3回目総選挙か直接選挙か 2019.11.8

イスラエルでは2回目の総選挙が行われたが、3回目になる可能性が高まってきた。これを避けるため、ネタニヤフ首相とガンツ党首の一騎打ちちとなる直接選挙の可能性が出てきている。経過は以下の通り。

<連立権限:ネタニヤフ首相からガンツ党首へ>

9月17日の2回目総選挙後。リブリン大統領は、リクードとブルーアンドホワイトにより国家統一政権の立ち上げを望んだが、両者がそれを受け入れることはなかった。このため、リブリン大統領はやむなく、まずネタニヤフ首相に、連立形成の権限と任務を与えた。

ネタニヤフ首相は、ガンツ氏に、リクードとブルーアンドホワイトの2党による統一政権を持ちかけたが、ブルーアンドホワイトのガンツ党首が、これに応じることはなかった。このため、ネタニヤフ首相は、立ち上げ期限(28日間)が終了する2日前、仮庵の例祭が終わるや否や、リブリン大統領にこの権限を返上した。

これにともない、リブリン大統領は、23日、ブルーアンドホワイトのガンツ党首に連立形成を任命。ガンツ氏は、ブルーアンドホワイトと、リクード(ネタニヤフ首相以外の党首)、イスラエル我が家党(今回の混乱のきっかけを作ったリーバーマン氏)の3党による連立政権を目指すとみられた。

28日、ガンツ氏は、テルアビブにて、ネタニヤフ首相と会談。ネタニヤフ首相は、リクードが党首の首をすげ替えることはないこと、また、リクードに極右政党とユダヤ教政党も加わって、ネタニヤフ首相が立ち上げた右派ブロック(55議席)も崩れることはないと強調した。

ネタニヤフ首相を辞任させること、ユダヤ教政党抜きの連立を立ち上げることが、公約であるガンツ氏がこれに応じることはできない。両者は、近い将来また会談するということで合意した以外、なんの合意にも達することはできなかった。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5614416,00.html

<ガンツ氏のジレンマ:イスラエルにアラブ政党の政権入りはありえない>

ガンツ氏がとりうるオプションとしては、過半数に満たないマイノリティ政府(ブルーアンドホワイト、イスラエル我が家、労働党)を立ち上げ、国会において、アラブ統一政党の支持を得ながら進めるという道がある。

ガンツ氏は、28日、アラブ統一政党のアイマン・オデー氏らと会談。国会での支持だけでなく、アラブ政党が連立政権に入る、つまりは、アラブ人がイスラエルの閣僚になることもありうる状況にあることが明らかになった。

www.timesofisrael.com/arab-mks-meet-with-gantz-call-for-real-diplomatic-process-with-palestinians/

しかし、アラブ統一政党に頼る政治が、ユダヤ人の国としてのイスラエルの益になるとは考えにくく、中道左派とはいえ、シオニストを自称するブルーアンドホワイト自身の方針にも反することになる。

次なる可能性は、国家統一政権を、リクードのネタニヤフ首相とともに立ち上げ、まずはガンツ氏が2年間、先に首相となる。

その間、ネタニヤフ首相には、自身の汚職疑惑に関する起訴問題に集中してもらい、もし疑惑が晴れたら、後半の2年間はネタニヤフ首相が首相となるという道である。しかし、ネタニヤフ首相は、これを拒否しているわけである。

このままいけば、3回目総選挙にならざるをえなくなるが、3回目もまた結局同じことになるのは目に見えており、前代未聞、4回目総選挙になる可能性も否定できない。

*故ラビン首相メモリアルでガンツ氏メッセージ

2日安息日明け、テルアビブのラビンスクエアでは、故ラビン首相(労働党)のメモリアルが今年も行われ、群衆がスクエアを埋め尽くした。テルアビブの世俗派に支援者が多いガンツ氏も、この式典でメッセージを述べた。

ガンツ氏は、故ラビン首相が、自身と同じ元イスラエル軍参謀総長であったことを強調。ラビン首相が、1994年のヨルダンとの和平条約締結にあたり語ったメッセージに自らを投影して、「平和への戦い」を導くと宣言した。

