発の前からレバノンは、100万人以上のシリア難民、経済崩壊にコロナ危機と国難に続く国難にみまわれていた。その上にこの大爆発である。CBNニュースに答えたマルワン・アバウド・ベイルート市長は、泣き崩れていた。

BBCによると、ベイルートのこの港は、レバノン最大の玄関で、食料の80%はこの港から搬入されていた。レバノンは今、崩壊する危機に直面しているといえる。

市民の怒り噴出:ベイルート市内で反政府デモ

1)大爆発の原因:ずさんな危険物資の管理

今回の大爆発は、港に2014年から保管されていた、硝化アンモニウム2750トンが原因であったことがわかっている。

この硝化アンモニウムは、2013年にロシア船籍によってベイルートに保管されることになったものである。当時、キプロス在住のロシア人ビジネスマン、イゴール・グレチューシュキン氏が、この船で、肥料、または爆薬にもなる化学物質として、グルジアからモザンビーク(アフリカ)へ搬送する途中、追加のビジネスのためにベイルートに立ち寄った。

ところが、ベイルートで追加で船に乗せるものが重すぎて搬入できないことがわかった。港湾税が払えないということで11ヶ月も港付近に立ち往生したが、人道団体に「危険物資を搭載した船に缶詰になっている乗組員の命が危ない。」と訴えて、乗組員は船を降り、船は2014年、ベイルートの港に押収されたという。

www.timesofisrael.com/captain-astonished-to-find-out-his-ship-delivered-beirut-explosive/

以来、積荷であった大量の硝酸アンモニウムがこの港にとどまることになったのであった。以後、危険性が何度か指摘されたが、国も港も放置したということである。今回の大爆発を受けて、レバノン政府は、港湾関係者16人を逮捕。議員1人、在ヨルダン大使を逮捕して、調査をすすめている。

またTimes of Israelによると、イゴール・グレシューシュキン氏については、現在、レバノン政府の要請で、キプロス警察が事情聴取を行っているとのこと。

*他人事でないハイファの港

ベイルートの大爆発は、イスラエルの海の玄関口ハイファとその周辺住民を震え上がらせた。ハイファ港には、硝酸アルミニウムを含む800種類もの化学物質1万2000トンが保管されている。ハイファ市民たちは、これらの除去について14年も戦っているが、それらは今もハイファの港にある。

もし爆発した場合は、ハイファ市民だけでなく、ガリラヤ湖周辺にまで被害を及ぼすと言われている。専門家たちからは、すぐに危険はないとの判断が出されているが、周辺住民にとって、ベイルートの大爆発は全く他人事ではない。

www.ynetnews.com/article/BkQHVSF11P

2)市民による反政府デモ

レバノンでは、汚職などで国の経済を破壊されている政府への反発から、すでに暴力的な反政府デモが、各地で発生していたが、ベイルートでも大爆発の後に反政府デモが発生して、警察との暴力的な衝突になっている。

大爆発のあと、SNSには、政府への怒りが噴出した。ディアブ首相は、「この大爆発の責任者を必ず罰する」と述べたが、汚職にまみえれた政府を信用する市民は少ないとみられる。

ベイルートでは木曜、デモ隊が、議会に続く道で、治安部隊に石や火炎瓶を投げるなどして、治安部隊が催涙弾で対応したとのこと。今回はまだ小さなグループだったが、この土曜日には、「絞首台で(政治家の)首をくくれ」とする反政府イベントを計画しているとのこと。

www.timesofisrael.com/lebanese-police-scuffle-with-anti-government-demonstrators-enraged-by-blast/

なお、7日に予定されていた、前ハリリ首相暗殺に関係した4人の判決は、大爆発の後、国内がさらに不安定になることを防ぐためか、延期された。

www.timesofisrael.com/cyprus-police-question-russian-businessman-over-lebanon-disaster/

マクロン仏大統領ベイルート視察:国際社会の支援開始

レバノンは、かつてフランスが支配していた国である。今も多くのフランス人が在住しており、今回の爆発で多くのフランス人も被害にあっている。フランスのマクロン大統領は、最初の世界首脳として、6日、ベイルートの現地を視察、アウン大統領とも会談した。

マクロン大統領は、世界銀行、EU、国際社会をリードして、レバノンの復興に協力すると表明したが、腐敗した政治を改革することを条件にすると述べた。レバノンは、93億ドルもの負債を抱えているが、IMFが20億ドルの借款の条件として提案している経済改革を受け入れないままの状態が続いていたのであった。

www.nikkei.com/article/DGXMZO62403450X00C20A8EAF000/

国際社会は、続々とベイルートに支援物資や、消防隊、捜索隊、医療部隊などを派遣している。協力しているのは、ヨーロッパ諸国、オーストラリア、インドネシア、ロシア、アメリカなどである。イラク、カタール、エジプト、ヨルダンも野戦病院のための必要物資を送っているという。

www.theguardian.com/world/2020/aug/06/beirut-explosion-international-rescue-workers-fly-in-to-boost-search-for-survivors

アメリカは、支援物資がヒズボラの手に入るのではないかと懸念されていたが、最終的に6日、カタールの米軍基地より、大量の食料、水、医療資源などの搬送を開始した。また、ヒズボラの出方によっては少なくとも1500万ドル(15億円)を支援する計画だとのこと。

CBNニュースによると、レバノンのクリスチャンたちもボランティアを始めている。(添付映像最後の方)

www.timesofisrael.com/us-aid-begins-flowing-to-lebanon-in-wake-of-deadly-explosion/

イスラエルの支援申し入れに反発するレバノン市民

大爆発のあと、隣国であるイスラエルは、すぐに支援物資の搬入と、医療支援、また患者をイスラエル国内で治療すると3つの病院が申し出た。しかし、レバノン政府からは音沙汰なし。

テルアビブ市役所は、レバノン市民の苦しみに寄り添うとして、建物をレバノン国旗にライトアップした。するとレバノン人たちがSNSで「これまでレバノン人を多く殺してきてどういう神経だ。」といった怒りの声が、SNSに殺到した。

www.timesofisrael.com/theyll-destroy-our-country-lebanese-unmoved-by-tel-aviv-show-of-solidarity/

残念だが、緊急事態での捜索、医療のエキスパートであるイスラエルは、すぐ近くにいるというのに、今のところは蚊帳の外ということになった。

www.timesofisrael.com/rebuffed-by-lebanon-israelis-seek-workarounds-to-get-help-to-beirut/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。