イスラエルがベイルート空爆:ヒズボラのラドワン部隊作戦司令官イブラヒム・アキル死亡 2024.9.21

ベイルートの空爆で死亡した、ヒズボラのラドワン部隊作戦司令官イブラヒム・アキル(左)(Hezbollah media office)

イスラエル北部へヒズボラが200発のロケット弾発射

2日に及ぶ、通信機器連続爆発に続いて、イスラエルは19日、レバノン南部のヒズボラ関連地点を大規模に空爆。100基以上の充填済みロケット弾発射台とロケット弾1000発以上を破壊した。

これに対し20日、ヒズボラは、イスラエル北部のツファット、上ガリラヤ地域、ゴラン高原などに150〜200発のロケット弾を発射した。

この攻撃で、ツファットの公園付近から大規模な火災が発生した他、国境付近の町メトゥラの家屋50軒が破壊された。

メトゥラの人々は避難中だが、これまでに300家屋、50%近くが、ヒズボラに破壊されたことになる。幸い、南レバノン在住の人々も避難しているため、一般市民の死傷者は、レバノン側でも発生していない。

以下はメトゥラの様子を見に行った元住民たち

www.jpost.com/breaking-news/article-821015

ネタニヤフ首相は、今週予定されていた渡米をキャンセルした。また、防衛相交代の物議となっていたが、それも今は、棚上げ状態となっている。

イスラエルがベイルート空爆でヒズボラ重要作戦指揮官死亡:ガリラヤでの10月7日を阻止

September 20, 2024. (Reuters / Mohamed Azakir)

これに対し、20日、イスラエルは、レバノン南部各地のヒズボラ関係地点への反撃を行った。

また午後には、レバノンの首都ベイルート南部のヒズボラの本拠地として知られる、ダヒヤで、ヒズボラ幹部たちが、アパート地下2階で会議をしていることを察知。

すぐにF35戦闘機で、この建物を4回空爆した。アパートは大破し、破壊は地下2階にまで到達した。

(Hezbollah media office)

イスラエル軍は、この攻撃で、ヒズボラのラドワン部隊トップ、イブラヒム・アキル(63)と、シニア幹部ら約20人が死亡したと発表した。

ヒズボラは、後にアキルの死亡を認めるとともに、共にいて死亡した高官15人の名前をあげた。

*死者数については、レバノン保健省が、その後、31人で子供も含まれる等、ニュースが出ている。まだ増える可能性がある。

IDFのハガリ報道官によると、アキルは、ヒズボラのラドワン部隊の総司令官で、ハマスの10月7日のイスラエル侵攻を監視していた。

同様に、北部国境からイスラエルへのヒズボラメンバーを侵攻させる「ガリラヤ征服計画」立案し、すすめていた人物だった。

イスラエルが、レバノンの首都ベイルートでの暗殺に踏み切るのは、これで3回目。

1回目は、今年1月にハマスNo2のアル・アロウリを、7月に、ヒズボラ軍部副長官のファウド・ファクリを暗殺していた。ヒズボラのナスララ党首は、ファクリに続いて、もう一人右腕的存在を失ったことになる。

www.timesofisrael.com/idf-kills-hezbollahs-top-commander-says-he-was-overseeing-plan-for-invasion-of-galilee/

この作戦は前から計画していたものではなかったが、緊急の情報を得て、ネタニヤフ首相含め、政府関係者も同意の上、軍が攻撃に踏み切ったとのこと。

ネタニヤフ首相は、予定されていた訪米をキャンセルした。また問題となっていた防衛相交代についての物議は、とりあえず、棚上げになったようである。

*アメリカが報奨金700万ドル指名手配の超大物テロリスト:イブラヒム・アキル

今回死亡したイブラヒム・アキルは、相当な大物のテロリストだった。アキルはその後、1960年代にレバノンのベッカー高原に生まれで、現在63歳。

若い時にシーア派組織アマルに入り、その後、1982年(イランのイスラム革命の3年後)に結成されたヒズボラの創設者の一人となった。

関連する事件としては、ベイルートでは、1983年に、アメリカ大使館とアメリカ海兵隊宿舎でのテロで計約300人が死亡したが、アキルはその首謀者とみられる。

southern Lebanon, May 21, 2023. (AP Photo/Hassan Ammar)

その後もタフシンやアブレルカデルといった別名を使いながら、活動を続けた。

ヒズボラでは、最高軍事組織、ジハード評議会の2人目メンバーで、ヒズボラを民兵組織から、本格的な軍事、政治組織へと変貌させた一員である。

2000年にイスラエルがレバノン南部から撤退すると、その地域でヒズボラが勢力を拡大し、2006年にはイスラエルとの戦争にもなった。アキルその時も指導者であったということである。

(US State Department / AFP)

その後、2019年には、レバノンで、ドイツ人とアメリカ人を人質誘拐事件を起こしたことから、アメリカは、この時からイブラヒム・アキルに報奨金700万ドルで指名手配していた。

www.timesofisrael.com/who-was-ibrahim-aqil-the-slain-hezbollah-commander-wanted-for-83-beirut-barracks-blast/

アクリ暗殺に関するイスラエル軍の声明

IDFのハガリ報道官は、ベイルートでアキルの焦点の当たった暗殺を実施したことについて、20日、声明を出した。

ハガリ報道官は、ヒズボラは、国際的にテロ組織として認識されており、イスラエル人、レバノン人、中東、全世界にとっての脅威であると強調した。昨年10月7日以降、8000発以上に及ぶロケット弾や爆発型ドローンを発射し、イスラエル人を殺そうとしたとした。