しかし、ラビン首相は、言うだけでなく猛烈な実行者であったことから、ガンツ氏には、まだそこまでの動きは見えないとする冷えた意見もある。また、右派に傾く世論の中には、ラビン首相とアラファト議長との和平が、結局はテロにつながったとして、ラビン首相のこの動きを評価しない人も少なくない。

www.timesofisrael.com/hearing-gantz-at-memorial-rally-participants-say-hes-no-rabin-but-could-be/

<ネタニヤフ首相:3回目総選挙への対策開始か>

ネタニヤフ首相はすでに3回目総選挙を見据えているとみえる動きに出始めている。チャンネル12によると、ネタニヤフ首相と、ナフタリ・ベネット氏(元教育相)が最接近しているという。

ネタニヤフ首相は、4月、総選挙で、ユダヤの家党がまさかの最低投票率を獲得できなかったことからベネット氏と、その相棒で法務相であったシャキード氏を政府閣僚から辞任させた。これにより、ネタニヤフ首相の味方になりうる右派勢を失ったとも指摘されていた。

そのベネット氏に、今、この時になって、ネタニヤフ首相が近づいているということは、3回目総選挙になった際に味方を増やしておくともみえる動きである。

www.timesofisrael.com/netanyahu-said-considering-reappointing-bennett-to-cabinet/

*まだ検討中?ネタニヤフ首相起訴かどうか

ネタニヤフ首相の汚職疑惑とそれに対する起訴については、実に延々と話題になるが、いっこうになんらかの決断に至るということにはまだなっていない。

ネタニヤフ首相の起訴を決めるのは、マンデルビット司法長官であるが、どうやら今月末までには、その決断を発表するとみられる。

それまでの間に、仮に3回目の総選挙になった場合、たとえ起訴されていたとしても、ネタニヤフ首相は、リクード党首として選挙を導くことに法的な障害はない。しかし、いざ首相になるとなれば、起訴内容をクリアされている必要があるという。

リクードが、この問題から、党首選を行うとも言っていたが、今の所、その動きもない。汚職はあっても国にとって必要な人物でもあるとみえ、司法長官も苦渋の決断のようである。

そのネタニヤフ首相だが、10月21日、70歳の誕生日を迎えた。11月3日には、エルサレムのクリスチャン・メディア・サミットでの演説を行った。13年以上首相を務め、イスラエルを安定した状態に導いたと自負する様子には、やはり他の比べようのない不動の貫禄を感じさせるものであった。

<ネタニヤフかガンツか:直接選挙の可能性>

3回目になる総選挙は、コストがかかるだけでなく、3回目も2回目と同じ結果になるとみられ、どこまで意味があるのかはわからない。そこで、選択肢としては、リブリン大統領が、3人目のだれかに連立政権立ち上げを任せるという選択肢である。

3人目とは、たとえば、リクードのエデルステイン氏(現国会議長)や、リクードでネタニヤフ首相に次ぐリーダーであるギドン・サル氏や、イスラエル・カッツ氏などである。この場合、すぐにでも国家統一政権が立ち上がるとみられるが、強いリーダーシップは期待できず、すぐに解散してしまう可能性が高い。

このため、今、イスラエルで議論されているのが、ネタニヤフ首相とガンツ氏の一騎打ちとなる直接選挙である。これを提案したのは、ユダヤ教政党シャスのアリエ・デリ党首である。

イスラエルは、1996年、1999年、2001年にも直接選挙を経験しているが、この方法では安定した政権にならないため、国民が政党に投票し、国会の議席数で決める方法が基本として、法的にも戻されたのであった。

今回、また直接選挙となると、法律を新しくするところから始めることになるが、今の所、ネタニヤフ首相はこの案には同意しないと言っている。

直接選挙になった場合、ネタニヤフ首相対ガンツ氏であるが、チャンネル12の世論調査では、ネタニヤフ首相支持は40%、ガンツ氏支持は36%となっている。

www.jpost.com/Israel-News/Should-we-expect-a-political-breakthrough-this-week-analysis-606718

ガンツ氏の連立立ち上げ期限が切れるのは、11月18日。3回目総選挙を避けられるかどうか。注目されるところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。