イスラエルの治安部隊は、イスラエル市民の命を守り、避難を余儀なくされている国境6万人が無事に帰宅できるようにしなければならない。

アキルたちは、ガザのハマスのように、ガリラヤへの侵攻を計画していた。このため、ベイルートで、焦点を絞ってイブラヒム・アキルの暗殺に踏み切った。

今回、ヒズボラのトップ、ラドワン部隊のエリート司令官たちが、レバノン市民の間で、人々を盾にして会議をしていたことが明らかになったように、アキルの手には、イスラエル人はじめ実に多くの人々の血が染み付いていると訴えた。

最後に、イスラエルは市民の命を守る。また人質を取り戻すと共に、ガザの安全を確実なものにするという目標を達成するまでである、とヒズボラとハマスを一つにみるかのように語った。

ここからどうなるのか:国際社会からの警告

今後どうなっていくのだろうか。報道によると、ヒズボラは、ポケベルが爆発する数時間前まで、メンバーにその機材を配布していたという。イスラエルのしていることに全く気づいていなかったということである。ヒズボラは、今や効果的な連絡経路を持っていない。

トップ指導者たちが20人近くも死亡したこともあり、アラブ諸国は、ヒズボラは弱体化しているとみているとのこと。

このまま弱体化するか、イランの助けですぐにも回復し、さらに大きな攻撃になっていのか。もしかしたら、今の短い時が、これからの展開の方向を決める瞬間かもしれない。

国際社会は、いよいよイスラエルとヒズボラの戦闘から、中東へと拡大していくことを懸念している。

国連は、大惨事になると警告。アメリカは指名手配のアキルが死亡したことについて、これを悲しむ者はいないとしながらも、死者が出ることには合意できないして、外交的な努力を訴えている。

(photo credit: Bertrand Guay/Reuters, Canva, REUTERS/Nir Elias/Pool)

レバノンと歴史的にも関係が深いフランスのマクロン大統領は、19日にレバノンの大統領と電話で沈静化を求めたのに続いて、20日には、ネタニヤフ首相とも電話をかけた。

マクロン大統領は、ネタニヤフ首相に、「あなたの行動が地域を戦争へと押しやっている。

今あなたはそれを止める責任をもっている。今リーダーシップと責任を見せるときだ」と語ったという。

www.jpost.com/israel-hamas-war/article-821073

これに対し、ネタニヤフ首相は、「私たちの目標は明らかだ」として、ヒズボラとの徹底的な戦闘を主張した。強硬な姿勢が国際社会にどうみられるか懸念される。

2週間前になるが、イギリスが、自国の武器がガザで使用されることの合意できないとして、30項目にわたるイスラエルとの武器供与の契約を一時停止すると発表した。

今後、他国がこれに続く可能性が懸念される。

www.jpost.com/israel-hamas-war/article-817548

石のひとりごと

毎日毎日、なかなか緊張である。イスラエルが、どんどん戦闘に入っていくのは、確かに必要にせまられてのことである。

しかしながら、ではどこまで戦えばいいのか、その最終地点が見えない。敵はたたけばたたくほど、怒りをもやして、さらに戦いを挑んでくるだろう。まったくキリがない。

とはいえ、今停戦してしまうことに解決があるのかといえば、ないとしかいいようがない。悪くなる一方である。こうした実情を国際社会は理解せず、いよいよイスラエルは理解者を失い、孤立を深める気配である。

ガリラヤ北部地方やゴラン高原の住民は、毎日サイレン。シェルターの中に出たり入ったりの生活である。

それ以外のイスラエル市民は、とりあえずは、通常の生活を続けている。ただどの人も、家族や友人知人に従軍している人がおり、知人の中に戦死者を知らない人はない。負傷兵の数も膨大で、社会復帰が問題になっている。経済も心配だ。

イスラエル人は、海外に家族親族、また仕事を持つ人も多い。今また、海外への出入りが問題になっている。先日、今週末に日本へのフライト(外国航空会社)に乗るはずだった知人が、フライトがキャンセルになったと言っていた。

唯一飛び続けているイスラエルのエルアル航空のチケットは、価格がかなり高い。少し前だが、戦争で、独占状態になって価格が高騰していることが、イスラエルでも問題になっていた。

知人によると、今も、キャンセルになった便の代わりに、エルアル航空を取ろうとすると、ビジネスクラスしかなく、4000-5000ドルもするとのことであった。いったんエルアルで、ヨーロッパまで出て、そこから日本へ飛ぶ海外便を探すとのこと。

死亡したヒズボラのシニアメンバーの一人:アフマド・ワディ

また今回、ベイルートへの攻撃で死亡したヒズボラのシニア高官たちの写真を見ると、笑顔がやさしい普通のおじさんもいた。

場所や時代が違っていれば、平和にイスラエル人たちとも友達になれそうな顔である。

その顔を見ていたらなんとも、戦争のむなしさというか、ばかばかしさを感じてしまった。

平和なところにいる第三者が、何も言えないのだが、イスラエル人も、ヒズボラに染まってしまったレバノン人も、ハマスに染まったパレスチナ人も、本来なら普通の生活をしている普通の人々だった。

だれがいったい、戦争に持ち込んだのか。背後にいるサタンへの怒りを感じる。

わずかな力にもなりそうもないほどの祈りだが、主にこの状態を何とかしてくださいと言うしかない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。